終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ④

「おいおい、ほしくずじゆう相手にたった一人で?」

「仕方なく戦わなきゃいけない第二特務隊だって、必ず複数人でじんけい組んで対処してるんだぞ」

に戦う必要はないだろう」

「地上をもどすって、何考えてるんだよ」


 口々に馬鹿にしたような言葉を投げつけられる。

 なにもわかっていない彼らに、教えてやる。


たおす必要ならある。やつらをたおせばほしくずじゆうせいがいが手に入る。そうすればもっとたくさんのスターライトが造れる。星浮島ノアせいれん技術も上がる。一人でもたおせる使い手が増えれば、いつか地上をもどすことだってできるかもしれない。空の上で足りない資源はそこで増やせばいいんだ」


 かつて地上の人間は百個の星浮島ノアを空にかべた。しかしこの二千年の間に、その数は半分近くまで減っている。星浮島ノア寿じゆみようなのか高度を保てなくなり自然と地上へ落ちていった星浮島ノアもあったが、ほとんどの星浮島ノアほしくずじゆうが落ちてきて星浮島ノアごとほろぼされたのだ。

 僕らの住める土地はどんどんせまくなっていて、少しずつだが確実にほろびの道を歩んでいる。

 だからだれかが変えなくてはいけない。僕らだってほしくずじゆうたおせると、地上をもどせると証明しなければならないのだ。

 僕のおもえがく計画を話すと、彼らはあきれたように言う。


「とんだ夢物語だな。無理に決まってる」

スターライトとろくに同調もできないくせにな」


 否定の言葉に、僕は耳をかたむけない。


。僕はやるんだ。いつか地上をもどして、姉さんをえるえいゆうになる」


 だれがなんと言おうが、やると決めたのだ。それにみんなが無理だと思っているからこそ、やる価値がある。

 僕の決意に彼らは「はいはいがんれよ」「参ったね、さすがえいゆうヒナの弟様だ」とあざわらってまともに取り合わず、いい加減一人ずつなぐってやろうかと僕がそっとこぶしにぎめると、


「それくらいにしなさい」


 いつから聞いていたのか、女子こうしつ側の通路からレインが現れた。

 よく通る声で、みんなをたしなめるように彼女は話す。


「志が高いのは立派なことよ。目標が人より高いほど、達成するための努力も人一倍するってことなんだから。リュートが努力していることは知っているはずでしょ。それに人類がほろびをかいする方法をリュートなりに必死に考えているのよ。茶化すようなことじゃないわ」


 この場で一番の実力者であるレインに言われ、たんに周囲が気まずそうにだまむ。おそらく彼女なりの、僕へのづかいのつもりだろう。

 けれど僕はレインのました顔を真っ向からえて言った。


「僕はレインもえるよ」

「それは楽しみね。たしかにスターライトと同調できれば、あんたはあたしと同じくらい強いかも。ほしくずじゆうと戦うのに味方が強いにしたことはないわ」


 宣戦布告も、やわらかなみにかわされてしまう。

 気に食わなかった。他の連中のような僕をあなどったみとはちがう。レインのみはおのれの自信に裏打ちされたゆうみなのだ。

 それ以上に、なにより腹が立つのは未熟な自分自身。

 僕にもっと力があれば、彼らは僕の言葉にしっかりと耳をかたむけたかもしれない。僕の言葉に希望をいだいてくれたかもしれない。

 くちびるめる僕にむかって、レインは「でもね」と付け加える。


「忘れないで。かつてスターライトを造り出した地上の人間たちでさえ、空にげるしかなかったのよ。それがどういうことか」


 かなしげな彼女のひとみが僕をく。

 そんなことはわかっている……。だけどもし、さきほどのやりとりが僕ではなく姉さんだったなら、こんなことは言われずに済んだかもしれない。

 そう思うと、胸がけられるようにたまらなく苦しかった。


 星浮島ノアの住民がしずまった深夜。

 コートを羽織った僕は、倉庫からバイクを出した。

 かつて地上でも使われていた二輪の乗り物。前後に車輪がついており、動力部にある『せいがい』がとうじようしやの『たましいかがやき』をエネルギーに変えて、車輪を高速回転させるしろものだ。

 現在の技術の中ではかなり高度なせいれん技術が使われているらしく、星浮島ノアこうにゆうするには家一けんと同じくらいの値段がするのだが、姉さんは防衛軍で使われなくなったパーツをかき集めてこのバイクを完成させた。

 姉さんののこしてくれたバイクにまたがり、暗い夜道を走る。

 今夜はひときわ、風が強かった。コートのはしをなびかせながら居住区からバイクを走らせること十数分。

 小高いおかの上には、れいがあった。

 この空の上でかがやかしい功績を残した、姉さんのれいだ。


「これくらいは許してくれるよね」


 れいのそばにさったそうしよくようスターライトに、僕は手をける。何度もそうしているため、力をめるとあっさりとけた。あくまでそうしよくようスターライトなので使われているせいがいは最低ランクのものだけど、それでも今の僕には十分なしろものだ。

 軍の所有物である訓練用のスターライトは厳格に管理されており、たとえ訓練生でも個人の持ち出しは禁止である。だから夜な夜な僕はこの場所をおとずれ、スターライトと同調するための特訓をしているというわけだ。

 にぎったスターライトに、意識を集中する。

 同調によって力が増すのはスターライトだけでなく、使い手の視覚やちようかくといった感覚器官、肉体の強度や身体能力もやくてきに向上する。

 しかしスターライトを手にする僕に、変化は見られなかった。