勇者は論理で死に絶える
プロローグ
──あぶり出されたウソの色──
彼女が言っているのはつまり、すべて見なかったことにしようということだった。
それはなんの解決にもなっていない。ただ
「名探偵」というわりにはなんとも場当たり的な提案だ。
なのに。それが不思議とこの場ではもっとも円満な解決策に思えてしまう。
「ダメだ。そいつを生かす理由がない」
「生かす理由なんて、殺したくないからで十分じゃない」
「そいつはおまえがなにを言おうと【
「どうしてギフトの名前まで知ってるの?」
「それは、そいつが自分で……ッ……!」
やられた、とリボルバークイーンが唇を
「なら、その自白がまちがいだったなら、
それはリボルバークイーンの論理を
たしかに、僕はまだ決定的な
死体の近くに銃を持っているやつがいたらそれを探偵だと思っても不自然ではないし、弾丸が装塡されていないと言われても自分の頭に銃口を向けて引き金を引こうとしているやつがいたらそれを止めようとすることは一般的な倫理観からも逸脱していない。
僕が持つ【
だから僕がここで証言をひっくり返せば──ただ一言、やっぱり自分は勇者なんかじゃなかったと言えば──証拠不十分。僕が殺されることはなくなる。
「
名探偵は僕に向かってやさしく
それは
先刻までどうしようもなかったはずの状況が、いつの間にか、ただ
問題が、解きほぐされてしまっている。
「…………」
問題に潜む
だが、真に
むしろ理解して語れない部分にこそ本質がある。
彼女は──名探偵は──なぜかその目で見ていないはずのことまで知っている。
すくなくとも僕がリボルバークイーンと出会ったとき、周囲に彼女の姿はなかった。僕のギフトについて白状させられたときも同様だ。
にもかかわらず、なぜか彼女は僕とリボルバークイーンのやりとりを最初から見ていたかのように話を展開している。彼女はなぜかこの場で交わされた会話のすべてを知っていて、並べられた言葉のなにがウソで、なにが真実か、逐一問いただすまでもなくわかっている。問題を解きほぐすために必要な情報をすべて事前に手に入れている。
見るまでもなく知っていて、聞くまでもなくわかっている。
まるで、全知全能。神さまが人の姿をして降臨したみたいだった。
「…………まさか、ここまでとはな」
探偵は勇者を殺すために存在している。
そんなあたりまえに縛られない常識外の存在──
探偵でありながら、勇者を救うことを
────まったく、本当に。
どこまでいっても、僕の運は尽きている。
「…………ああ、そうだな」
僕は右目のコンタクトを取り外して投げ捨てる。
黒目を偽るレンズが夜空で
吐き出した息が白く変わって沈黙に溶けていく。
僕はゆっくりと顔を上げる。
そして、二人の探偵のまえで宣言した。
「────僕は【
瞬間、僕の右目は赤く染まる。
僕が
【
確定された真実は、神さまにだって
僕は【
僕の望みはただひとつ。
────探偵に、殺されることだ。



