004
サーティーンデス、割と正統派な死神のくせに基本が分かっていないのか。これまで数々の死闘や激戦を越えてきた
つまり、だ。
世界の結論はこうだ。
顔面の影強めになった歴戦の戦士が雄々しく言う。
「人間は萌えていれば死なない。大丈夫だ、百戦錬磨の
「振り向きざまにずばあーナノ」
ぎゅいんぎゅいいんぎぃいいいいいいいいいいイイイイいいいいいいいいいイイイいいいいいイイイイイイいいいいいイいいいいいいいいいいイイイいイイイいいいイイイイイいいいイイイイいいいイイイイイイイいいいイヤああああああああああああああああああああん‼
ややあって、だ。
電動の刃物で切られりゃ普通に死んじゃう等身大の少年が超小さな声で眩く。
「……あれー女神様準備に手間取ってるのかなー。けふっ、生まれ変わっての二周目スタートはまだですか? がふごふぶふえ」
「心配すんなよ
「……、」
そんなそこまで無慈悲にやるならいっそ奇麗に殺しなさいよシティマカーブル、これじゃ異世界行きもやり直しもできないでしょ。
どうやら世界は今バトル側にメーターの針が振り切れているようだが、あくまでもバトル中のロジックだけで考えるとグロテスクな肉塊モードでその辺に転がされて永久に放置が一番キツい。
ダメだ。
地続きの現実から逃げられそうにない。
「ぐ、ぐぶう。サーティーンデス、そろそろ出血量がヤバいし、今ここにはお前しかいない。もしもの時のために
「や、やめろよ何だよ縁起でもねえ」
「俺この戦いが終わったらサーティーンデスと結婚式やるんだ」
「やめろよッ‼ 大怪我してて物理ツッコミしにくいこの状況すら利用して真顔の確定口調で誰も承認してない前提を差し込んでくるの!」
「じゃあこの謎が解けなかった女の子は全員俺と結婚しちゃえばイイと思うの……」
「呪いですよね? その条件だと地球で暮らす全員が強制参加になってるし、それ解ける事を前提としない意地悪クイズだろ絶対‼」
なら
……肉体の方はロサンゼルス辺りのギャルが穿いてるジーンズよりも大胆にカットされた後だから生物的なダメージについては事細かに説明したくない感じだけど。
「っ」
というか直近、今、一体何がどうなった?
状況的にありえない事が起きなかったか。
「……げぶどるちゃ。な、何であの喪服セーラー丸鋸持ってんの?」
疑問を定義づける。
シティマカーブル、外からウインドウに張りついて物欲しそうな目をしていただけで、まだお店の入口も潜っていなかったはずではないか。
元凶が言った。
感情のない声で。
「ちゃっちゃちゃっちゃらーん♪ シティマカーブルはアイテムを手に入れたナノ。詳細はメニューから『持ち物 』をチェック」
「やっ野郎金なんか払う気すらねえ! ガラスのウインドウ直接割って見本品に手を出しやがった⁉」
目を剥くサーティーンデスなど普通にお構いなしだ。
シティマカーブルは手元に視線を落としている。
真っ赤。
ギャリギャリ鳴ってる電動工具の調子を確かめながら、
「拾った武器は装備をすれば効果が出るんダヨ」
「拾ったって言い切った⁉ ガラスのウインドウでがっちり守ってお店に飾ってあるのに! ……カンペキ恐怖を克服した戦う女の顔じゃねえか。ありゃモードがゾンビ映画の生存者だ、勝って生き残るためならもはや手段を全く選ばねえ‼」
「でろでろでろ。というかウインドウに飾るだけの見本品なら充電する必要なくない? げぶぶ、うっかり女子大生エプロン店主ううう」
「勝手に大学を巻き込むなよ普通にムキムキのおっさんだよ怒られんのは盗まれた側じゃねえよ全部あの地味セーラー死神が悪いんだよお前がヒロイン甘やかすからエキセントリックな行動が止まらねえんだよ」
「それはまあシティマカーブルはねー? あの子に上目遣いでじっと見つめられちゃうと強く叱れないっていうかさー?」
「……最初の最初っから不満があるんだけど、随分と扱いが違いませんかねあの子と私で。どっちだって両方とも死神少女じゃん!」
「ねー?」
「笑顔で求められたって同意なんかしねえよ! 読まずにひたすら連打なんかしませんよ、ちゃんと利用規約には目を通す派なんだからな私は‼」
しかしそうか。バトルか。
「ふっ」
……そうなると諸々のルールも変わる。何しろ今がバトル時空ならバトルで勝つために必要な事なら何をやってもお咎めなしだ。さあみんな! 村に一つしかない吊り橋を勝手に切って不気味な怪人を谷底へ落として倒し、ちょっとしたレンタカー感覚でステルス機に無免で乗り込んで 、売り物の小麦粉をしこたまばら撒いてからの粉塵爆発を起こして突如ショッピングセンターを占拠したテロリスト達をやっつけよう‼
活路が見えた。
血まみれドロドロの
反撃開始である。
「うふふあはは! たかが『空気』の切り替え程度でお色気から逃れられるとでも思ったか不思議系黒セーラー。ようはバトルのために必要ならばここでは全てが許されるのだ。さあ猛吹雪の山小屋でカラダを温め合い、移動はキホンお姫様だっこ、果ては特効薬の口移しまでやりたい放題だあー……ッ‼」
「これ最初の一周目はひたすら破滅的な結末見て終わるパターンかなあ……? 本気で介入を始めて悲劇の回避に挑むのは次のターンからっていうか」
サーティーンデスが何か諦めた目で遠くを見た。
多分だけど。
分岐だの選択肢だのここに来るまで一体いくつあったのかなんて知らんけど、こんなねじ曲がった果ての果てからシリアス方向に戻すのはもう無理だ。この回は見送って観察に徹した方が良い。
(それにしてもふざけた仮定だぜ、体を温め合うとか口移しとか……)
「それあの野郎じゃなくて、全部味方の私に被弾しそうな気が」
「照れなくても良いんだよ意地っ張りの悪者系死神少女がはごほ直近だと
「うわああッバブみに餓えた無能ゾンビが血みどろのクチビルを近づけてくるっ。こっちもこっちで見境なしかよ多人数で集まってバトルをするならフレンドリーファイアの設定くらいは事前にオフっておけよう‼」



