他校の氷姫を助けたら、お友達から始める事になりました side.瑛二
第九話 巻坂瑛二は約束する
次の日、学校。今日も霧香は休みだった。
何やらやりたいことがあるらしく、それに姉貴が付き添うらしい。何をやるのかはよく分かってないが……姉貴が居るなら変なことにはならないと思う。
それより今日はやることがある。まずは――昼休み。
「時山さんって子居るかー?」
一年生の教室。来るのは数ヶ月ぶりとかだけど、さすがに知らない顔が多いので別学年だなって感じがする。
この教室ってクラスの人から聞いてたが……と思いながら目で探すと、本を読んでいる子と目が合った。
「ま、巻坂さん?」
「おお、居た居た。ちょっといいか?」
「は、はい!」
ちょっとクラスで目立つが……まあ、多分大丈夫だろう。霧香の件は昨日で一旦どうにかなったし。
ということで廊下に出てきて貰う。
「昨日はありがとな。お陰で色々解決したよ。……多分来週からも霧香も来れるはずだから」
「ほ、本当ですか!? ご、ごめんなさい。昨日は……余計なことだったかと後から思ってて」
「あー……や、まあ確かにびっくりしたが。その辺も教えてくれて助かったよ。悪いな、ちょっと取り乱してたかもしんねえ。でも、ちゃんと整理出来たから」
「そう、でしたか。良かったです。今日はその報告に来てくれたんですか?」
「ああ。お礼も言いたかったからな」
多分霧香も言いに行くだろうけど、俺からも早いところ言っておきたかった。時山さんが居なければ……何も解決しなかった。霧香との件も長引いたはずだ。もしかしたら解決しなかった可能性もある。
それと、もう一つ聞きたいことがあった。
「あと、一個いいか?」
「は、はい。なんでしょうか」
「昨日の確認なんだが……あれを知ってるの、昼休みに俺の周りに居た人全員だったんだよな?」
聞きたかったのはそのことである。昨日集まったのは……よく遊ぶメンバー達だったから。
「……はい。気になったので放課後こっそり見てることが多かったんですが、女の子達は女子トイレで、男の子達は教室で話してました。顔も覚えてます。あと、あそこに集まってなかったんですけど、座ってる中にも何人か居ました。ちょっと偏見かもしれませんが、みんな明るそうな見た目の人達です。もしかしたら放課後以外でも話してたかもしれないので、知ってる人自体はもっと多いかもしれないです」
「……なるほど、なぁ」
もしかしたら、とは思ってたけど想像以上に裏切られていたらしい。やっぱり悲しいが……これからは本格的に付き合いを考える必要がありそうだ。
来週からは霧香も居るだろうし、霧香と一緒に考えるかな。
「さんきゅ、助かった」
「はい! ……あの、一ついいですか?」
「なんだ?」
あんまり長い時間引き留めるのも……と思ったが、向こうに呼ばれた。少し緊張したように俺を見てる。
「放課後は図書館に居ることが多いので、暇な時に西沢さんと一緒に来てください……!」
「……! おう、そうするわ。俺はあんまり本読まないんだけどな」
「す、少ないですけど勉強になる漫画とかはあるので!」
「そういやあったな。んじゃ、時間あるときに行くわ」
「ぜひ! 西沢さんにもよろしく伝えておいてください!」
「ああ、分かった。そんじゃな」
「はい!」
礼儀正しくお辞儀をする時山さん。……恋人が出来て早々女友達を作るのはちょっと良くない気もするが、霧香が仲良く出来るタイプかもしれないな。
近いうちに霧香と行ってみようと思いながら、俺は教室へ戻るのだった。
◆◆◆
放課後、体育館裏。
そこに俺は呼び出されていた。相手は当然、昨日話した新谷である。
そして、その理由もなんとなく分かっていた。ここは告白の名所なのだ。
体育館裏は体育館で言うと舞台側で窓がなく、ここは完全に死角だ。校舎の方からも見られないのである。……その代わり、昔はここでいじめもあったらしいが。幸い、俺はここでいじめられてる生徒を見たことない。
そして、そこで待っているとすぐに彼女は来た。
「お待たせ、待ったー?」
「いや、今来たとこ」
『ちょっと待ってて。やることがあるから』と言っていたが、思っていた以上に来るのが早かった。まあ、それはいいんだけども。
「そんで? なんの用だ?」
「またまた、そういうこと言って分かってるんでしょ? 初めてじゃないくせに」
「……」
……想像はついてる。告白も今まで何回かされてて、全てこの場所だった。
でも、俺としては……この予想が合っていてほしくなかった。だけど、俺の嫌な予感は意外と当たって――
「私と付き合ってよ、瑛二君」
――今回も当たってしまった。
「私達、お似合いだと思わない? お互いクラスのリーダーみたいな存在でしょ? 友達も多いし、みんなに祝福されると思うの」
「断る」
返事は最初から決まっていた。というかよく言えたものだ。友達が多いとか祝福されるとか……本当に祝福してきそうだから鳥肌が立つ。
「霧香をいじめておいてよく言えたな」
「……誰かと勘違いしてるんじゃない?」
「友達って言ったが……大事な人がいじめられてるのになんも言わねえどころか、隠そうとするやつを友達なんて言わねえよ」
「……」
新谷の顔から表情が抜け落ちる。感情のこもっていない顔、そして声も平坦なものになった。
「誰から聞いたの?」
「さあ、誰だろうな」
「……チッ。バカの集まりだったのね。口止めはしたんだけど……効果なかったのかしら」
「本性を出すまではえぇな」
そして、新谷は言葉を吐き捨てるように呟いていた。さすがにこの変わり身には驚いてしまう。
ってか、変に広めてるとは思ってたけど口止めはしてたのか。……それなら俺に隠していたのも理由が? と思ったが、俺のしていた想像とは違っていた。
「私の言う通りにしてたら好きな子と付き合うの手伝うって言ったんだけど……さすがに女子と違って男に恋愛脳は少なかったのかしら」
「おいおい……俺の友達だと思ってた存在達の株がありえないくらい落ちたんだが」
全員好きな人が居たのか……いや、分かんねえな。結構ゲスな考え持ってるやつも居たしな。あんまり俺の前とか人前で口にしないよう注意もしてたが、体型や顔だけで好き嫌い言ってるやつも居た。推測にしかなんないし、あんまり考えないようにしよう。
「本当にいいの? これでも私、学校内でも可愛いって有名なんだけど?」
「外見が良いってのは認めるけど性格がな」
見てると肌とか美容に気を遣ってるとか、遊んでる時は服装のセンスとかも良いとは思っていた。
そこの努力はすげえって思う。……でも、人をいじめる性格は冗談でも好きだなんて言えない。
まあ、それ以前に――
「俺、付き合ってる子が居るんでな」
一瞬、新谷が目を丸くした。それからはあ、とため息を吐かれる。
「……先を越されてたのね」
「言っとくけどそっちが先に告白してきても断ってたからな。っつかなんとなく避けてるってのは伝わってたと思うんだが」
いや……霧香が居なければいけるって踏んでたのか? それでも俺を甘く見てると思うが。
「本当にいいの? 後悔することになるわよ」
「やれるもんならやってみろ。何に代えても霧香は守るからな」
こっちはもう決めてる。霧香は何があっても守る。……友達って言える存在はもう居ないけど、クラスでも真面目な生徒と仲良くなれば。女子はクラス長くらいに頼んでおけば多分大丈夫だと思いたい。
しかし、俺の言葉を新谷は鼻で笑った。
「何か勘違いしてるかもしれないけど、後悔するのは瑛二君だけじゃないわ。あの子もよ?」
「ん?」
その言葉がよく分からなかったが――新谷が一瞬笑って。
「……うえぇぇぇえええんだけど! おにいちゃあぁん!」
――とんでもない変わり身で泣き始めた。
いきなりのことに脳がフリーズする。
だけど、すぐに理解した。――体育館裏に来た人達を見て。
「おうおうおう! どうした! 静子ぉ!」
「おにいちゃぁん、うぅ、ひっぐ。瑛二君に振られていじめられたぁ!」
「んだとぉ!」
「……あー。そのパターンだったか」
現れたのは強面の男子生徒達。数は……十人。多分、全員三年生だ。
そういえば新谷の兄貴がヤンキーみたいな話、ちょこちょこ流れてきてたな。……しかも重度のシスコンで、新谷に何かあるとすっ飛んできてボコられるとか。
「しかも……うぅ、私のこと性格終わってるって」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
「そこまで言ってねえんだが」
「うるせえ!」
話聞かねえな。……いや、これただ人を殴りてえって理由もあるんだろうな。新谷兄以外は多分そっちの気持ちが強いんだろう。
「瑛二君が悪いんだからね。……見せしめにもなるし」
「とことん自己中だな。よくそれで今までやってこれたもんだ」
「私にはお兄ちゃんが居るのよ!」
あー……全部兄貴が罪被ってた感じか。殴った後に色々脅迫してたのかもしれない。
というかここを場所に選んだのもそういうことか。ここ、防犯カメラとかないんだろうな。
はあ、と大きく息を吐く。
「言っとくが、俺こういうのに結構慣れてるぞ」
「うるさい! お兄ちゃん!」
「おうよ! てめえら行け!」
「お前がやるんじゃねえのかよ」
新谷の掛け声と一緒に一人こっちに向かってくる。大将は腰が重いらしい。
……これ慣れてるな。
躊躇無く顔面を殴りつけようとする拳を見て察する。だけど――
「慣れてるのはこっちもなんだよっ!」
その拳に――自分の額を合わせる。グキリ、と何かが砕ける音がした。
「うぐあぁぁぁ」
「……ってぇ。でも案外上手くいくもんだな」
額。頭蓋骨は体の骨の中でもかなり硬い部位。対して腕は案外脆いのだ。ボクシングとかだとグローブがあるし、布を巻かないと怪我をする部位。
まあ、鼻とか顎をやられると危ないんだけども。上手くいけばこんな風にいける。……ちょっと想定外の威力だけども。反撃とはいえここまでやるのは初めてだ。
「タケェ!? てめっ!」
「完全に正当防衛なんだけどな。……慣れてるって言っただろ?」
続いて飛びかかってくる男から大きく避けながらそう言っておく。こういうのに巻き込まれるのは初めてじゃない。
それこそ小学生の時は子どもだからか手を出してくる人が多かったし……中学に入ってからも、少なからず居た。大体霧香目当てで、俺が割って入っての逆上である。
世の中にはやべえのも居るんだなって思いながら対処してたが、こんな身近にたくさん居るとは思ってなかった。
「てめ、避けんな!」
「無茶言うな!」
というか不意打ちならともかく、こんな開けた場所で大振りなのは……怯えて動けないならともかく、普通は当たらない。
いや、怯えてる奴にしかやってこなかったのかもしれないな。この人数を見る感じ。
ため息を吐くと――その拳が腹に滑り込んできた。
「ははっ……うぐっ!?」
「惜しい、もうちょいだったな」
だが、それは途中で止まる。……手首を膝と肘で思い切りやったのである。感触的に折れてそうだ。
あんまり良い感触じゃないなと思いながら下がると――脇の下から腕が入ってきた。
「チッ……あ?」
「へへっ……やれぇ!」
いわゆる羽交い締め、と呼ばれる体勢。さすがに一瞬焦ったが、すぐに違和感に気づいた。……これ、完全に見よう見まねでやってるやつだ。手も組んでねえし、力で拘束してるだけだ。
「死ねやァ!」
「……よっ! っと!」
来るのは顔面への拳。腹を蹴るとかの方が確実だろうけど……今まではここで反撃されるとかなかったんだろうな、と思う。
タイミングを合わせ、思い切り踏ん張る。そのまま――俺は力任せに、思いきり前屈みになる。
「ぐぶっ!?」
「うおっ!? す、すまねがっっ!?」
「喧嘩慣れじゃなくて、自分より弱い奴を複数でいじめるのに慣れてるだけだったな」
そのまま仲間の顔面を殴りつけた男の脛を思い切り蹴る。そのまま痛みでしゃがみ込んだ男の横腹に蹴りを入れた。
「さ、次は誰だ?」
「……なんだ、てめえ」
一度ふうと息を吐いて、残りを見る。……最初とその次はともかく、今の二人は多分骨とかは折れてない。気絶なんて都合の良いこと出来るはずもないし、締め落としは素人がやると危ない。
とりあえずさっきの脛みたいに痛いところを徹底的に潰して……人数が減ったら逃げるか。
「姉貴と親父が昔、プロレスにハマっててな。知識にプラスで鍛えてるんだよ」
今もうずくまってるのを含めて八人。……今までは多くても三、四人だったが。
さすがにキツいが、やれるところまでやろう。
そう思いながら、起き上がって中腰になった男の肩を蹴り飛ばした。
◆◇◆
お姉ちゃんとお洋服や化粧品を買って、家に帰ってきた時のことだった。
お姉ちゃんに電話が掛かってきた。学校から? と呟いた後に――血相を変えた。
「お姉ちゃん……?」
「……瑛二が事件に巻き込まれたって」
「え!?」
いきなりのことにびっくりして大きな声が漏れた。事件で嫌な予感がして、思わずお姉ちゃんの腕を掴む。
「……とりあえず病院に。大怪我はしてないみたいだけど」
「わ、私も!」
「うん、行こう」
すぐに家を出て病院へ向かう。お姉ちゃんが免許を持っていて良かった。
「でも、事件ってどうして……」
「……後から分かるだろうから今のうちに言っておくけど、三年生複数人と殴り合いの大喧嘩したらしい。……いや、十人って言ってたし喧嘩って言っていいのかは分からないんだけど」
「十人!?」
また大きな声が出てしまった。今まで瑛二に助けられたことは何度もあったけど……さすがにこの人数はなかった。
「そ、それって、もしかして――」
そういえば昨日言っていた。明日――つまり今日、やることがあるって。
しかも……新谷さんのお兄さんは学校でもかなり有名な不良だった。
「霧香、何か分かるの?」
「……新谷さん。その、私をいじめてた子がもしかしたら関係してるかも。お兄さんが不良らしくて」
「……妹と弟が同一人物にいじめられるの、お姉ちゃんとしては中々許せないね。いや、相手の方が大怪我してるらしいけど」
「そ、そうなの? え? 十人に?」
「って言ってたけど、詳しくは病院で話すって。新里先生って分かる?」
「男子の方担当してる体育の先生だ。あと生徒指導もやってたはず」
でも……十人相手に? 本当に大怪我してないのかな。
不安と心配が混じってそわそわしながら、病院に向かった。
◆◆◆
病院に着くと新里先生が待っていて、お姉ちゃんは何があったのか話を聞いていた。私は瑛二の入院してる部屋に来て……ベッドの上に瑛二が居た。
「……瑛二!」
「ん? お、霧香。来てくれたのか」
「当たり前だよ! お姉ちゃんも来てて、おばさん達も向かってるって……瑛二」
「ありがとな」
「そっちも気になるだろうけど、瑛二、怪我は……」
ベッドから起き上がる瑛二は至る所にガーゼや絆創膏を貼っていた。包帯を巻いている箇所はない、けど……
「骨折もヒビもなし。頭も……あー。最初の頭突き以外なんもやってないけど検査結果待ち。まあ大丈夫だろうって。細かい傷はちょこちょこあるけどな」
「ほん、とに……?」
「おう。危ないところに直撃は貰ってないしな。腕も打撲くらいだ」
腕や脚を見せて笑う瑛二に――体から力が抜ける。
「よかっ、たぁ……」
「わり、心配かけたな」
そのまま私は瑛二に抱きついた。……瑛二は痛かったかもしれないけど、そのまま抱きしめ返してくれた。
それから瑛二は何があったのか話してくれた。相手はやっぱり新谷さんのお兄さん達で、新谷さんが言うには、瑛二は見せしめのつもりだったって。……自分に逆らうとどうなるのか、周りに見せつけるつもりだったって。
でも、相手は『いじめ慣れ』してるけど『喧嘩慣れ』はしてなかったらしい。……それでも十人相手はかなり疲れたらしい。お姉ちゃんが昔好奇心で調べて教えてくれた人体の急所とか掴まった時の対処法が役に立ったらしい。
それで、丁度新谷さんのお兄さんを転ばせて腕を締め上げたところに新里先生が来たって話していた。
「最初は先生もびっくりしてたけど、新谷達から話を聞いてな。……あと、さすがにことがことだからこれから警察も入るらしい。ま、人数差とかとんでもねえし俺も格闘技とかやってないからな。多分正当防衛で済む……はずだ。精々骨折程度だし、そんくらいやらねえと止まらなかったしな」
「そう……だったんだ」
「ああ。人の骨が折れるのは嫌な感触だったけどな」
苦笑いする瑛二に……自然と涙が溢れる。
「よかっ、たぁ……瑛二が大怪我してなくて」
「……おう。ごめん、心配掛けて」
「お姉ちゃんもすっごい心配してたんだからね。……瑛二が悪くないのはもちろん知ってるけど」
瑛二を抱きしめる力が自然と強くなる。涙は止まってくれなかった。
「私のせい、だよね」
「違う。悪いのは新谷兄妹だ」
「でも……私が今日行ってたら、もしかしたら」
「それで霧香が悪いって話にはなんねえよ。それ言い出したらそもそも呼び出しに行った俺が悪いってことになるしな」
瑛二の声は優しくて、私の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
それが嬉しくも――そんなに優しい彼が傷ついて、人を傷つけさせてしまったのが辛くて。
「……今回は絶対瑛二が悪くない、けど。出来れば、これからは怪我しないでほしい」
「うん、分かったよ。俺も今まで手が出やすいところはあったからな。もう喧嘩はしない。何かあったら霧香と一緒に逃げる。危ないことからは逃げるの最優先で。約束するよ」
「……ありがとう、約束ね。どうしてもやらないと自分が怪我するって時以外は一緒に逃げよ。私も気をつけるから」
一回ハグを解いて、小指を出す。瑛二が小指を合わせて、ゆびきりげんまんをしてくれた。
それから瑛二が笑った。
「……でも、良かった。霧香が外に出られるようになって」
「お姉ちゃんと一緒にやることがあったからね」
それに笑って、瑛二の手を握る。すぐにその耳が赤くなって、もっと笑ってしまう。
「じゃあ、来週はもっとびっくりすることになるはずだから。楽しみにしてて」
「……? おう、楽しみにしてる」
そうやって手を握っていると、ガラガラと扉が開いた。
「おー、姉貴達」
「瑛二! 話は先生から聞いたけどほんとに怪我はないの!?」
「姉貴達のお陰で大丈夫だよ」
お姉ちゃん達が来て、そこからは家族の時間だと身を引――けなかった。瑛二が握った手を離さなかったから。
「……そこで引くことねえよ。もう家族みたいなもんだし」
「……うん! 隣居るね」
それが嬉しくなりながら、また瑛二が話すのを隣で聞いていたのだった。



