魔王城、空き部屋あります!
プロローグ 決戦 ③
「決着がつかないな、バルバトス。起源の力を解放したらどうだ! 僕はそれさえも捻じ伏せてみせる!」
「誰が貴様ごときを相手に見せるものか!」
バルバトスの怒気が目に見えるほどに膨れ上がった。
互いに愛用の武器を手にし、シグナは上段に、バルバトスは逆に地にめり込むかというほど低く構えた。
そして、
「おのれ勇者シグナ! 貴様にだけは絶っ対に負けん!」
「バルバトス! こちらこそ、お前だけには負けるかあああっ!」
それは争い合う二つの種族の代表としての
それとも、子供じみた負けん気の発露か。
ぶつかり合う力によって音や光さえも捻じ曲がり、全てがぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。
「ぬ……ぬおおおおおっ!?」
「うわああああーっ!?」
限界を迎えたのは魔王でも、勇者でもなく、二人のぶつかり合う空間そのものであった。
空中にまるで巨人が引き千切ったような巨大な裂け目が生じ、全てを飲み込んでいく。バルバトスとシグナもまた、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大地を揺るがす
目の前に広がっている光景を信じられず、戦慄と共に疑問を口走った。
「城が……城が、消えた……!?」
「ま、魔王様はどこへ……!? 勇者は!?」
ほんの一瞬前まで威容を誇っていたはずの魔王城が、完全に
破壊によって吹き飛んだにしては唐突に、跡形も無く。
魔族の戦士たちは困惑し、ただ立ち尽くす事しかできずにいた。勝った、負けたという次元の話ではない。何が起きたのかさえ判断ができないのだ。
程なくして、魔王バルバトスと勇者シグナ消失の
世界各地で行われていた魔族と人類の戦は、次々と中断された。互いに陣営の最高戦力を失い、計画が総崩れになったのだから無理もない。
魔族に至っては国の指針を失ったに等しく、とても戦争をしている暇などないという状況であった。
そして消失の原因については、様々な憶測が飛び交う事となった。
「絶対破壊の魔剣と絶対守護の聖剣、同時には成立し得ない二つの力のぶつかり合いが計り知れない相乗効果を生み出し、予想外の何かが起こり、二人はそれに飲み込まれてどうにかなったのだ」
名のある魔術師や学者でさえ、そんな根拠のない推論を述べるのが精一杯であった。
何の痕跡も残っていないのだから無理もない。
当然、二人の行方など誰にも分かるはずがなかった。
実際のところ、この時、魔王と勇者の二人はこの世界のどこにも居なかった。二人は生まれ育った地・ロッケンヘイムを遠く離れ、我々の良く知る場所へたどり着いていたのだ。
それも二人が戦っていた場所……魔王城ごと、である!



