幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ①

 ──三ヶ月前。

 数年ぶりにおさなじみの部屋に上がった俺、みやさかるいひどく驚いていた。壁には魔術師のような格好をした青髪タレ目の美少女キャラのポスターがあちこちに貼られており、何台も並んだモニターの前には、高そうなスタンドマイクが置かれてあったからだ。


「ねぇねぇ、どう? わいいでしょー?」


 自慢げに色々と見せびらかしてくるこいつは、この部屋の持ち主であるはねいしあやだ。あやは俺のおさなじみで、大きなブラウンの瞳と赤みがかったボブヘアが特徴的な、明るくけなな少女である……まぁ十九歳のおさなじみのことを少女と呼んでいいのかは、甚だ疑問ではあるが。

 でも俺のオタク趣味やひねくれた性格をよく理解してくれる彼女は、数少ない友人の一人だった。だから昔は毎日遊ぶほど仲が良かったのだが……中学を卒業した辺りからは、たまにやり取りする程度で終わっていた。

 だからこうやって顔を合わせて遊ぶのは、かなり久しぶりのことなんだけど……ツッコミどころが多すぎて、何から話せばいいか分からないな。


「いや、あや。何だこれ、マイクとかあるし……実況者にでもなったのか?」

「ふふ、ちょっと違うよ、るい。私はVTuberになったんだよ!」

「VTuber?」


 VTuberって、話には聞いたことあるけれど……そこまで詳しくは知らないんだよな。大きなライブをやったりだとか、投げ銭スパチヤの額が話題になったりするのは、たまに耳に入ってくるんだけど。


「VTuberってそんな簡単になれるものなのか?」

「うん、私の場合はオーディションで採用されたから、立ち絵とかそこらへんは運営さんが用意してくれたんだー」

「いつの間にそんなことを……ってまさか」


 改めて俺は、壁に貼られている美少女キャラクターのポスターに視線を向ける。するとあやは満足そうに大きくうなずいて。


「そう、私はこの『レイ・アズリル』ってキャラの中の人をやってるんだ!」

「……あははっ! マジか、全然似てないのに!」

「そっ、それは当たり前でしょ!? VTuberなんだからさ!」


 あやは恥ずかしいのか怒っているのか分からないが、顔を赤くしながら俺に言ってきた。確かにそれは分かるんだけど、このキャラクターとあやの髪の色とか、格好が違いすぎて面白かったんだよな。まぁ何にでもなりたいようになれるのが、VTuberの良さなんだろうけど。そしてあやは話を変えるように、俺にこんな提案をしてきて。


「そんなことよりるい、ゲームしようよ! そのためにるいを誘ったんだからさ」

「おお、いいじゃん。やっぱゲームってオンラインより、隣でやる方が面白いもんな」

「でしょでしょ? じゃあ準備するから、ちょっと待ってて!」


 そう言ってあやはモニター前のピンク色のゲーミングチェアに座り、カチッとパソコンを起動させた……ん? PCゲーでもやるつもりなのか? いや、まさかこいつ……。


「お前、配信する気か?」

「……ダメ?」

「駄目に決まってんだろ。俺は配信しに来たわけじゃないんだ」


 俺はあやと遊ぶためにここへ来たのであって、レイなんたらと遊びに来たわけじゃない。そもそもVTuberやってることなんて、今日初めて知ったし……だけどあやは懇願するように、両手を合わせて。


「いや、お願いだよるい! 面白い友達連れて配信するって、昨日視聴者に言っちゃったんだ!」

「まーたそんな勝手なことを……そもそもなんで俺なんだよ。VTuberなら他のVTuberとやればいいだろ?」

「だって、放送でるいのことしやべっちゃったんだもん! めーっちゃ強いゲーマーの友達がいるんだって自慢しちゃったんだもん!」

「はぁ、マジかお前……」


 ……忘れていたけど、こいつはそういうヤツだったな。俺のゲームの腕を認めてくれて、目を輝かせて称賛してくれる純粋なヤツ。だから褒められ慣れてない俺はそれが気持ちよくて、こっそり裏技とかを練習しては、あやに見せびらかしてたんだよな……うっ、黒歴史がよみがえってくる。


「だから頼むよ、るいぃー! 実はもう予約枠も取ってるんだよー!」

「そこまでしてたのか……ちょっとチャンネル見せてみろ」

「あ、うん。いいよ!」


 俺はあやの後ろに立って、モニター画面をのぞいた。世界的に有名な動画サイト『YooTube』のトップ画面からその『レイ・アズリル』チャンネルまで飛び、そこに表示されていたチャンネル登録者数が……。


「40・3万人……!? そ、そんなに人気だったのかお前!?」

「まぁね! でも、事務所の力もかなり大きいけどさー」

「にしてもこの数字はすげぇよ……というか事務所って?」

「ああー。るいが知ってるか分からないけど『スカイサンライバー』って事務所で……」

「え、聞いたことあるぞ!?」


 VTuberにうとい俺でも聞いたことのある事務所だ。確かVTuber事務所にしては珍しく、男女のライバーが所属しており、そのライバー数は百人を超えるという……そんなすごいところにあやが入っていたなんてな。

 そしてあやは配信のページを見せてきて。


「ほら見て見て! もう五百人も待機しているよ!」

「ええ……」


 まだ放送は始まっていないというのに、コメント欄は絶え間なく流れ続けていた。それで気になるのが……。


「何この『レイ待機』って。みんな打ってて怖いんだけど」

「ああ、それは私がレイって名前だから、みんなが待機中のコメントを考えてくれたの!」

「何だそりゃ……」


 やっぱりVTuberかいわいのことはよく分からないや……。


「それで……あと数分で予約してた、開始時間になるからさ! お願いだよ、るい! 私と一緒にゲーム配信してくれない?」


 そして改めてあやは手を合わせ、俺に懇願してきた。……まぁ、こんなにも多くの視聴者は期待してるみたいだし、あやも俺を信用してVTuberのこと教えてくれたみたいだからな。ここで断るのも、ちょっと気が引ける。だから……少しだけなら協力してやってもいいのかなぁ。


「……分かったよ。本当に一回だけだからな?」

「ホント……!? ありがとうるい! やっぱり持つべきものはおさなじみだねー!」

「はいはい」


 そして俺はあらかじあやの隣に用意されていた丸椅子に座って、配信の用意をしているあやを眺めていた。まぁ、配信って言っても普通に遊ぶだけでいいだろ。それにどうせ一回だけなんだから、別に失敗しても大丈夫だ…………ってこのときの俺は、そこまで深く考えていなかった。

 もちろん自分がVTuberになるなんてことは、想像すらしていなかったんだ。


「それで、お前のことなんて呼べばいいんだ? あやじゃマズいんだろ?」

「そりゃそうだよ。私のことはレイって呼んでね!」

「分かったよレイ……うーわ慣れねぇー……」


 急におさなじみの呼び方を変えるなんて初めてのことだし、うっかり本名が出てきてしまいそうだ。でもたった一度のうっかりで、ネットに一生名前が残ると思うと恐ろしいよな。


「つーか今更だけど、俺がVTuberの配信なんか出ていいのか? 俺男だし……設定とかも色々あるんだろ? よく分かんねぇけど」

「それは大丈夫! 事前にみんなには話してるし、るいとは魔法学校で会った友達ってことにしておいたから!」