幼馴染のVTuber配信に出たら超神回で人生変わった

【一章】幼馴染がVTuberになっていた ②

「余計ややこしくなってない?」


 魔法学校なんて俺行ったことないよ? って……いや。こいつもそうだよな。あやは魔法学校なんかじゃなくて、地元の大学に通ってるはずだもんな。

 まぁ……VTuberってのはテーマパークのキャラクターみたいなもので、夢を与える職業なんだろう。中身がどうとか、そういう議論はきっと無粋なんだろうな。


「一応るいの立ち絵もいたし、大丈夫だよ! 後はノリで合わせて!」

「そんな適当な……」


 言いながらあやが描いた絵を見るが、それはレイと似た感じの美化されたイケメン風のキャラクターだった。ああ、そういやこいつ絵もかったな……もちろん俺とは似ても似つかないんだけど。


「まぁるいのキャラは絵だけだから全然動かないけど……あ、るいのことはるいって呼んでいい?」

「別にいいけどさ……」


 どうせ一回だけだから、俺の方は本名でも構わないだろう。それに俺の名前はちょっとアニメっぽいもんな……って、なんでこっちが世界観の心配してるんだ?


「よーし、それじゃあもう配信始めるよ!」


 そして配信開始のボタンか何かを押したあやは声のトーンを一段階上げて、マイクに向かって話しかけるのだった。


「やぁやぁ、みんなこんにちはー! 闇属性魔術師のレイ・アズリルだよっ!」


 あやが言うなり、コメント欄には『こんれいー』と文字が続々と流れてきた。統率され過ぎてて何か怖いな……それともVTuberってみんなこんな感じなのか?


「今日はそう、特別企画ってことでついに私の友達を呼んだんだ! 早速紹介するよ……るいー! こっちに来てー!」


 そして手招きしているあやを見た俺は、その通りマイクに近づいて……分からないなりに、何とかしやべっていった。


「ど、どうも、るいです。えっと、レイ……に急に呼ばれて来たから、何も分かっていないんですけど。よろしくお願いします」


 俺の声を聞いたコメントは【うわさの人がついに来たな!】だの【新人さんキタコレ】だの【レイはもう帰っていいぞ】だので埋まっていた。……まぁ、流石さすがにこれらはお世辞だろうが。多少なりとも歓迎されてることを知れて、ちょっと安心したよ。

 ……というかレイちゃん、結構視聴者からイジられてない? こんなわいい見た目してるのにネタキャラなの? まぁ素のあやを知っている自分からすれば、そうなるのも自然な気はするが……。


「よーし、じゃあ早速ゲームするよっ! るい!」

「いいけど、何をするんだ?」

「それはね……これだよ! 『まりもカート』!」


 あやの言葉にコメント欄は盛り上がりを見せる。

【うおおおおおおおお!!】

【きたあああああああああああ!!】

【レイせっこ】

【あーあ、友達減ったわ】

【草】


「……何かコメント盛り上がってるけど、どうしたんだ?」

「ふふふ、隠しても仕方ないね……そう! 私はここ最近、タイムアタックの練習していたんだよ! レイボーイらとも戦って鍛えてもらってたんだ!」

「レイボーイ?」

「私の視聴者の呼び名だよっ! ちなみに女の子はレイガールって言うの!」

「へぇー……」


 驚くほど興味ないけど、そういうのもあるんだろう……ちょっと痛いなって思ったのは内緒な。

【ルイ君興味なさそうで草】

 でも、視聴者にはバレてるらしい。

 そしてあやはゲームを起動させ、キャラクター選択画面まで移動させた……説明も必要ないと思うが『まりもカート』(以下「まりカ」)はレース中にアイテムなんかを使用出来る、比較的パーティー要素の強いレースゲームだ。

 まぁパーティーゲームと言っても、定期的に大会も行われているようだし。ガチれば結構奥が深いゲームなのである。


「よし、私はこの『まりピオ』を使用するよ!」


 あやは準軽量級のまりもヘッドのキャラクターを選択し、両脇に羽の生えたマシンを選択した。そういやあや、昔からこのキャラ好きだったよな……。


「じゃ、俺は『まりイージ』で」


 一方俺は準重量級の脚長のキャラクターを選択した。マシンは当然、花の生えたヤツで。

【ん?】

【あっ】

【あ】

【あっ……(察し)】

【流れ変わったな】

【いやー流石さすがにレイの勝ちだろ。食ってくる】

 察しの良い視聴者は気づいているらしいが、あえて俺はそれに触れないでおく。


「おっ、るいもそのキャラ好きなの? レイボーイとやった時も、そのキャラ人気でさー!」

「ああ、そうなのか?」


 俺は適当にあいづちを打つが……まさかこいつ、やり込んでるくせに知らないのか? 現時点で、このキャラとマシンが、最強の組み合わせだと言われていることに……。

【ルイくんに3万ペリカ賭けます】

【バカ、レイだっていだろ! 緑まりもに当たるのが!】

【でも実際レイはそのへんの人よりいから、どうなるのか期待】

 ……まぁ、こんなコメ欄なら教えてくれないのも普通なのか……?


「じゃあやるよ! もちろんCPUは無し、私らだけのタイマンだよ!」

「ああ、分かった……」


 ……いや、違う! こいつの視線はずっとゲーム画面に向いてるから、ほとんどコメントを読んでないんだ! それ、配信者として致命的じゃないのか!?


「コースはどうしよっか?」

「ああ……全部、レイが決めていいぞ」

「よし、言ったね! 絶対後悔しないでよねっ!」


【かわいい】

【かわいい】

【即落ち期待】

 でもこの小物感が、視聴者にウケてるんだろうか……?


「それじゃあコースは……まりおっ、まりモールだぁっ!」

「そこむ?」


【素材助かる】

【さっきの耐久誰か作ってくれ】

【かわいい】

【不覚にもえてしまった】

 まぁ……その辺も含めてあやが愛されてるのなら、俺も少しだけうれしいよ。そんなことを思いながら、俺は触り慣れたコントローラーをカチャカチャっと鳴らすのだった。


 ──そして俺らは何回かレースをプレイしていった。結果は全部……俺の勝ちだった。


「くそーっ! また負けたぁー!?」


 いつものあやとそこまで変わらない声で、悔しそうに言う。わざわざあやがタイマンにしてくれたお陰で、実力差がはっきりと出るようになってしまったのだ。

【レイ虐助かる】

流石さすがにルイくん上手すぎね? プロ?】

【正直レイを馬鹿にしてるやつらでも、ここまで大差で勝てないだろうからなw】

 コメントに乗せられて、つい気持ちよくなってしまう。ああ、配信ってこんなに楽しいものだったんだな……いや、あやをボコってるのが単に楽しいだけなのかもしれないが。

【ルイ君はいのになんで配信しないんですか?】

 次のコースのロード中、いい感じのコメントがあったので、俺はそれを拾ってみた。


「ルイはいのになんで配信しないのか……それは単純にやり方が分からないからだね」


 ゲームがいのに動画あげたりしない人の理由って、ほとんどそんな感じだと思うよ。だって機材とか編集とか全然分かんないし……やり方が分かってたとしても、それらをそろえるお金と時間が無いんだよな。

【えーもったいない】

【始めたら推すのにー】

【レイに教えてもらったら?】

 まぁ、確かにあやに教われば出来るかもしれないが……別に俺は配信者を目指しているわけではないんだよなぁ。


「えっ? 配信したいのなら私が教えてあげてもいいけど……あ、ダメだ。愛してるレイガール達をるいに取られてしまうじゃん……!!」


【草】

【草】

【草】

【草】