勇者は論理で死に絶える
プロローグ
──名探偵──
暮れなずむ空が夕焼けのパステルを使い果たし、薄暮に
夜の訪れとともに吐く息は白く変わり、僕らの間で立ちのぼる硝煙と混ざり合う。
潮気を帯びた木枯らしがそれらをまとめてさらっていき、残されたのは、沈黙と困惑。
「…………なんで、外した……?」
立ち尽くしたままリボルバークイーンが口を開く。
僕が撃ち出した弾丸は、彼女の横を抜けて背後に立ち並ぶ墓石を砕いていた。
「…………他人を殺してまで生きたいとは思わない」
殺人は、踏み込んではいけない悪徳だ。
僕は運悪く「勇者」になってしまった。けれど「悪党」になるつもりはない。
だから僕が殺されるのは、悪事をはたらいたときではなく、正体がバレてしまったとき──ただ、運がなかった──そういう理由で、死にたかった。
そう。僕は殺されるはずだった。
僕が鳴らす銃声を合図にして。リボルバークイーンが弄しているなんらかの策によって。
けれど、僕はなぜかまだ生きている。
そのことに、僕だけでなくリボルバークイーンもおどろいているようだった。
「────よく言ったね。えらいよ」
聞こえた中音域の声に、振り返る。
視線の先──堤防の端にある、立ち入り禁止のフェンスに覆われた
その姿を認めたリボルバークイーンはわずかにたじろぎ、開きかけた唇をきつく結び直す。
「…………だれだ?」
問いかけると、人影は履いているブーツをタン、と鳴らしてオイルタンクの上から飛んだ。
カーディガンが風を受けて膨らみ、銀色のボブヘアの下で惑星を
そして、ストンと。チェス盤に置かれるコマのように僕とリボルバークイーンの間に降り立った彼女は、
「
まっすぐこちらを見つめて放たれる言葉には一切のウソがない。
「…………名、探偵……?」
「うん。ボクがきたからには、もう大丈夫だよ」
そう言いながら、彼女は戸惑う僕の手をとって引き寄せ、一方的な抱擁に
理解不能なそのハグは、リボルバークイーンと同じ強引さを持っているのに、不思議と突き放す気になれない。内心まで包み込むような深い慈悲を感じさせる。
「キミは、生きていていいんだよ。
理解が追いつかない言葉を、たったひとつの真実みたいに耳元から流し込まれる。
やわらかな膨らみの中に顔は埋もれて。目が覚めるジャスミンのような香りがするのに。胸の奥底にある渇きを潤す言葉をくれる彼女はまるで僕が作り出した都合のいい幻のようで。
現実感のない、力強さと
「生きていて、いいわけないだろ」
僕を抱きすくめる彼女の後ろで、リボルバークイーンが言う。
「
リボルバークイーンの言うとおりだ。
勇者は生きていてはいけない。なぜなら勇者となった時点でソレは
多くの常人によって成り立っているこの世界の秩序を守るためにも、勇者は殺されなければならない。
「そんなルールに、しかしボクは縛られないのである」
彼女は僕の手から銃を抜き取ると、それをリボルバークイーンに投げ返した。
クルクルと回転しながら手元にもどってきた銃を握って、リボルバークイーンは。
「…………ふざけるなよ、ヒトリ」
その銃口を、名探偵の後頭部に突きつける。
しかし「名探偵」を自称する彼女は、
「空っぽの銃じゃ脅しにならないよ、
「そ、その名前で呼ぶんじゃねえよ!」
「どうして? かわいいのに」
彼女はおどけるようにクルリと身を
標的を逸してこちらを
背後できこえたもうひとつの銃声のことを。
キョロキョロと視線をさまよわせる僕の足下をちょいちょいと指し示す名探偵。
そこには土煙を上げる黒い弾丸がめり込んでいた。
「…………これは、おまえが撃ち込んだのか?」
「ボクじゃないよ」
彼女は小さく首を横に振ると、ピンと一本指を立てる。
そしてそれをリボルバークイーンに向けて言うのだった。
「──【



