終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ⑤

 いつものように軽くりをかえした後、手近な石にむかってスターライトろす。ガリッと音を立てて不格好に石がくだった。スターライトと同調さえできればそこらの石など容易にくこともできるのだろうけど、その同調をするには何をすればいいのかわからず、教わろうにも言葉で伝えることは難しい感覚的な部分や才能に左右されるらしく、これくらいしか今の僕にできることが思いつかなかった。

 きっとレインにでも見られれば「可能性を信じて努力をしまないのは立派ね」とか言われるのだろう。可能性は信じている。けれどこれは努力とは少しちがう。

 こうでもしないと、不安でねむれないんだ。

 姉さんは十五歳のときにはすでにスターライトの使い手としてほしくずじゆうと戦っていた。一方僕はいまだ訓練生で、スターライトと同調すらまともにできない。このままでは姉さんをえるどころか、どんどんはなされていくだけではないかと、不安やきようはらうために、がむしゃらにスターライトるっているだけだ。

 せきを起こした人がいた。それが僕の姉さんだった。

 姉さんに追いつきたくて、したくて……けどあこがれの姉さんは、もういない。

 長い時間姉さんのれいの前で、ちゆう身体からだを動かし続けた。

 ふとスターライトを大きくるうのと同時に、とつぷうあおられた。ぐらりと視界が流れる。くずれた体勢はどうやら立て直せそうにない。けれどスターライトは手放したくなくて、僕はかたから地面に落ちた。たかがとつぷうで体勢をくずすほど、つかれきっていたらしい。

 しばの上に転がって、呼吸を整える。

 眼前に広がる空では無数の星がかがやいていた。

 あのすべてがいつ落ちてくるかもわからない、ほしくずじゆうとなりうるのだ。

 昼間僕が口にした『地上をもどすこと』など不可能かもしれない。地上のほしくずじゆうをすべてたおしても、いずれ空から降ってくる。空にはこれだけの星があり、目には見えないところにも星はあり、そのすべてをたおすなんてほうもないことだ。


……やるって決めたんだ」


 力をめて僕は起き上がる。

 ふと視界のはしで光が流れていくのが見えた。

 頭上で移動しているのは星の光ではない。目測で高度はここからおよそ千メルほど。空を飛ぶこうていによる夜間飛行の明かりだった。

 現在、この空の上には東西にびるように大小数十の星浮島ノアいている。僕がいるのは、人が多く住む東部第1星浮島ノア。その他にも農業生産用の島や、自然が多く観光地となっている島、まったく人の住んでいない島などもある。それぞれの島はおよそ五百メルから千メルほどのきよを保ってまとまっていており、島同士のやりとりを空を飛ぶこうていつないでいた。

 このこうてい星浮島ノア同様にかつての地上の人々が造ったものである。せいがいを動力にりよくを得て、つばさに受ける風をたよりに空を飛ぶ。あくまで気流に乗って飛んでいるので、飛行きよには制限があり、またきよくたんな高度の上げ下げもできないので、地上に行って星浮島ノアまで帰ってくるなんてことはできない。

 農作物や物資のうんぱんなど、各島との往来は、空の上で生きる僕らの生活を支えるのに必要不可欠であり、技術者たちはまなこになってこうていかいせきを進めた。おかげで地上で造られたこうていほどの性能は有さなくても、各島同士をつなぐのに支障がない程度のこうていなら、空の上でも造り上げることに成功していた。

 しかし現在僕の頭上を飛んでいるこうていは、だん見かけるうんぱんようこうていよりもはるかに速度が速い。あの速度で飛べるこうていは、空の上の技術で造ることはできない。

 かつての地上で造られた高速こうてい『アクイラ』。

 防衛軍所有のこうていであり、第二特務隊の専用こうていだった。


「ギニアスが……本当に来てるんだ」


 ギニアス・ライオネルという名は、僕の中では五年前に姉さんのあといだあこがれの人の名だ。

 けれど世間にその名がわたったのは三年前のこと。

 ある日、農業生産用の星浮島ノアきよだいほしくずじゆうが落ちた。島のほぼ真ん中に落ちたほしくずじゆうは、がいえんまでゆうどうして落とすにはがいが広がりすぎるため、軍は第二特務隊にせんめつを命令した。

 だがギニアス率いる第二特務隊は、ほしくずじゆうたおすことができなかった。強大なほしくずじゆうを相手にせいばかりが増え、またそのほしくずじゆうたんきよなら飛行できることもわかり、他の島へのがいの拡大をした軍は、島のせいがいかいして

 おそらく最善の策だったのだろう。

 しかし彼らの行いは批判の的となった。落としたのが農業生産用の島であり、一時は空の上全体で食事制限がかかるほどのしよくりようなんわれたのが原因の一つ。だが批判の根幹にあったのは、ほしくずじゆうたおすための部隊がほしくずじゆうたおすことができなかったということだろう。

 空の上なら、降ってくるほしくずじゆうにも対処できる、というがいねんくずされてしまった。

 僕らはほしくずじゆうに対してあまりに無力で、この空の上の生活にもいずれ終わりが来る。世間にそう痛感させるほどの出来事だった。


「でもなんでこんな夜中に飛んでいるんだろう?」


 不思議に思いながら高速こうていアクイラの進路に目を向けてみると、やみくような赤い光がを引きながら流れているのが見えた。赤い光はこのままいけばアクイラとこうさくするどうで……しかもあの赤い光は他のこうていの明かりじゃない。

 ほしくずじゆうが降ってきているのだ。