魔導人形に二度目の眠りを
第2章 宿主 ②
出してくれたのは、半分ほどのパンに皿の底が見えるほどしか入っていないスープ。一人分を分けてくれているようで、お世辞にも量が多いとは言えない。
「
「商人は、時々やってくるだけで普段町にいないわ。それ以外で詳しい人となると……」
顎に指を添えて宙に視線をやるリーニア。何かを思い出したのか、目線がエルガに向いた。
「ずいぶん前に、お館様の
「なるほど。図面を見たこともあるでしょうし、兄上が
善は急げと食事を済ませたエルガとリーニアは、その職人が住む家へと向かった。
「お館様のお
老夫婦二人で暮らしている簡素な家にやってきたはいいが、リーニアが用件を言うとすぐさま老職人は難色を示した。
老職人は不安げにリーニアに目をやって、そのあとエルガにも
「兄を──」
この流れからして、バカ正直に言って教えてもらえるとは思えない。エルガはリーニアを小突いた。
「ちょっと、何」
「ここは俺に任せてください」
不思議そうに首をひねるリーニアに変わってエルガが話した。
「以前俺がお館様のお
ん? と想定と違う話にリーニアが不審げにエルガを
「あんた、昨日ベリングをやっつけた旅の人か」
「はい」
ふうん、と老職人は鼻を鳴らして、もう一度エルガの顔を見る。
「あんただけになら、いいか」
「私は?」
「リイちゃんはダメだ」
「なんでよー?」
唇を
「
「お構いなく。リーンには聞かせたくなかったのですか?」
「ああ。もちろん。あいつの兄貴……ルカスが、
ふっと脱力した老職人は、深い笑い
「真面目で誠実で正義感があって、お
とても大切にされて、
そうだ。愛されている、だ。
それはこの老職人だけではなく、町の人たちからも感じられた。
「では、侵入経路はあると?」
「そういうこった」
続きを待っていると、老職人はエルガの背後を指差した。振り返ると、リーニアが窓ガラスにへばりついていた。
「リーン、進む話が進みません」
窓を開けたエルガが至極迷惑そうに言うと、リーニアは納得いかなそうに
「どうして私がいちゃいけないのよ」
「それが先方のご希望ですから」
「あ、そ」
投げやりに言うと、怒ったような大股で家から離れていった。
「もう大丈夫です」
老職人が優しい
「手間取らせてすまんね、旅の人」
「いえ」
「本題に戻ろう。もう一四、五年も前になるが、お
「では、リーンの兄上はその地下に
「さすがにそれはわからねえ。ただの食料庫かもしれねえしな」
エルガが知っている当時の貴族の
「別棟を建てたりした他に、地下から続く秘密の抜け道を作った。
「いいのですか? 俺のような
「
カカ、と老職人は肩を揺らした。
リーニアが商人から聞いた話では、兄らしき人物がいるかどうかわからないと言っていたそうだ。見つからないのであれば、その地下に
「忘れ物、見つかるといいな。万が一お館様にバレてみろ。ベリングを倒せるほど強いあんたでも、お館様には
「ブリッツ伯爵の特別な力を見たことがあるのですか?」
「たまたま、一度だけな。
思い返したのか、老職人は、眉間に
やはり、ブリッツ伯爵は宿主で間違いないだろう。老職人の話ではもう六〇歳に近いという。筋力体力が落ち、病気にもなりやすい年代だ。
次の体をリーニアの兄ルカスに決めてもおかしくはない。
「リーニアには、今した話は聞かせないでくれ。もしも、忘れ物のついでに……勝手すぎるお願いだが、ルカスをもし見かけたら連れ出してやってくんねえか」
「善処します」
立ち上がって、エルガは老職人と握手をして家をあとにした。
老職人の家のそばにある木の下にいたリーニアは、合流するとエルガを
「あんな適当なことをおじいちゃん相手に平然とよくツラツラとしゃべれるわね。信じられない。大
「リーンがバカ正直に用件を伝えていたら、あの老職人は何も教えてはくれなかったでしょう」
「どうしてよ」
「町の人は、あなたを危険な目に遭わせたくないと思っているからです」
知り合いたちの顔が思い浮かんだのか、リーニアは気勢を
「そうかもしれないけれど……」
「しかし、その
「え、ほんと?」
「ですが、俺は大
「ちょっと、ねえ、
「いえ。全然」
「いや、持ってるわよ、絶対。なんか嫌な言い方だったもの」
「俺が情報を
「
「
町の人たちが、善い人間であることはエルガにもわかった。娘や孫のように
「エルガが一人で行ったって、誰が兄なのかわからないでしょう?」



