終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ②

 えいゆうと呼ばれたヒナ・ロックハート。

 僕の姉さんである彼女は、もういない……。


「今回の訓練はここまで! 各自きゆうけいに入れ。ただしリュートはこっちへこい!」


 話していると教官のせいがとんできた。

 レインは僕のかたをポンとたたき、


「ほら、呼んでいるわよ。えいゆうの弟じゃない、だれかさんを」


 いたずらっぽいみをかべる。


「うるさいな」

「せいぜいがんりなさい。同調さえできるようになれば、あんたは立派な戦力になるわ」


 ひらひらと手をる彼女からはなれて教官のもとへとむかう。

 案の定、教官からはレインと同じような説教を受けた。

 つまらない説教をきつける風とともに聞き流す。

 小高いおかの上にある野外グラウンドからは、僕らの住む世界がよくわたせた。せまい土地にこれでもかというほど建物を密集させた居住区域。そのむこうには緑の森や平地が広がっていて、さらにはるか遠くに目をやると……。

 大地はそこでれていた。

 見上げれば青い空が広がっていて、眼下には雲が流れている。

 かつてほしくずじゆうに地上をじゆうりんされた人類は、空にかぶきよだいな人工島『星浮島ノア』を造った。

 きよだいといっても、地上という広大な大地に比べればきわめてせまい土地である。だがそこしか人々の生きる場所は残されていなかった。打ち上げた百個の星浮島ノアとともに、人類の生活の場は空へと変わった。

 そうして空の上に住むことになった人類だが、現代でも時折空からほしくずじゆうが落ちてくる。

 ほしくずじゆうから人々を守るため、数少ないスターライトをより有効に活用するため、防衛軍では訓練せつを作り若い人材の育成に努めていた。

 現在の訓練生は僕をふくめて十八名。最年少は十五歳の僕。一番上は

 スターライトの使い手となるべく厳しい訓練の日々を過ごしているが、全員がスターライトの使い手となるわけではない。訓練用のスターライトとはちがい、ほしくずじゆうとのせんとうえうるほどのスターライトには限りがあり、訓練生の中から使い手はさらに厳選される。

 訓練を終えたみんながきゆうけいに入る中、僕が教官にガミガミおこられていると、見知った顔が近づいてきた。


「元気そうだなリュート」


 僕のであり、防衛軍では司令補佐官の役職にいているクーマンだ。

 両親を早くにくし、身寄りのない姉さんと僕を引き取って育ててくれた恩人でもある。すでに中年にかっているクーマンだが、その顔立ちは若々しくせいかんさを保っていた。

 僕をしかっていた教官は仲間を得たとばかりにクーマンに話しかける。


「ちょうどよかった。クーマン司令補佐官からも言ってやってくださいよ」

「どうした?」

「リュートのやつ、動きやけんはたいしたものなんですが、スターライトと同調できないくせにすぐ前に出たがるんですよ。『自分がほしくずじゆうたおすんだ』って息巻いて。ほしくずじゆうが空から落ちてきたときの対応は、基本的には星浮島ノアから落とすことだってのに」


 ほしくずじゆうのほとんどは空を自在に飛ぶことができない。まれに羽の生えた個体もいるが長時間の飛行はできず、一度高度を落としてしまえば再び星浮島ノアまでじようするほどの飛行能力を持ち合わせていないので、やつらは地上目がけて落ちていく。

 だから非常にかたたおすことが困難であるほしくずじゆうを無理に相手にする必要はなく、スターライトを使っての星浮島ノアがいえんへのゆうどうと大型火薬兵器によるいつせいしやげきほしくずじゆうを島から落とすことこそが、がいを最小限に食い止める方法とされていた。

 クーマンは小さく息をき、僕を見つめる。


「相変わらずのようだな」

「まさか僕に小言を言いに来たわけじゃないでしょ。なにしに来たの? もしかして……」


 だんは司令部に務めていて訓練せつに顔を出すことがめつにないクーマンがここにいるということは……。

 期待のまなしを向ける僕にクーマンは静かにうなずいた。


「技術隊からの朗報だ。新たにスターライトが一本完成した。名はスターライト『ポラリス』。訓練用のけんではない、実戦用のスターライトだ。使い手は訓練生の中から選ぶ。ここを出た後の配属先は第二特務隊。ギニアスが隊長をやっているところだ」


 スターライトほしくずじゆうせいがいから造られるため気軽に大量生産できるものではなく、実戦で使えるスターライトとなるとさらに貴重なものとなる。

 クーマンの訪問理由は予想通り、新たなスターライトの完成にともなう使い手選びだった。だが話の後半部分に僕は息をんだ。

 空から落ちてきたほしくずじゆうに対処する役目をになうのが、星浮島ノアの防衛軍。

 最も人員の多い防衛総隊は、スターライトを使ってのゆうどうほうげきによってほしくずじゆうを島から落とす実行部隊であり、人の住む星浮島ノアごとに第一から第二十防衛隊まである。その他にもほしくずじゆうの落下を予測する観測隊や、ほしくずじゆうの生態を研究する調査隊、スターライトなどの兵器開発を担当する技術隊などがある。

 しかし防衛軍の中でも通常の防衛部隊と一線を画すのが、特務隊だった。なかでも第二特務隊の役割はほしくずじゆう星浮島ノアから落とすことではなく、ほしくずじゆうせんめつを目的とした部隊である。

 主にほしくずじゆうが落ちてきた場所ががいえんまで遠い場合や、居住区画などに落ちてきて住民のなんが間に合わない場合は、ほしくずじゆうと真っ向から戦わなければならない。

 そのため第二特務隊には特別なスターライトが配備されている。かつて地上の技術で造られたとされるスターライトで、現在空の上に残っているものはたったふたり。そのうちの一つ、古式一等星輝剣フアーストスターライト『アルタイル』はここ数年、第二特務隊隊長が使用し星浮島ノアを守ってきた。