終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ①

「隊列をくずすな! 標的と味方のきよを考えながら動け!」


 その日も朝から僕らは訓練にはげんでいた。

 やかましい教官の声が耳をく。

 ここは東部第一星浮島ノアにある防衛軍が保有する訓練せつの野外グラウンド。

 わたせばそこかしこにえいかくとがった岩のような標的がいくつも置かれている。標的はけつしようこうかくと呼ばれるほしくずじゆうがいかくだ。

 けつしようこうかくかいするための武器──スターライトを手に僕らは標的めがけてけていく。味方の動きをあくしながら、それぞれ標的を包囲するように回り込み……、


「こらリュート! お前はあくまでサポートだ。前に出すぎるなと何度言ったら──」


 教官のごえを無視して標的へとむ。

 眼前にせまった標的に、手にしたスターライトたたきつける。

 だが金属同士をぶつけたようなかんだかい音とともに、ろしたスターライトは標的のけつしようこうかくはじかれてしまった。かたい石をたたいたようなかんしよくに手がしびれる。わずかに動きの止まった僕の横をまばゆい光がすりけていった。


「あんたもりないわね。でもこの役目はあたしに任せなさい」


 地をり飛び上がった女性のにぎけんさんぜんと光を発している。

 それは人類の敵をたおすための光。僕らの希望の光だった。

 空中で身をひねりながら彼女は光をまとったスターライトるう。

 先ほど僕が感じたかたさがうそのように、標的のけつしようこうかくがあっけなくくだった。

 標的をかいしたのはレイン・セラスリア。スターライトの使い手を養成するこの訓練せつで成績最上位、僕より二つ年上の十七歳の女性だ。

 キラキラとしたへんる中、あざやかなきんぱつをなびかせてゆうに着地するレインを僕がじっと見つめていると、


「リュート、ほしくずじゆうの強さの最たる要因がなんだか言ってみなさい」


 刀身の光が静かに消えていくスターライトを下ろしながら彼女がこちらに顔を向けた。



 するどまなしに、僕はしぶしぶ口を開く。


「……ほしくずじゆうの強さは、そのかたさだ。けつしようこうかくおおわれた全身はもちろん、さらにそのさいおうにあるほしくずじゆうの心臓部とされる『せいがい』は、きたげられたけんや鋼鉄のおのだけでなく火薬武器ですら傷つけられない。『せいがい』をかいできるのは、同じく『せいがい』を利用して造られたこのスターライトだけだから」


 返答を聞いたレインが小さくうなずく。


「わかっているなら、どうしてあんたが前に出るのよ」

「そんなの決まってる。僕がほしくずじゆうたおすためだ」

「あのねぇ、『せいがい』をかいできるのは、使用者と調力を発揮したスターライトだけ。いくらあんたにけんうでがあっても、あんたはまだスターライトと同調できてないんだから、サポートにてつしなさいよ」


 あきれた顔でレインはため息をした。

 空から降ってくる異形の生物『ほしくずじゆう』。

 それは四足歩行であったり、無数のきやくであったり、足はなく縦長のどうたいだけであったり、あるいは羽が生えていたりと、姿かたちは様々だ。共通しているのはひかかがやけつしようこうかくという非常にかたたいの持ち主ということ。

 あらゆる兵器が通用しないほしくずじゆうたおそうと、かつて地上の人類が造りあげた兵器。それがスターライトだ。

 すべての生物には生命力──『たましいかがやき』があり、同調した使用者の『たましいかがやき』をスターライトせいがいそそむことによってエネルギーをぞうふくさせ、けんとしてのりよくを高めていると推測されている。

 一説によるとほしくずじゆうは、生物の血肉ではなくこの『たましいかがやき』を食べて活動しているのではないかといわれている。ほしくずじゆうの心臓部である『せいがい』が本能として『たましいかがやき』を求めているから、生物の多い地上に落ちてきたらしい。だからこそ『たましいかがやき』を取り込んだスターライトは無類の力を発揮するのだ、と。

 他にもほしくずじゆうの生命の源である『せいがい』はただかたいだけでなく、それまで地上になかった未知のエネルギーを生み出す物質であった。僕らが住むこの空飛ぶ島も、中心部にまれたせいがいのエネルギーで空にかんでいるくらいだ。

 かつての地上文明が編み出したせいがいを根幹とするせいれん技術。だがその高度で複雑すぎる技術体系のほとんどは地上に置き去りにされ、二千年後のこの空の上では部分しか残っておらず、すべての解明にはいたっていない。

 だから現在空の上で造られるスターライトは、かつて地上で造られたものに比べればその質は数段おとる。

 それでも他に戦う術がない以上、僕らはこの未知の兵器にたよらざるをえなかった。

 現在、僕が手にしているのは訓練用のスターライト。訓練用とはいえ使用者と同調することでかがやきを放ち数段切れ味が増すのだが、僕はまだ一度も光らせたためしがなかった。


「じゃあ、レインが同調の仕方を教えてよ」

「こればっかりは言葉では言い表せないわね。スターライトとのあいしようとも言われているし。意外だったわ。あのえいゆうヒナの弟なのに同調できないなんて」

「姉さんは姉さんで、僕は僕だ」


 強い語調で言い放つ僕に、レインがまゆをひそめる。


「自覚しているならたけに合った戦い方をすれば?」

ちがうよ。姉さんのことはほこりに思ってる。でも僕は、姉さんの弟なんて存在じゃいやなんだ。いつか姉さんをえる存在になる。それが僕の戦う理由だ」