終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ③

 ただ今までに数多あまたほしくずじゆうたおしてきた第二特務隊だが、近年ではほしくずじゆうたおした実績よりも、最も多くのせいを出している部隊としてその名が知られていた。

 かわいたくちびるを僕はそっとめる。

 配属先が危険な部隊だからおくしているとか、そんなことじゃない。

 第二特務隊は、かつてえいゆうとされた姉さんが率いていた部隊だった。

 ぐにクーマンを見つめて僕は宣言する。


「新しいスターライトは、僕がもらう」


 ここで第二特務隊に配属され、たくさんのほしくずじゆうたおして認められれば、いずれ姉さんと同じ古式一等星輝剣フアーストスターライトアルタイルをげる。これは僕が姉さんをえるための階段を上る、またとない機会だ。

 けれどクーマンは静かに首を横にった。


ほしくずじゆうと戦うのはお前にはまだ早い」

「姉さんは十五歳でスターライトの使い手として戦っていたよ」

「ヒナは特別だった。お前が同じことをする必要はない。それにお前はまだスターライトと同調できないのだろう?」


 じっとえられた僕はかろうじて問い返す。


「じゃあ今度のスターライトは、だれが使い手になるのさ?」

「ここでの訓練成績をかんがみるに、レインが第一候補として挙がってはいる」

なつとくいかないね。はんげきしてこない標的相手の成績なんか、意味ないでしょ」


 実際のほしくずじゆうを用意することができないのだから仕方ないのだが、単純なスターライトとの同調ばかりが評価される訓練はどうにもしやくぜんとしないものがあった。もちろんスターライトとの同調は大事だ。けれどほしくずじゆうと戦うということは、もっと様々な要素が必要なはずなのだ。


「ギニアスもお前と同じことを言っていたよ。敵からのはんげきがない戦いなど、戦いではない、とな」


 こめかみを押さえてため息をついたクーマンが続ける。


「よって明日に訓練生同士のせんを行い、それを参考に使い手を選ぶ。今日はそのことを伝えに来たんだ。実戦を想定した戦いだ。きした訓練用の剣を使うとはいえ、スターライトに変わりない。いつしゆんでも気をけばおおを負うことになるだろう。かくしてのぞめ」


 心の中で僕は小さくこぶしにぎる。姉さんのあといだ隊長が僕と同じ考えだということに、なんだか背中を押された気分だ。

 こうしてはいられないと、僕は訓練用のスターライトにぎなおす。


「それから、リュート。くれぐれも無茶はするなよ」


 背中にかけられたクーマンの言葉に、僕はかえらなかった。

 僕には目指すものがある。だれもが認めるえいゆうになるんだ。

 かつてえいゆうと呼ばれ、今はもういない姉さんのように……。


 夕刻。

 えを終えた僕がこうしつを出ると、他の訓練生たちが談話スペースで雑談に興じていた。昼間クーマンが持ち込んだ話題について、みんなが口々に言い合っている。


「新しいスターライトってどんなのだろうな」


 頭の後ろで手を組んだちようはつの男の声に、となりに座る切れ目の男がしようした。


「使い手にはあこがれるけど、配属先があの第二特務隊だろ。いきなりあそこに配属はきっついな」

「やっぱり欠員が多いからじゆう要員がしいんでしょ」


 対面で本を読んでいたそうしんの男の口ぶりはどこかごとのようだ。

 テーブルにほおづえをつく眼鏡の男がぼやくように言う。


「隊長がギニアスさんになってからパッとしないよなぁ。ほしくずじゆうも死傷者出しながらかろうじてたおしてる、ってふんだし……三年前の戦いも、あり得ないくらいのがいが出たし……」

「以前は有望株がつどはなやかな部隊だったのにな。いまや不人気部隊の一番星だ」


 だれかが口にした一言に、ゲラゲラと笑い声がれんした。


「そりゃだれだって死にたくはないだろ」

「それより先に明日のせんでポックリ死なないようにしろよ」

「明日はどうせレインで決まりなんだ。しない程度に流してやれば──」


 その言葉をさえぎって、


こわいなら、辞退すればいい」


 僕が声を発すると、視線がいつせいにこちらに向いた。


「なんか言ったか?」


 集まる視線を前に僕はぜんと答える。


「だって配属先が第二特務隊ってのは、チャンスじゃないか。死傷者が多いのなら、僕が入ってせいを減らすことができる」

「なんだよリュート。やけに自信があるみたいだな」


 僕を見るちようはつおとこのニヤついた視線がうつとうしい。

 自信じゃない、これはかくだ。

 お前たちみたいな生半可なかくで、僕はスターライトの使い手を目指しているんじゃない。

 ちようはつおとこを、僕はぐ見返した。


「真っ向からねじせてみせるよ。レインだろうが、ほしくずじゆうだろうが」

ほしくずじゆうを真っ向から? お前なに言ってるんだよ。第二特務隊の役目は例外だろ。あくまで俺らはほしくずじゆうがいえんから落とすのが目的だろうが。スターライトと同調できないお前が訓練生としてここにいることができる理由もそうだろ。わざわざ戦ってたおす必要がないからだ。隊列を組んでほしくずじゆうゆうどうして落とし、がいを最小限にする。人も土地も、空の上の限られた資源をこれ以上減らさないために、俺たちは戦うんだろうが」

ほしくずじゆうがいえんから落とす? 限られた資源を守るため? のん気なもんだね」


 教科書通りの高説を聞かされ、うんざりしたように僕がたんそくすると、ちようはつの男はこつまゆをひそめた。


「なんだって?」

「空にはいくせんまんの星が存在していて、そのすべてが敵かもしれないんだよ。現状で満足してたら、いずれ人類はほろびるよ」

「だったらどうするんだよ?」


 問われた僕は、ひとみに強い決意をめて断言する。


「僕はたった一人でもほしくずじゆうたおして、そして地上をもどす」


 直後、周囲がどっと笑った。