第二部 『DAY プラス1~2 サトウとスズキとタナカの通話』

第三章 『作戦』

第三章 『作戦』 



 タナカ 

「オヤジさん、具体的な話をさせてもらってもいいですか? オヤジさんを守るための作戦を立てたいです」


 サトウ

「いいね! 作戦大好き」


 スズキ

「そんなの、カレが来たら見つけてボコればいいだけでは? 北海道の家に近づいただけで、バレバレですよ!」


 タナカ

「そう簡単にいくか。スズキ、頼むからちったー頭を使えよ……。警察は、そんな単純に物を考えろって教えてくれたのか?」


 スズキ

「むっ! じゃあ、元自衛官はどう考えるんですか? タナカさん」


 タナカ

「自分が敵だったら、どうやって自分達を倒すか、まず考える」


 スズキ

「…………」


 タナカ

「もしお前がカレだったら、どうやってオヤジさんを殺す? どんな方法が、一番成功しやすい? まず、相手の側から真剣に考えろ。カレに破滅願望があるようには見えないから、死なば諸共の自爆攻撃ではないぞ。オヤジさんを仕留めて、バレないようにさっさとアメリカに逃げるってところまで、キッチリと考えろよ? 戦いは、より深く広く考えた方が有利になる」


 スズキ

「“有利”? “勝つ”じゃないんですか?」


 タナカ

「勝つか負けるかには、時の運がだいぶ入るからな。でも、まずは考えろ」


 スズキ 

「そうですね……。まず、サトウさんの家の場所と顔は、インターネットで簡単に分かるのだろうから――」


 タナカ

「ああ」


 スズキ

「たぶん、一番簡単なのは……、家が見える場所で待ち伏せして、買い物などに出かけたときに、どこかで襲うことですね。俺なら、まずそれを考えます」


 タナカ

「そうだ、とりあえず合格点をやる。こちらにしてみれば、外出時に通り魔的にやられるのが一番怖い。カレがどんな武器を持ってくるかは分からないが、もし最悪銃があれば、遠くから撃たれる。あるいは弓矢、クロスボウなどの類いを使ってくるかもしれない。

 そんな飛び道具がなくたって、ある程度の接近を許せば襲われてしまう。こっちにはカレの外見が分からないことは、絶対に忘れるなよ?」


 スズキ

「了解です。でも、三十代の男を徹底的に警戒するのはアリですよね?」


 タナカ

「もちろんだが、それだけに囚われるなよ。むしろ忘れるくらいでいい」


 スズキ

「どういうことです?」


 タナカ

「例えば、カレが線の細い男で、女装が得意な奴だったらどうなる? もっと言えば、アメリカにいる間に性転換手術すら受けていたら?」


 スズキ

「…………。気をつけます」


 タナカ

「そして接近されてしまったとき、カレにとって最も殺傷力のある、最も有効な武器は何か分かるか? 入手の容易さも考えろ」


 スズキ

「そりゃ、当然刃物でしょう。この国の殺人事件、使われるのはほとんど刃物ですよ。その辺で安く売ってる」


 タナカ

「違うな。刃物は十分に恐ろしいが、手が届くような間合いに入らなくても殺せる道具がある」


 スズキ

「槍とか?」


 タナカ

「槍は今でも恐ろしい武器だが、長すぎるし目立つから、今回は排除する。ヒントを出すと、投擲武器だ」


 スズキ

「大きな石を投げつけるとか……?」


 タナカ

「カレが野球経験者なら、まあ頭部にぶつけられたら殺せるかもしれないが、もっと簡単に人を殺せる武器を使う。目標の周囲に投げることができれば、その相手は高確率で死ぬ武器だ」


 スズキ

「それって、手榴弾でも使ってくるっていうんですか?」


 タナカ

「よっぽどのことがない限り手榴弾は無理だろうが、似たような、殺傷力のある投擲武器は、日本でも、誰もが簡単に材料を集められるし作れるんだよ。答えを言ってしまうぞ。――火炎瓶だ」


 スズキ

「あっ! なるほど……」


 タナカ

「カレがどんな外見か分からない以上、火炎瓶の投擲可能距離まで近づかれたらお終いだ。このことは絶対に忘れるな」


 スズキ

「了解、です」


 タナカ

「どっちにせよ、敷地内から出ては危険だってことだ。――というわけで、オヤジさん、どうか、しばらく辛抱願いたく」


 サトウ 

「もちろん構わないよ。宿に歌いに行けないのは、少々残念だけどね。若い人が好きそうな新曲、一生懸命練習したんだけどな」


 タナカ

「なる早で片付けますので、また自分らに聴かせてくださいよ」


 サトウ

「うん、頼もしい」


 タナカ

「それにスズキも、分かってるだろ? オヤジさんの所有する土地にいれば――」


 スズキ

「カレが一歩入ってきた時点で、不法侵入罪でしょっぴける」


 タナカ

「そういうことだ」


 スズキ

「話を聞いたら、“ひどく暴れたので数人がかりで押さえるしかなく、すると被疑者は突然の心停止に至った”ってことにしましょう! 死人に口なしですよ。首か胸を数分押さえればいいだけです。今までそれをやった警官が、捕まった例はないですね」


 タナカ

「警察、こえーな……。まあそれでもいい。オヤジさんの母屋が、国道から百メートルは離れているというのは有利だ。敷地に入った段階ですぐに押さえず、室内に来たら――」


 サトウ

「おおっと。それはやめとこう。タナカ君ごめんね、発言遮っちゃって」


 タナカ

「いいえ。どうぞ」


 サトウ

「家とその周辺は、バトルフィールドにしたくないな。理由は二つあるよ。一つは、家族の思い出が詰まったこの家や庭を、血で汚したり壊したりしたくない。でも、それはささやかな理由だ。より大きな理由は、ここにいる三人以外、誰一人として巻き込みたくないことだよ」


 タナカ

「そうですね……。母屋脇のオフィスには事務のミウラさんや、報告に来る従業員さん達がいますもんね。宅配業者さんも。あと、オヤジさんの可愛いワンコ達も。――自分も、彼等を一切巻き込みたくないです。今後とも、悪人を狙撃する計画を続けるという意味も含めて」


 サトウ

「うんうん。もちろんそれもある。何もかも、何もなかったかのように、コッソリ片付けたいね」


 スズキ

「サトウさん。道警の警官、今でも家を見張っていますか?」


 サトウ

「最近は減ったねー。数日に一回、通りにこれ見よがしに停まっていたり、しれっと通り過ぎたりするくらいかな? 冬だから当たり前だけど、夜にいることは一切なくなったね。スズキ君に紹介してもらった、ナンバーを読み取って教えてくれる監視カメラシステム、とても役立っているよ。ありがと」


 スズキ

「いえいえ!」


 タナカ

「ではオヤジさん、母屋はもちろん、オフィスや牛舎、従業員さんのアパート、宿やレストランなども当然なしで。人知れず、カレを屠る形で」


 サトウ

「ありがとう。それでお願いするよ。僕は外には出ないようにするけど、その前に、一度だけ病院に行きたいな。これは、もう今日のうちに行っておくかな。カレだって、さすがにアメリカから戻ってくるのは間に合わないよね?」


 タナカ

「病院ですか? オヤジさん、どこか悪いんで……?」


 サトウ

「うん、頭」


 タナカ

「いや、えっと……、承知しています。自分も、負けず劣らずそうなので。それ以外で」


 サトウ

「ははは、タナカ君も諧謔かいぎゃくが分かるようになってきたね」


 タナカ

「カイギャク……?」


 スズキ

「“ウィット”とか“ユーモア”とかのことですよ。タナカさん」


 タナカ 

「ああ、なるほど。――変なことは詳しいな、スズキ」


 スズキ

「一応大学を出ているので」


 タナカ

「そうかい。――オヤジさん、病院に行く理由を聞いても、構わないでしょうか?」


 サトウ

「ずっと隠してて悪かったけど、僕はね……、歳なんだ」


 スズキ

「ぶはっ!」


 タナカ

「オヤジさん……」


 サトウ

「わはは。心配かけてごめんね。最近また上がった血圧と尿酸値の薬、欠かすとマズいんだよねえ。現代医療って凄いよね。サボると先生にすぐにバレるんだ。運動して痩せて、肝臓の方は良くなったんだけどね。しばらくは行かなくていいように、たくさんもらっておくよ」


 タナカ

「分かりました……。どうか、ご自愛ください。今日なら、さすがに大丈夫だとは思います。カレのシンパが、もう近くにいるとは思えませんし。でも、本当に念のためですが、病院と薬局には、誰かと必ず一緒に行ってもらえますか? 『ちょっと眠いから』とか嘘を言って、運転はその人に任せて、移動中、オヤジさんは後部座席にいてください」


 サトウ

「オッケー! そうするよ」


 タナカ

「スズキ。今日はさすがに無理だろうが、明日なら早朝から動けるのか?」


 スズキ

「そのつもりでチケット取りますよ!」


 タナカ

「よし。ただ、念のため飛行機はやめろ。なるべく早い新幹線で函館に来て、そこから特急を乗り継いで旭川まで来い。俺も準備をして夜までには入るから、どこかで拾う。駅や列車内にも監視カメラはあるだろうが、空港よりはずっとマシだ。乗り換える度に、服装と変装は替えろよ。面倒くさがらずにな。あと、クレカや電子マネーは一切使うな。全部現金払いだ。今日中に、不自然にならない程度に下ろしておくんだ」


 タナカ

「いろいろ、了解です。これでも警官なんでね、その辺はいろいろ上手くやれますよ。北海道は寒いでしょうね。できるだけ、厚着していきますよ」


 タナカ

「いいや、東京の服装のままでいい。分厚いコートとかはやめて、セーターくらいで留めておけ」


 スズキ

「そりゃ寒いですよ! 真冬ですよ?」


 タナカ 

「だから、こっちで用意しておく。北海道ならではの服装があるから、それを着ろ。極地探検に行くような大げさな防寒着を着ていたら、『コイツは道民じゃないな』と一発でバレる。肌着だけは、いいのを用意しておく」


 スズキ

「……了解」


 タナカ

「オヤジさん。自分達は明日の夜中、どんなに遅くとも明後日の朝までには、そちらに入れるようにします。カレが最短でアメリカから飛んできたとしても、まず遅れることはないと思います」


 サトウ

「分かった、待ってるよ。天気はいいみたいだけど、おかげでひどく凍れるから、くれぐれも安全運転でね。事故はないようにね。母屋のガレージ、いつでも入れるようにしておくよ」


 タナカ

「ありがとうございます。そして、オヤジさんに準備をお願いしたいのですが――」


 サトウ

「銃の点検ね。任せて。弾もたくさんあるよ」


 タナカ

「ありがとうございます。あと、例のキャンピングカーも用意しておいてください。燃料と食料と水、積めるだけ積んでおいてください」


 サトウ

「お、タナカ君の考えていることが分かったよ! なるほど、いい作戦だね! それ採用といこう! バッチリ仕上げておくよ!」


 タナカ

「ありがとうございます」


 スズキ

「えっと……?」


 タナカ

「お前には、今から説明する。――オヤジさんのキャンピングカーの中に、去年手に入れたばかりの凄い奴がある。警官は車両の識別を学ぶってどこかで聞いたが、トヨタのハイラックスは分かるか?」


 スズキ

「たしか、後部座席があるピックアップトラック、ですよね?」


 タナカ

「そうだ。オヤジさんのは、その荷台に大きなキャビンを一体化させたキャンピングカーだ。ベッドや暖房はもちろん、電子レンジやポータブルトイレも積んでいる。衛星のインターネットシステムもある。その気になれば、しばらくそこで過ごせるだろう」


 スズキ

「へー。それは凄い。高そうですね」


 サトウ

「なあに、スズキ君、ほんの総額二千万円ほどだよ。いやごめん、安くはないね。子供達には内緒だよー? 遺産が減るって怒られちゃう」


 タナカ

「オヤジさんのキャンピングカーのさらに凄いところは、タイヤがクローラーに交換してあることだ」


 スズキ

「クローラー?」


 タナカ

「履帯のことだが、一般的にはキャタピラとか呼ばれている、戦車とか重機についているアレだ。ハイラックスのタイヤを外して、四つのクローラーを取り付けてある。だから、重機を出して道を除雪する必要がない。それどころか、積もった牧草地の上だって走れる。突然ドカ雪を食らっても、戻ってこられないことはないだろう」


 スズキ

「確かに凄いですね。でも、それが?」


 タナカ

「まだ分からねえか……。オヤジさんをそれに乗せて、今は雪だらけの牧草地に行くんだよ。母屋から離れて、なるべく谷の奥にだ。従業員達には、『狩猟とキャンプを楽しむために、しばらく奥に入っている』と言っておく」


 スズキ

「ああ! さすがに俺にも分かりましたよ! そしたら、カレがサトウさんに簡単に接近することが難しくなる! もしカレが来ても、見晴らしがよくて広い場所で迎え撃てる!」


 タナカ

「そうだ。谷の中央にいれば、周囲の森までの二、三百メートルほどは、平らで、まったく身を隠す場所がないからな。狙撃し放題だ」


 スズキ

「それに! 銃をバンバン撃ちまくっても周りに影響はないし、誰も巻き込まずにすむ! もし銃声を誰かに聞かれたって、『俺達は狩猟をしていました』って言えばいい!」


 タナカ

「そうだ。エゾシカ猟期は三月末まであるからな」


 スズキ

「さっすがタナカさん! メッチャ有利じゃないですか! 俺達に気付かれずに、カレが火炎瓶の距離まで近づくなんて、もう無理でしょう!」


 タナカ

「カレはバカではない。何かしらの攻撃方法を考えてくるとは思うが……、こちらが有利なのは確かだ」


 サトウ

「ちなみに僕はね、その時は別の車両だったけど――、真冬に二週間、牧草地の真ん中でずっと過ごしたことがあるよ。あの時は、外は三十度まで下がったなあ。あ、マイナスね。北海道ではね、冬にいちいちマイナスを付けないんだ。用事があったから終えただけで、正直まだまだいけたね。体臭が凄いことになったって、みんなから笑われたけど、楽しかったよ」


 スズキ

「いいですね! 極寒キャンプ楽しそうです!」


 タナカ

「スズキ、遊びに行くんじゃねえぞ?」


 スズキ

「分かっていますよ。あれ? でも……、ちょっと待ってください。そもそも、ターゲットであるサトウさんが牧草地の谷にいるって、カレには分からないんじゃ……?」


 タナカ

「そうだろうな。従業員に声をかけて、『経営者はどこにいますか?』ってバカ正直に訊ねでもしない限りは。そんなアホなことをするとは、思えないが」


 スズキ

「それじゃ、サトウさんはずっと守れても、カレはずっと倒せないですよ?」


 タナカ

「そうだ。だから、伝えてしまうんだよ」


 スズキ

「え?」


 タナカ

「カレの電話番号、持っているんだろ?」


 スズキ

「ああ!」


 タナカ

「カレは間違いなく、その電話を持ってきている」


 スズキ

「言い切れますか?」


 タナカ 

「言い切れるな」


 スズキ

「なぜ?」


 タナカ

「いろいろ行動が上手くいかなくなったときに、スズキ、お前に電話してボロを出してもらうためだよ。その番号からなら、絶対に取るだろ?」


 スズキ

「ヒデエ! まあ、否定はしませんけどね……」


 タナカ

「自分達の準備ができたら、その番号にメッセージを送るんだ。『牧草地の奥にいる。サトウさんの顔が見たければここまで来いよ』ってな。谷の奥では携帯が通じないから、いつもの衛星携帯電話を用意しておく。その番号も教えてやれ」


 スズキ

「了解です! そうしたらカレ、ノコノコと谷まで来てくれますかね? 俺達が待ち構えているのは、当然気付いているでしょう?」


 タナカ

「もちろんだ。ただ、アメリカから即座に飛んでくるくらいだ。ちょっとやそっとで諦めるとは思えないな」


 サトウ

「僕も同意見だね。むしろ、『誰にも見られずに仕留めるチャンス!』くらいに思ってくれるかもね」


 スズキ

「なるほど……。では、カレが谷の奥まで来る方法はどうでしょう? 極寒の雪の中、三キロメートル以上ありますけど」


 タナカ

「自分ならできるが、カレはどうだろうな。どんな人間かまったく分からない以上、自衛隊経験者という可能性も捨ててはいけないし、そうでなくても、北海道でも狩猟をやっていれば、クロスカントリースキーの経験はあるかもしれない。時間をかければ、何か乗り物を用意してくるかもしれない」


 スズキ

「でも、どれでもなかったらキツいですね。せっかく舞台を整えたのに、行けないからやっぱやめた、なんて言われるのはイヤですよ」


 タナカ

「……そうだな。オヤジさん、すみません。念のために、スノーモービルを一台、鍵付きでガレージの裏に残していっていいですか?」


 サトウ

「もちろん構わないよ。それも準備しておかないとね。二台となると結構大変だ」


 タナカ

「ありがとうございます。お願いします」


 スズキ

「え? つまり、カレにそれに乗ってきてもらいたいんでしょうが……、二台なのは、なぜです?」


 タナカ

「まだ言ってなかったが、最初に自分が乗っていくからだ。周囲の偵察に使ったり、キャンピングカーと母屋を往復したりするのに必要だ。もし長期戦になったら、自分かお前が、ソリを引っ張って物資の運搬をすることになるぞ。燃料とか食料とかな」


 スズキ

「ああなるほど……。長期戦、なりますかね?」


 タナカ

「分からない。ただ、いろいろなことに備えておくのも作戦だ。始まってしまったら、なかなか変更はできないからな」


 スズキ

「了解しました」


 サトウ

「うんうん。そしてあとは、ひたすら待ちだね。もしカレがやって来てくれたら、タナカ君が撃って仕留められるね」


 スズキ

「俺も撃ちますよ! 散弾銃!」


 タナカ

「自分がもし撃ち漏らしたら、そんときだけは頼むとするか。まあ、ないだろうけどな」


 スズキ

「分かんないですよ? タナカさんがぐっすり寝ているときにカレが来たら――」


 タナカ

「そんときは、まず起こせ。言っておくが、昼はもちろん、夜も交代で見張りをする。向こうに行ったら、まともに寝られるとは思うなよ?」


 スズキ 

「上等ですよ! 事件が重なった警官が、何日連続で徹夜すると思っているんですか? 自衛隊のことは知らないですけど、慢性的人手不足では決して負けませんよ!」


 タナカ

「嫌な自慢合戦だ。じゃあ、そこは頼りにしておくよ」


 スズキ

「任せてください!」


 タナカ

「そして首尾良くカレを殺したら、状況に応じて全力で誤魔化す。来たことが誰にも見られていないようなら死体を埋めて隠せばいいし、見られていたら『後から来た仲間が遭難してしまった』と届け出てしまってもいい。

 一つ問題があるとしたら、カレが知り合いに『自分はこれからこういうことをする。生きて戻ってこなかったら――』と言づてしている場合だ。だが、共犯者になるわけだから、可能性としては、低いとは思う。できれば、カレを生かして捕まえて吐かせたいところだが……。

 オヤジさん、今のところ、立てられる作戦としてはこんなところです。何か追加すべき点、ありますか?」


サトウ

「ないね。大丈夫。それでいこう。ありがとう」


 タナカ

「いえ」


 サトウ

「すっかり時間が経っちゃったね。でも、いい会話だったよ。みんな、それじゃあ、最後に僕からひとこと言わせてもらって、お開きにしようか」


 タナカ

「はい」


 スズキ

「はい」


 サトウ

「もうトイレに行っていいよ」

刊行シリーズ

フロスト・クラック ~連続狙撃犯人の推理~の書影