「綺麗にキラキラ光ってて、そしたら星屑獣が落ちてくるのが見えたから、アクイラから飛び降りたの」
「…………」
星屑獣が見えたから飛び降りたとか、常軌を逸した彼女の言動に啞然としてしまう。
「でも迷惑かけたみたいね。ごめんなさい」
ペコリと頭を下げるカリナ。
「あ、いや、謝らなくていいよ。むしろ凄すぎて言葉も出てこないよ」
「お詫びになにかするわ。私にできることならなんでも言って」
「なんでもって……」
「一週間ツインテールにするのも、語尾に『ニャ』って付けて喋るのでもいいわ」
真顔のカリナが手を丸めて猫のようなポーズをしていた。
「……えっと、なにそれ?」
「え? 嬉しくないの? たまにやるゲームだけど、みんな喜ぶわ」
そんなこと言われても……第二特務隊の人たちはバカなんだろうか。
けどせっかくの機会だし、星輝剣の使い手に聞けるなら……。
「じゃあ、よければ僕に星輝剣の扱い方を教えてほしい」
精鋭部隊とされる第二特務隊の星輝剣の使い手が目の前にいるんだ。他に頼みたいことなんてない。僕はどうしても星屑獣を倒したいんだ。
僕のお願いにカリナは意外そうに小首を傾げた。
「そんなことでいいの?」
「明日、星輝剣の使い手を決めるための大事な模擬戦があるんだ。それで実は僕、星輝剣とうまく同調できないんだ。だから今夜だけでも教えてもらえるかな?」
「大事なことなのね」
「そうだね。僕にとってはとても大事だ」
真剣な僕の想いが伝わったのか、カリナは小さく頷いた。
「わかったわ。じゃあ作戦会議、する?」
「作戦会議?」
妙にかしこまった言い方だ。
「大事な話をするときは作戦会議。そういうもの」
「まあ別にそれでもいいけど」
その方が教える彼女の気分が乗るのかもしれない。教えてもらう立場の僕がとやかく言うことでもないだろう。
互いに向かい合うように、カリナは僕を真っ直ぐ見つめて話し始めた。
「明日、星輝剣の使い手を決める模擬戦があるらしいの」
「うん、知ってるよ」
なぜならそれは、僕がついさっき彼女に教えたから。
「そのためには、まず星輝剣と一緒に頑張るの」
「うん、そうだね」
「………………」
「………………」
「…………」
「……それだけ?」
「そうよ」
とんでもない作戦会議もあったものだ。
カリナにふざけている様子は微塵もなく、教えることは他にないとでも言いたげな整然とした顔つきだ。
「あの、もっと有意義なアドバイスが欲しいというか……」
さすがにあれでは身も蓋もないので再度お願いしてみると、すっと彼女の視線が僕の足下へと向けられた。
「そこにある星輝剣は、あなたの?」
「これは僕のじゃないし……慰霊碑の装飾用の、たいしたものじゃないから。僕はまだ自分の星輝剣を持ってないから、この星輝剣でこっそり夜に同調の練習をしてるんだ」
慰霊碑にあるものを勝手に使うなど非常識だと怒られるだろうか。気まずそうにする僕に、彼女は真面目な顔で尋ねてくる。
「練習って、どんなこと?」
「えっと、結晶甲殻ほど硬くないけど、星輝剣でその辺の石を斬ってみたりとか……ほら、硬い石でもその石の声を聞けば斬れるって。大昔の地上の本に書いてあったんだ」
インチキ臭い本だし、僕だって石の声だとか本気で信じているわけじゃない。ただ星輝剣が星屑獣の星核を利用しているならば、同じ硬度の星屑獣も物理的に傷はつけられるはず。多少強引なやり方かもしれないけど、同調できない僕が星屑獣と戦うための苦肉の策だ。
そうしてたくさん石を斬っているうちに、同調も自然と身につくんじゃないかと……恥ずかしながらあまり根拠のない練習法に、けれどカリナはこくりと頷いた。
「わかってるじゃない。星輝剣の声を聞くの」
「え、石じゃなくて……星輝剣の声?」
首を傾げる僕にカリナは続ける。
「だって星輝剣は生きているもの。呼びかければ応えてくれるわ。そもそも私は同調の練習なんてしたことない」
さらりと言った彼女の言葉に僕は目を見開いた。
つまり彼女は、訓練生の出身じゃない。
一応噂には聞いたことがある。星屑獣との戦場で負傷した使い手の代わりにその場にいた民間人が星輝剣を握ったら偶然にも同調できてしまい戦果をあげた例があるとか。その類いだろうか。民間人の少女が正規の訓練を受けた者たちよりも星輝剣を上手く扱えているという事実を隠すために、彼女の存在が公表されていないのだろうか。
あらためて見ると、彼女はとても訓練を受けた者とは思えない華奢な体をしている。力を込めれば簡単に折れてしまいそうなその細い腕で、星浮島の人々を守るために星輝剣を振って戦ってきたのだろう。
ある日突然星屑獣と戦うことを強いられたのだとしたら、あまりに不憫だ。
彼女みたいな普通の女の子が、穏やかに暮らせるような世界にしたい。
そのために僕は戦って……。
「ほら、できた。簡単でしょ」
「え?」
想いに応えるように、僕の手にした星輝剣の刀身が淡い光を放っていた。
「……ほんとだ」
身体がほんのりと熱い。緩やかだけど星輝剣から力が流れ込んでくるのがわかる。
初めての同調に興奮するとともに、疑問が頭の中に湧き上がる。
どうして突然同調できるようになったんだろう?
いつもと同じように昼間は防衛軍の施設で訓練をして、夜はこの丘で星輝剣をがむしゃらに振り回して……いつもと違うことは、今日は一人じゃないということ。
「どんなときも星輝剣の声をちゃんと聞いてあげて。独りよがりはよくないわ」
呆然とする僕にカリナはふんわりとした助言を続ける。
「キミはいったい、何者?」