「おいおい、星屑獣相手にたった一人で?」
「仕方なく戦わなきゃいけない第二特務隊だって、必ず複数人で陣形組んで対処してるんだぞ」
「無駄に戦う必要はないだろう」
「地上を取り戻すって、何考えてるんだよ」
口々に馬鹿にしたような言葉を投げつけられる。
なにもわかっていない彼らに、教えてやる。
「倒す必要ならある。やつらを倒せば星屑獣の星核が手に入る。そうすればもっとたくさんの星輝剣が造れる。星浮島の星錬技術も上がる。一人でも倒せる使い手が増えれば、いつか地上を取り戻すことだってできるかもしれない。空の上で足りない資源はそこで増やせばいいんだ」
かつて地上の人間は百個の星浮島を空に浮かべた。しかしこの二千年の間に、その数は半分近くまで減っている。星浮島の寿命なのか高度を保てなくなり自然と地上へ落ちていった星浮島もあったが、ほとんどの星浮島は星屑獣が落ちてきて星浮島ごと滅ぼされたのだ。
僕らの住める土地はどんどん狭くなっていて、少しずつだが確実に滅びの道を歩んでいる。
だから誰かが変えなくてはいけない。僕らだって星屑獣を倒せると、地上を取り戻せると証明しなければならないのだ。
僕の思い描く計画を話すと、彼らは呆れたように言う。
「とんだ夢物語だな。無理に決まってる」
「星輝剣とろくに同調もできないくせにな」
否定の言葉に、僕は耳を傾けない。
「それでもだ。僕はやるんだ。いつか地上を取り戻して、姉さんを超える英雄になる」
誰がなんと言おうが、やると決めたのだ。それにみんなが無理だと思っているからこそ、やる価値がある。
僕の決意に彼らは「はいはい頑張れよ」「参ったね、さすが英雄ヒナの弟様だ」と嘲笑ってまともに取り合わず、いい加減一人ずつ殴ってやろうかと僕がそっと拳を握り締めると、
「それくらいにしなさい」
いつから聞いていたのか、女子更衣室側の通路からレインが現れた。
よく通る声で、みんなをたしなめるように彼女は話す。
「志が高いのは立派なことよ。目標が人より高いほど、達成するための努力も人一倍するってことなんだから。リュートが努力していることは知っているはずでしょ。それに人類が滅びを回避する方法をリュートなりに必死に考えているのよ。茶化すようなことじゃないわ」
この場で一番の実力者であるレインに言われ、途端に周囲が気まずそうに黙り込む。おそらく彼女なりの、僕への気遣いのつもりだろう。
けれど僕はレインの澄ました顔を真っ向から見据えて言った。
「僕はレインも超えるよ」
「それは楽しみね。たしかに星輝剣と同調できれば、あんたはあたしと同じくらい強いかも。星屑獣と戦うのに味方が強いに越したことはないわ」
宣戦布告も、柔らかな笑みにかわされてしまう。
気に食わなかった。他の連中のような僕を侮った笑みとは違う。レインの笑みは己の自信に裏打ちされた余裕の笑みなのだ。
それ以上に、なにより腹が立つのは未熟な自分自身。
僕にもっと力があれば、彼らは僕の言葉にしっかりと耳を傾けたかもしれない。僕の言葉に希望を抱いてくれたかもしれない。
唇を嚙み締める僕にむかって、レインは「でもね」と付け加える。
「忘れないで。かつて星輝剣を造り出した地上の人間たちでさえ、空に逃げるしかなかったのよ。それがどういうことか」
哀しげな彼女の瞳が僕を射抜く。
そんなことはわかっている……。だけどもし、さきほどのやりとりが僕ではなく姉さんだったなら、こんなことは言われずに済んだかもしれない。
そう思うと、胸が締め付けられるようにたまらなく苦しかった。
星浮島の住民が寝静まった深夜。
コートを羽織った僕は、倉庫からバイクを出した。
かつて地上でも使われていた二輪の乗り物。前後に車輪がついており、動力部にある『星核』が搭乗者の『魂の輝き』をエネルギーに変えて、車輪を高速回転させる代物だ。
現在の技術の中ではかなり高度な星錬技術が使われているらしく、星浮島で購入するには家一軒と同じくらいの値段がするのだが、姉さんは防衛軍で使われなくなったパーツをかき集めてこのバイクを完成させた。
姉さんの遺してくれたバイクに跨り、暗い夜道を走る。
今夜は一際、風が強かった。コートの端をなびかせながら居住区からバイクを走らせること十数分。
小高い丘の上には、慰霊碑があった。
この空の上で輝かしい功績を残した、姉さんの慰霊碑だ。
「これくらいは許してくれるよね」
慰霊碑のそばに突き刺さった装飾用の星輝剣に、僕は手を掛ける。何度もそうしているため、力を込めるとあっさりと引き抜けた。あくまで装飾用の星輝剣なので使われている星核は最低ランクのものだけど、それでも今の僕には十分な代物だ。
軍の所有物である訓練用の星輝剣は厳格に管理されており、たとえ訓練生でも個人の持ち出しは禁止である。だから夜な夜な僕はこの場所を訪れ、星輝剣と同調するための特訓をしているというわけだ。
握った星輝剣に、意識を集中する。
同調によって力が増すのは星輝剣だけでなく、使い手の視覚や聴覚といった感覚器官、肉体の強度や身体能力も飛躍的に向上する。
しかし星輝剣を手にする僕に、変化は見られなかった。