魔王城、空き部屋あります!
第一話 誕生、ロイヤルハイツ魔王城 ④
(ならば、この
バルバトスの目が怪しく細まった。
「一つ尋ねるぞ。そのマンションとやらは、どういう施設なのだ?」
「どうって……たくさんの人が住む場所、って言えばいいのかな」
「共同の居住施設か。ならば、問題はないな」
「こうしよう。余の城を、マンションとして提供する」
「は……?」
「へ?」
「あらあら」
「聞こえなかったのか? 余の城を、マンションとして使えばよいのだ。それならば建築費用もかからず、立ち退きも不要であろう。名称は『ロイヤルハイツ
「何を馬鹿な事を言っているんだ、お前は……そんな事が許されるはずないだろう」
シグナが
「許す、許さないは貴様が決める事ではないぞシグナ。
「そうねえ……持っている土地に、マンションじゃなくてお城が建っているっていうのもなかなか素敵かもねえ」
「おばあちゃん!?」
うっとりとした目つきで夢想を始める
「駄目だよ、
「そ、そうだ! 魔族に
「何か裏、とは何だろうか……
肩を
「余としても、これは互いの問題を解決するための苦肉の策。多少の損は甘んじて受け入れようというのだ。信じてもらえぬかなぁ、くはははは」
「限りなく
「私も信用できない!」
「そうは言ってもねえ、シグナさん。
激しい剣幕でバルバトスに食ってかかるシグナと
「このお城もバルバトスさんにとっては大事なものなわけでしょう。簡単に壊して
「それは……まあ、そうかもしれないけど……」
祖母の説得に心揺れ始めた
「まっ、待て待て! 冷静に考えてください! 魔王の誘いに耳を傾けるなど、あってはならないことだ。必ず破滅を招きますよ!」
「黙れ、シグナよ。先ほどから聞いていれば、貴様は対案も出さずにあれも駄目、これも駄目と文句を言っているばかりではないか。建設的な態度とは言えんな」
「う、うるさい! よく分からないが駄目なものは駄目だ!」
半泣きになって拒絶するシグナにはもはや目もくれず、バルバトスは
「無論、建物や住人の管理は余が責任を持って行う。土地を利用する許可のみを
「そうねえ……」
もはや八割がた心は決まったように見える
「待った!」
「……何だろうか?」
会話に割り込んだ
「やるとしても、何か目標を設定する必要があると思う。マンションやってみたけど結局できませんでした、あとは知りません、じゃ困るもの」
「まあ、それは確かにそうであろうな」
真っ当な指摘だった。
取引を成立させるためには、ここで最後の一押しが必要となる。バルバトスは眉間を指で
「……この魔王城は元々我が軍の兵舎を兼ねている。居住用の部屋ならば、この部屋と同じ広さでざっと90戸は用意できよう」
「そんなにあるんだ」
90戸もあれば、マンションとして十分に成立する。
「この部屋と同じなら80平米くらい……? 元々のマンションの計画とあんまり変わらない……っていうか、もしかしてこっちの方が割がいいかも?」
「そこで条件だが。余が一ヶ月以内に、その90戸の部屋全てに契約した住民を住まわせる。というのはどうだろうか?」
「一ヶ月で!?」
驚いて目を丸くする
先のやり取りでは剣幕に押されっぱなしだったが、今は完全にペースを握っている。これならば、魔王の面目も保たれるというものだ。
「……できなかったらどうするの?」
「できなければ、その時は仕方があるまい。最悪この城を取り壊して大人しく撤去してやるわ」
なんとか話の粗を見つけようとするシグナが、肩を怒らせて即座に食いついた。
「分かった。さてはお前、嫌がる人々を無理やりこの城に閉じ込めるつもりだな! それで条件を満たしたと
「馬鹿め。そんな事をするわけがあるまい」
「口だけなら何とでも言えるぞバルバトス!」
「口だけで済ますつもりなどない。魔王バルバトスの名にかけて、この魔王城に住まう者たちには一生上質で豊かな暮らしを約束してやろう。これは正式な契約だ」
バルバトスは卓上の羊皮紙を一枚手に取り、指を
「照覧は無限の
詠唱と共に
既にバルバトスの魔法によって未知の言語でも意味を理解できるようになっている
つまり『魔王バルバトスは、魔王城に住まう者たちに一生上質で豊かな暮らしを約束する』という契約文書だ。
不気味な筆記が終わると、バルバトスは書面下部の空いたスペースを指し示し、卓上の羽根ペンとインク
「
「ちょっと待った! よく見せてくれ。僕には
シグナが椅子から立ち上がり、
「神権拝領。我が信に応え、奇跡をここに示し
神眼アルタイルはあらゆる
シグナは意気揚々と文書を隅々まで眺め、しかし、すぐに落胆する羽目になった。
「た、確かにこの契約は有効のようだ……」
そこになんの不正も読み取れなかったらしい。



