終末世界のプレアデス 星屑少女と星斬少年

第一章 空の光は全て敵 ⑦

れいにキラキラ光ってて、そしたらほしくずじゆうが落ちてくるのが見えたから、アクイラから飛び降りたの」

「…………」


 ほしくずじゆうが見えたから飛び降りたとか、じよういつした彼女の言動にぜんとしてしまう。


「でもめいわくかけたみたいね。ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げるカリナ。


「あ、いや、謝らなくていいよ。むしろすごすぎて言葉も出てこないよ」

「おびになにかするわ。私にできることならなんでも言って」

「なんでもって……」

「一週間ツインテールにするのも、に『ニャ』って付けてしやべるのでもいいわ」


 真顔のカリナが手を丸めてねこのようなポーズをしていた。


「……えっと、なにそれ?」

「え? うれしくないの? たまにやるゲームだけど、みんな喜ぶわ」


 そんなこと言われても……第二特務隊の人たちはバカなんだろうか。

 けどせっかくの機会だし、スターライトの使い手に聞けるなら……。


「じゃあ、よければ僕にスターライトあつかかたを教えてほしい」


 せいえい部隊とされる第二特務隊のスターライトの使い手が目の前にいるんだ。他にたのみたいことなんてない。僕はどうしてもほしくずじゆうたおしたいんだ。

 僕のお願いにカリナは意外そうに小首をかしげた。


「そんなことでいいの?」

「明日、スターライトの使い手を決めるための大事なせんがあるんだ。それで実は僕、スターライトとうまく同調できないんだ。だから今夜だけでも教えてもらえるかな?」

「大事なことなのね」

「そうだね。僕にとってはとても大事だ」


 しんけんな僕のおもいが伝わったのか、カリナは小さくうなずいた。


「わかったわ。じゃあ作戦会議、する?」

「作戦会議?」


 みようにかしこまった言い方だ。


「大事な話をするときは作戦会議。そういうもの」

「まあ別にそれでもいいけど」


 その方が教える彼女の気分が乗るのかもしれない。教えてもらう立場の僕がとやかく言うことでもないだろう。

 たがいに向かい合うように、カリナは僕をぐ見つめて話し始めた。


「明日、スターライトの使い手を決めるせんがあるらしいの」

「うん、知ってるよ」


 なぜならそれは、僕がついさっき彼女に教えたから。


「そのためには、まずスターライトいつしよがんるの」

「うん、そうだね」

「………………」

「………………」

「…………」

「……それだけ?」

「そうよ」


 とんでもない作戦会議もあったものだ。

 カリナにふざけている様子はじんもなく、教えることは他にないとでも言いたげな整然とした顔つきだ。


「あの、もっと有意義なアドバイスがしいというか……」


 さすがにあれでは身もふたもないので再度お願いしてみると、すっと彼女の視線が僕のあしもとへと向けられた。


「そこにあるスターライトは、あなたの?」

「これは僕のじゃないし……れいそうしよくようの、たいしたものじゃないから。僕はまだ自分のスターライトを持ってないから、このスターライトでこっそり夜に同調の練習をしてるんだ」


 れいにあるものを勝手に使うなど非常識だとおこられるだろうか。気まずそうにする僕に、彼女は真面目な顔でたずねてくる。


「練習って、どんなこと?」

「えっと、けつしようこうかくほどかたくないけど、スターライトでその辺の石をってみたりとか……ほら、かたい石でもその石の声を聞けばれるって。大昔の地上の本に書いてあったんだ」


 インチキくさい本だし、僕だって石の声だとか本気で信じているわけじゃない。ただスターライトほしくずじゆうせいがいを利用しているならば、同じこうほしくずじゆうも物理的に傷はつけられるはず。多少ごういんなやり方かもしれないけど、同調できない僕がほしくずじゆうと戦うための苦肉の策だ。

 そうしてたくさん石をっているうちに、同調も自然と身につくんじゃないかと……ずかしながらあまりこんきよのない練習法に、けれどカリナはこくりとうなずいた。


「わかってるじゃない。スターライトの声を聞くの」

「え、石じゃなくて……スターライトの声?」


 首をかしげる僕にカリナは続ける。


「だってスターライトは生きているもの。呼びかければ応えてくれるわ。そもそも私は同調の練習なんてしたことない」


 さらりと言った彼女の言葉に僕は目を見開いた。

 つまり彼女は、訓練生の出身じゃない。

 一応うわさには聞いたことがある。ほしくずじゆうとの戦場で負傷した使い手の代わりにその場にいた民間人がスターライトにぎったらぐうぜんにも同調できてしまい戦果をあげた例があるとか。その類いだろうか。民間人の少女が正規の訓練を受けた者たちよりもスターライトあつかえているという事実をかくすために、彼女の存在が公表されていないのだろうか。

 あらためて見ると、彼女はとても訓練を受けた者とは思えないきやしやな体をしている。力をめれば簡単に折れてしまいそうなその細いうでで、星浮島ノアの人々を守るためにスターライトって戦ってきたのだろう。

 ある日とつぜんほしくずじゆうと戦うことをいられたのだとしたら、あまりにびんだ。

 彼女みたいなつうの女の子が、おだやかに暮らせるような世界にしたい。

 そのために僕は戦って……。


「ほら、できた。簡単でしょ」

「え?」


 おもいに応えるように、僕の手にしたスターライトの刀身があわい光を放っていた。


「……ほんとだ」


 身体からだがほんのりと熱い。ゆるやかだけどスターライトから力が流れ込んでくるのがわかる。

 初めての同調に興奮するとともに、疑問が頭の中にがる。

 どうしてとつぜん同調できるようになったんだろう?

 いつもと同じように昼間は防衛軍のせつで訓練をして、夜はこのおかスターライトをがむしゃらにまわして……いつもとちがうことは、今日は一人じゃないということ。


「どんなときもスターライトの声をちゃんと聞いてあげて。独りよがりはよくないわ」


 ぼうぜんとする僕にカリナはふんわりとした助言を続ける。


「キミはいったい、何者?」