003

 上条かみじょう当麻とうまは見えないメガネをくいくい上げる動作をしながら、


「えーそのですね、黒スト喪服セーラーと電動工具という意外なチョイスに不覚にも驚かされた点については認めるのも吝かではありませんが?」

「何で声がちょっと高くなって上から目線っぽくなってんだ?」

「とはいえ解説の上条かみじょうさんも舌が肥えたグルメなオタクですから? まあ今さら少女とゴツいメカの合体萌えくらいで狼狽えたりはしませんけれど?」

「私をツッコミ役で固定するなようそれお前の役割だろそっちばっかりずるいぞ私にも場を振り回させろよう‼」


 しがみついて叫ぶ(本来ならS系でいたい)サーティーンデスを置いてきぼりにして、上条かみじょうが急に真面目に言った。

 基本。

 つまり重要である。


「ぶっちゃけ学園都市なら腐るほどあると思う。メカ。だって外と比べて二、三〇年は科学技術が進んでいるから」

「待ってよあの女なんかメモしてやがるぞ。野郎! お買い物リストに入れてんのはまさか電動の丸鋸か⁉」

「メカの他にどうしてもスプラッタ怪人の美少女変換の香りも混ざってしまうチェーンソーではなくそこは敢えての丸鋸。超メジャーから一歩離れてでも純粋メカ一択を極めたニッチ萌え‼ いっイイと思います! これは高得点ですよカワイイさん‼」

「ばっ馬鹿ヤローッ‼ あの一本三つ編み根暗セーラーがあんな直接的でおっかないの装備しやがったら直でズタズタにされんのは私とお前なんだぞおおお‼‼‼」


 その叫びで上条かみじょうは我に返った。

 実戦だ。

 ニッチ萌えとか叫んでる場合じゃねえ。

 感じとしては半脱ぎの抱き枕カバーで包んだ未来の殺人兵器みたいなもんだぞあれ。

 こうしている今もシティマカーブルはウインドウに飾られたアレやコレを色々チェックしている。

 困った。

 だんだん出撃前の装備確認画面にも見えてきた。こう、巨大ロボット系の。


「ひとまず円盤の直径は二〇インチで決定としてー、ふうん、替え刃についてもタングステンにモリブデンに人工ダイヤに色々、どれにしようカナ? ふうん、高圧放水で切り口を冷やし続ける事で円盤本体を摩擦熱から守る追加のアタッチメントもあるナノ。アスファルトカッターかあ……」

「あのどす黒セーラー、ピザのサイズと種類とトッピングの注文みてえな気軽さで決めていきやがる」


 この時、メーターの針はバトル側へがっつり傾いていた。のちの伏線だぞ覚えておけ。

 顔を青くして、だ。

 サーティーンデスは戦く。

 彼女は地べたに腰をつけたまま、すっかり脅えきった感じで両手でマントの前を閉じてガッチガチにガードしながら、


「それにしたってチョイスが偏りすぎだろ、何でいつつも高速回転系ばっかりなんだあの野郎……」

「ハッ⁉」

「?」

「……そうか。お、俺は今、シティマカーブルのとんでもない秘密に気づいてしまったかもしれない……」

「何だよ言えよ」


 何だ?

 秘密? 気づいたって何よ???

 サーティーンデスは気になってきた。

 風向きの変化を感じる。

 ……今はこんなヘンタイだが、上条かみじょう当麻とうま、これでバトルになれば右手で異能の力を打ち消して時間を稼ぎつつ敵の特徴や弱点を探り当てて反撃に打って出る、なかなか面倒なヤツでもある。

 何やら、だ。

 早い段階で知っておかないとのちのち首を締めてきそうな香りがサーティーンデス側に押し寄せてきた。

 が、


「いやしかし、いくら何でもそこまで禁断の、神をも恐れぬ事だけはあのシティマカーブルでもまさかそんな」

「もったいぶってんじゃねえよたまたま最初に見つけたくらいで名探偵かよ! そういうガラじゃねえだろ、お前なんかじゃその場しのぎのトリックで雑に口封じされちゃう次の犠牲者枠が精一杯だって。新しい情報についてはホウレンソウが人間社会の基本ですよ! 報告連絡相談‼ バカが一人で真実なんか抱えてると後ろから灰皿で頭ぶん殴られちまうぞ、ガラスの超重たいヤツで‼」


 ついに、だ。

 サーティーンデスがバカの両肩掴んでがくがく揺さぶると、ようやく上条かみじょう当麻とうまが重い口を開いた。

 ヤツが言った。


「ごくり。シティマカーブル、大きくてたくましいモーターを見るだけであんなに心惹かれるだなんて……。一見大人しいふりして実はその斜めにザックリ切ったスカートの中は一体何がどうなってんだっていうかまさかと思うがあの子属性的にはえっちなオモ


 鈍い音があった。

 こちらについては(一応これでも女の子な)サーティーンデス美ちゃんがちょい赤面込みの(爪付きガントレット装備の)手だけで叩いてしっかり黙らせつつ。


「バカ、そこ……金てk……」

「ここできちんと黙らないとさらにもう一発だぞ?」


 こいつを信じるのはもうやめようと心に誓うサーティーンデス。……これまでだって何度も何度も誓ってきたのはすっかり忘れているようだが。

 見た目は裸足でむっちむちネグリジェの金髪悪者少女だけど根っこは意外とマジメな子が言った。腰が抜けてへたり込んだままだけど。

 いい加減に、だ。

 シリアスにやらせろ。


「大体デフォルト装備にしたってあの女おかしいよ、馬鹿デカい鎌が回転しながら自由自在に飛んでくるとか! あんなの分類的に言えば公園にあるエンジン付き草刈り機の巨大なヤツで今までずっと追い回されてきたんじゃねえのか私達⁉」

「うーん、しかしそうなるとですね実況のサーティーンデスさん」

「実況……?」

「状況はこれまでの電動工具から電動農機具という全くの別ジャンルに派生いたしまして、こうなりますと全体の構造が変わり、つまり三つ編みオーバーオール麦わら帽子という夏休み純情田舎ガールヘと属性が変移する訳ですよ。こっこいつは大変な事態に突入しましたっ! 最先端メカヒロインにバッテリー式農機具の組み合わせとか次の時代の萌えるキーワードはスマート農業かあああ‼」

「……こんなメッチャクチャになった場を前にして、せっかくこの私がそれでもちょっとずつでもコツコツ真面目な方に整えていこうとしていたのに、バカ方向に再びひっくり返された! 一撃でっ無慈悲にいっ‼」

「やめなさいお嬢さん、そんなはしたない。同じ攻撃を繰り返したところでインパクトなど何もないのだ。そんなたおやかな女の子の掌、もはやこの上条かみじょうさんにはご褒美にしかなりませんよ? (ビシッ)」

「うわああ‼ ゴツい鉄の爪で金的バシバシ叩いても効果ナシとかこの馬鹿いよいよどうやって止めたら良いんだよう⁉」

「右腕のデカい鎌で来なかったところに女の子の優しさすら感じてしまいます、ただ欲を言えばハダシの足の裏でそっと実行してもらいたかった。せっかくのハダシなのだから」

「優しさなんかないよ全部お前の勘違いだよ! めっ目潰しに匹敵する超シリアスな急所攻撃だぞ? ひとまずこんな汗だくで幸せそうなヘンタイと一緒にズタズタにされて畑の肥やしとして撒かれる展開だけは絶対に避けたい……ッ‼」

「ふっ。おやおや二人で一緒だなんて、そんなに照れるなよサーティーンデス」

「そこだけ何で低めのイケボになるの? ゴロゴロの塊どころか最悪二人まとめてペースト状にされそうなこの状況で‼」

「一生一人でいるくらいならえっちな生け贄の儀式に巻き込まれるのもアリだよ! ぐおおおーん‼」

「両目がぐるぐるだよ? おいおい烏の巣みたいに絡まったこの電気ケーブルはどこからほどきゃ良いんだ、お前追い詰められて色々ねじ曲がってんのか青春が! 今のどこにえっちな話が混じってたのか説明してみ……いやいいやっぱ何も言うな黙ってろ‼」


 マジメに死を考えるから死が寄ってくるのである。

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