ただ今までに数多の星屑獣を倒してきた第二特務隊だが、近年では星屑獣を倒した実績よりも、最も多くの犠牲を出している部隊としてその名が知られていた。
乾いた唇を僕はそっと舐める。
配属先が危険な部隊だから臆しているとか、そんなことじゃない。
第二特務隊は、かつて英雄とされた姉さんが率いていた部隊だった。
真っ直ぐにクーマンを見つめて僕は宣言する。
「新しい星輝剣は、僕がもらう」
ここで第二特務隊に配属され、たくさんの星屑獣を倒して認められれば、いずれ姉さんと同じ古式一等星輝剣アルタイルを引き継げる。これは僕が姉さんを超えるための階段を上る、またとない機会だ。
けれどクーマンは静かに首を横に振った。
「星屑獣と戦うのはお前にはまだ早い」
「姉さんは十五歳で星輝剣の使い手として戦っていたよ」
「ヒナは特別だった。お前が同じことをする必要はない。それにお前はまだ星輝剣と同調できないのだろう?」
じっと見据えられた僕はかろうじて問い返す。
「じゃあ今度の星輝剣は、誰が使い手になるのさ?」
「ここでの訓練成績を鑑みるに、レインが第一候補として挙がってはいる」
「納得いかないね。反撃してこない標的相手の成績なんか、意味ないでしょ」
実際の星屑獣を用意することができないのだから仕方ないのだが、単純な星輝剣との同調ばかりが評価される訓練はどうにも釈然としないものがあった。もちろん星輝剣との同調は大事だ。けれど星屑獣と戦うということは、もっと様々な要素が必要なはずなのだ。
「ギニアスもお前と同じことを言っていたよ。敵からの反撃がない戦いなど、戦いではない、とな」
こめかみを押さえてため息をついたクーマンが続ける。
「よって明日に訓練生同士の模擬戦を行い、それを参考に使い手を選ぶ。今日はそのことを伝えに来たんだ。実戦を想定した戦いだ。刃引きした訓練用の剣を使うとはいえ、星輝剣に変わりない。一瞬でも気を抜けば大怪我を負うことになるだろう。覚悟して臨め」
心の中で僕は小さく拳を握る。姉さんの跡を継いだ隊長が僕と同じ考えだということに、なんだか背中を押された気分だ。
こうしてはいられないと、僕は訓練用の模擬星輝剣を握り直す。
「それから、リュート。くれぐれも無茶はするなよ」
背中にかけられたクーマンの言葉に、僕は振り返らなかった。
僕には目指すものがある。誰もが認める英雄になるんだ。
かつて英雄と呼ばれ、今はもういない姉さんのように……。
夕刻。
着替えを終えた僕が更衣室を出ると、他の訓練生たちが談話スペースで雑談に興じていた。昼間クーマンが持ち込んだ話題について、みんなが口々に言い合っている。
「新しい星輝剣ってどんなのだろうな」
頭の後ろで手を組んだ長髪の男の声に、隣に座る切れ目の男が苦笑した。
「使い手には憧れるけど、配属先があの第二特務隊だろ。いきなりあそこに配属はきっついな」
「やっぱり欠員が多いから補充要員が欲しいんでしょ」
対面で本を読んでいた瘦身の男の口ぶりはどこか他人事のようだ。
テーブルに頰杖をつく眼鏡の男がぼやくように言う。
「隊長がギニアスさんになってからパッとしないよなぁ。星屑獣も死傷者出しながらかろうじて倒してる、って雰囲気だし……三年前の戦いも、あり得ないくらいの被害が出たし……」
「以前は有望株が集う華やかな部隊だったのにな。いまや不人気部隊の一番星だ」
誰かが口にした一言に、ゲラゲラと笑い声が連鎖した。
「そりゃ誰だって死にたくはないだろ」
「それより先に明日の模擬戦でポックリ死なないようにしろよ」
「明日はどうせレインで決まりなんだ。怪我しない程度に流してやれば──」
その言葉を遮って、
「怖いなら、辞退すればいい」
僕が声を発すると、視線が一斉にこちらに向いた。
「なんか言ったか?」
集まる視線を前に僕は毅然と答える。
「だって配属先が第二特務隊ってのは、チャンスじゃないか。死傷者が多いのなら、僕が入って犠牲を減らすことができる」
「なんだよリュート。やけに自信があるみたいだな」
僕を見る長髪男のニヤついた視線が鬱陶しい。
自信じゃない、これは覚悟だ。
お前たちみたいな生半可な覚悟で、僕は星輝剣の使い手を目指しているんじゃない。
長髪男を、僕は真っ直ぐ見返した。
「真っ向からねじ伏せてみせるよ。レインだろうが、星屑獣だろうが」
「星屑獣を真っ向から? お前なに言ってるんだよ。第二特務隊の役目は例外だろ。あくまで俺らは星屑獣を外縁部から落とすのが目的だろうが。星輝剣と同調できないお前が訓練生としてここにいることができる理由もそうだろ。わざわざ戦って倒す必要がないからだ。隊列を組んで星屑獣を誘導して落とし、被害を最小限にする。人も土地も、空の上の限られた資源をこれ以上減らさないために、俺たちは戦うんだろうが」
「星屑獣を外縁部から落とす? 限られた資源を守るため? のん気なもんだね」
教科書通りの高説を聞かされ、うんざりしたように僕が嘆息すると、長髪の男は露骨に眉をひそめた。
「なんだって?」
「空には幾千万の星が存在していて、そのすべてが敵かもしれないんだよ。現状維持で満足してたら、いずれ人類は滅びるよ」
「だったらどうするんだよ?」
問われた僕は、瞳に強い決意を込めて断言する。
「僕はたった一人でも星屑獣を倒して、そして地上を取り戻す」
直後、周囲がどっと笑った。