終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ⑥

「けどあのどうなら星浮島ノアには落ちてこないような……警報も鳴ってないし」


 朝から晩まで天体のかんに目を光らせている軍の観測隊によりほしくずじゆうの落下はある程度予測でき、おかげで星浮島ノアに落ちてくる可能性がある場合はそくに警報が鳴る仕組みになっている。

 現在、僕が肉眼でとらえている赤い光はおそらく落下どう星浮島ノアかられているため、危険性はないと判断され警報が鳴っていないのだろう。

 ならばなぜ、高速こうていアクイラがほしくずじゆうに向かっているのか?

 頭上ではアクイラとほしくずじゆうきよじよじよに近づいていく。だが二つがぶつかるより早く、アクイラから一筋の光が飛び出した。白銀の光は矢のようにび、ほしくずじゆうの赤い光としようとつすると、ほしくずじゆうかがやきが散った。

 いつしゆんの出来事だった。

 落下するほしくずじゆうを空中でったのだ。


「すごい。あれが第二特務隊の……姉さんのあといだギニアスなんだ」


 かがやきの強さからしてたいしたほしくずじゆうではなかったと思う。しかも放っておけば勝手に地上に落ちるようなほしくずじゆうだ。

 それでもわざわざたおしにいったのは、おそらくほしくずじゆうせいがいを回収するため。

 たぶんギニアスも僕と同じ考えなのだ。

 ほしくずじゆうせいがいを集めれば、より多くのスターライトが造れる。星浮島ノアせいれん技術も向上する。それはやがて地上をもどすことにつながる。

 姉さんのあといだギニアスが僕と同じことを考えてくれていたと思うと、なんだかうれしかった。


「……あれ、うそでしょ?」


 頭上を見上げていた僕だけど、かんに目をらす。

 ほしくずじゆうたおした白銀のかがやきは消失し、かわりに黒いかげがこちらにむかってみるみる大きくなってくる。かげは人の形をしていて、真っ逆さまに落ちているように見えて、


「もしかして、ヤバいんじゃ……」


 信じられないおもいをいだきながら次のしゆんかんには僕は走りだしていた。

 落下地点に入って上空へ目を向けると、逆さまに落ちてくるかげに再び光がともる。

 なにやらけんりかぶる姿勢をとっていた。

 げんに思う間もなくかげが地上に向けてけんりぬき、光を放つ。

 直後に大地をたたきつける風圧が僕の全身におそいかかってきた。かすかに目を見開くと風圧を利用して減速したかげが眼前にせまっていて、とつに僕はうでを広げて受け止める。

 けれど打ちつける風に体勢をくずされていた僕は、あえなく落ちてきた人もろとも地面を転がった。

 少しでも着地のしようげきやわらげることができていればいいのだけれど……そっとうでの中をのぞきこむと、その人と目が合った。

 ギニアスではなかった……女の子だった。

 とてもれいな、女の子だった。

 ねんれいは僕と同じくらい、十五、六歳だろうか。

 全体的にほっそりとした身体からだに、小さな頭がちょこんと乗っている。長い銀色のかみが絹糸のようにやわらかく彼女を包み込んでいた。

 うでの中の彼女は、僕の顔を見てぱちぱちと目をまたたかせていた。

 たんに顔が熱くなる。女の子をきしめていることに気づき、僕はあわててうではなした。

 立ち上がった彼女がぱんぱんと軽く服をはたく。風にかれて銀色のかみがふわりとれていた。彼女の表情はりんとして、真っ白いはだは星の光をかしているかのようだ。


「ええと……その、だいじよう? 結構な高さから落ちてきたけど」


 彼女の身体からだを心配すると、彼女はわずかに小首をかしげた。


「受け止めてくれたの? どうして?」

「どうしてって……女の子が困ってたら助けるでしょ」

「え?」


 意外そうに目を見開いて彼女は僕を見る。

 もしかしたら困っていなかったのかもしれない。さきほども彼女なりに着地する算段があったようにも思う。だとしたら余計なことをしたかも……。

 しばし気まずいちんもくの後、彼女はまどいがちに口を開いた。


「私のことも?」

「そ、そりゃあもちろん。困っているなら助けたいと思うのは当然でしょ」

「困ってはいないわ」

「あ、そう……」

「でもやるべきこと……私がやらなきゃいけないことならある」

「やらなきゃいけないこと?」


 わずかな間をおいて、彼女はすっと真っ白な指先で夜空を指さした。


ほしくずじゆうたおして、いつか星になる」

「へ?」


 暗い空には無数の星のかがやきがちりばめられていて、


「あの空にあるどの星にも負けないくらい、一番かがやきたいの。それでみんなをがおにできたらいいな」


 とうてつとした表情で彼女は夜空の星々を見上げていた。

 不思議なふんかもす女の子だった。けれど、言いたいことはわかる。

 スターライトの使い手の強さは、引き出すかがやきの強さに比例する。

 空にかがやほしくずじゆうよりも強くかがやく存在となって、みんなを守りたい。僕と同じだ。


「僕はリュート。キミの名前は?」

「……私は、カリナ」


 少女はカリナと名乗った。彼女の銀色のかみが風にれると、星明かりを受けてキラキラかがやいているように見えた。

 すぐそばにある彼女といつしよに落ちてきたおおりのけんを、僕は指さしたずねてみる。


「それ、スターライトだよね?」

「そうだけど?」


 見たこともない白銀の刀身。さっきまで僕が同調の練習に使っていたものとはちがう、しようしんしようめいスターライトだ。

 彼女がさきほど落下するほしくずじゆうたおしたのはちがいない。考えられるのは……。


「ギニアスと同じ第二特務隊の人?」


 たずねると彼女はコクリと小さくうなずいた。


「今日は星がれいに見えたの」

「星が、きれい……どういうこと?」


 そんなふうに考えるのは、もう長い間忘れていた気がする。

 空にある星はすべて、いつほしくずじゆうとして落ちてくるかもわからない敵だと思っていたから。

 青いひとみに星のまたたきを映しながら、カリナはうすくちびるを引く。