神々が支配する世界で〈上〉
【1】邪神の標的 ①
世界は我々が暮らすこの宇宙一つではない。
たどってきた歴史だけでなく物理法則からしてかけ離れている宇宙もあれば、つい最近まで同一の歴史を歩んできた世界もある。
これはそういう、同一の物理法則に支配され歴史のほとんど──西暦一九九九年六月までの歴史を我々と共有した世界の物語。
その宇宙に存在するもう一つの地球は、西暦一九九九年七月十四日から十五日に掛けて、地球外知性体の一斉攻撃を受けた。日付が
この第一撃による死者は攻撃の規模に対して、ごくわずかだった。
地球外知性体は地球の技術を
この日の犠牲者は政府が無謀な抵抗を命じた独裁国家で発生したのみであり、多少なりとも民主的に運営されていた国々では地球のテクノロジーが通用しないと判明した時点で国民の保護に
しかし残念ながら、地球外知性体の侵略は最小の犠牲で終わらなかった。
ゲリラ戦術による抵抗が世界各地で勃発したからだ。
無秩序な抗戦は政治的指導者の
この事態を招いた原因はおそらく、侵略者の自称にあった。
地球外からの侵略者は、『神々』を名乗ったのだ。
聖戦と化した抵抗は直接、間接に十万以上の人命を犠牲にした。
しかしその
武力制圧完了後、神々は一年を掛けて地球統治のシステムを構築した。彼らは地球人を直接支配しようとせず、国家の枠組みを温存し各国政府を通じて統治する形態を採用した。神々に対する無謀な抵抗を命じなかった政府については、そのまま存続することを認めた。
そして西暦二〇〇一年元日のグリニッジ標準時正午、神々はその統治の始まりを宣言し、まず手始めに世界が変わったことの象徴として暦を
そして神々は、全人類の心に直接メッセージを送った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
神々が全人類に向けて直接メッセージを放った時、
物心付いたばかりの幼児には難しい内容だったが、二十一歳になった今でも心に直接響いた神々の言葉をはっきり覚えている。
──我々は『神々』である。
──だが我々は君たち地球人が思い描く宗教的な存在ではない。
──我々は
──我々はこの星の造物主ではないが、星を創造し生命を創り出す能力を持つ。
──我々は信仰を強要しない。君たちには宗教的な自由を保障する。
──我々の要求はただ一つ、我々『神々』の軍勢に加わる戦士を提供することのみ。
──次元間文明を築いた知性体は、我々だけではない。
──我々は邪悪な知性体『邪神群』と長きにわたり闘争を繰り広げている。
──恐れる必要は無い。邪神と戦う
──君たちは我々が用意する「
──さすれば我々は、地球に加護を与える。
神々は地球人類にこう告げた。
そしてその言葉どおり、神々の力を宿した
しかし、今は……。
「
いきなり話し掛けられたことより不意に生じた圧倒的な存在感に、
いきなり、ではあったが驚いたわけではない。
「我が神、アッシュ」
「おいおい、
「しかし……」
それも、無理のないことだ。
アッシュは地球人と同じ姿を取っているが、その正体は神々と同じ精神生命体。
「とにかく、顔を見せてくれないか、
アッシュは、それだけでは満足しなかった。
「……いや、座って話そう」
邪神がそう言った直後、何の調度品も無かった部屋に
物質転送で持ってきたのではない。
物質創造──物質転送と並んで代表的な「神の
「掛けてくれ」
アッシュの口調はフレンドリーなものだ。しかしその声には
こうして向かい合わせに並ぶと、
顔立ちも、柔和な美貌のアッシュに対して
しかしそもそもアッシュは精神生命体、今見せている
自分で造り出した椅子にアッシュが腰を下ろす。邪神に目で促されて、
「アッシュ。お話は何でしょうか」



