孤高の電波美少女と恋で繋がったらギガ重い

第二章 真剣勝負はファミレスで ⑤

 未解決交通事故の続報特集。がいしやぞくの悲痛なうつたえとともに、こうしようのリハビリにはげむ姿なぞがせられている。まさおみも高校に入る直前に車にかれて入院したことがあるので、まったくいやな気分になるニュースだった。時期的にはこの特集にまさおみのアホづらけいさいされていてもおかしくないが、あいにくまさおみの場合加害者がげはしなかったのであやうくセーフ。いや、まさおみてきには人生観を根底からひっくり返された事件でもあるので、ゆうのアウトなのだが。


「──痛っ」


 急にスマホを操作する右手のこうあたりに痛みを覚え、いつしゆん取り落としそうになったのをあわててキャッチする。交通事故のことなんか考えたせいで消えた古傷が痛んだか、あるいはデート中に店のとがった部分にでもけたか、と思いながら痛むしよかくにんしようとスマホから目をはなしたその時だった。


「ん……」


 直接脳をさぶるような色気のいきにドキリとして目をやれば、丁度のタイミングで雲雀ひばりしていた頭を起こすところだった。

 スマホのデジタル表示を見ると十一分が経過している。大体予定通りということだろうか。

 雲雀ひばりは迷子のように頭と目線をあちこちに飛ばしてから、何とかまさおみしようてんを合わせ、半ばしようほおゆるめた。


「ダイブ明けはどうも感覚が整わなくていけないわね。きみたいでずかしいわ」

「ゲームはいじんみたいなこと言うなよ。そして実際きみたいなもんだろ」

「それと……これ、ありがとう。おかげで冷えずに済んだわ」


 雲雀ひばりからサマージャケットを受け取る。れいぼうを受けてなお暑いくらいだったまさおみが苦肉の策レベルでて(?)いる雲雀ひばりかたにかけておいたのだが、好印象だったようだ。暑ければげばいいんだから持っていけ、という日向ひなたのアドバイスに感謝しつつ、持ち帰るハーゲンダッツを二個にしてやろうと思う。


「それで、これで何がわかるんだ?」

「私、世界を救っているって言ったのを覚えている?」


 つい昨日のことだ、忘れているはずもない。

 雲雀ひばりばつゲームの告白をしようとした時、確かにそんなことを言っていた。


精神界アストラルサイドで、あなたに傷をつけたわ」


 こう、とテーブルのはしによけてあったカトラリーの中からナイフを取り出して、実演している。大体うでから手の先あたりにかけてをスパっとやるようなあんばいだ。


精神界アストラルサイド物質界マテリアルサイドは密接につながっている。だからこちらかあちらで肉体や精神に負った感覚やダメージは反対側の世界にもえいきようあたえる。あなたにしてみれば、精神をられた、ということが肉体に何らかのえいきようあたえたはずよ。どこか痛みを覚えたところはない?」


 痛み。覚えはもちろんあるに決まっていた。

 あわてて右手のこうを見る。そこには長さ四センチほどのミミズれのようなあとがくっきりとかびがっていた。血こそ出ていないが、そこには確かに名残なごりがある。

 まじまじと検分するかのようなおもちでその『きずあと』を見つめる。痛みは最初だけだったが、気味が悪いのは確かだ。ちょっとしたきずならまだしも、こんな火傷やけどあとみたいなものが残るはもちろんおくにない。

 それはつまり、雲雀ひばり精神界アストラルサイドでのえいきようが、まさおみの手に現れたということで──


「いやでも待てよ。君は精神界アストラルサイドに行けるが、俺は行けないはずだろ。何で向こうにいないはずの俺をれるんだよ。それにさっきの仕草じゃ、こんなレベルじゃなくて俺はばっさりやられてるんだろ? それにしちゃ軽傷っていうか……いや、重傷なんて負いたくはないけど」

「ヒトの精神は深層域できようしんしている、というのが私の知るダイバーの見解。だから、精神界アストラルサイドにはダイブしていなくても、そこにヒトの意識が存在しているのよ。ダイバーはれっきとしたプレイヤーキャラ、その他のヒトはNPCノンプレイヤーキヤラ、みたいな差はあれど、ね。さらにあなたは〝ガーディアン〟になったから、私の意識とつながりが強くなった。だから向こうでのえいきようが大きくなった。たぶん、そんなところ」


 NPCノンプレイヤーキヤラだって、ズタズタにくくらいすれば物質界マテリアルサイドえいきようあたえられるけど、とおそろしいことをしんけんに話す女子高生が目の前にいる。


「〝ガーディアン〟は救世者メシアンついになる存在で、ゲームで言えば、式神とかしようかんじゆうとか、そういう立ち位置のお助けキャラ。精神離脱者アストラルダイバー物質界マテリアルサイドだれでもを〝ガーディアン〟にして精神界アストラルサイドしようかんすることが出来るわ。経験上、常時〝ガーディアン〟に出来るのは一人だけだけど、別に彼氏でなくてもいいわ」


 お前である必要はない、とまさおみは言外にはなされているような気がした。


「〝ガーディアン〟に選ばれた人はNPCノンプレイヤーキヤラよりも強固に精神体を複製して向こう側に配置される。私達とちがってこちらの『本体』が動けるのはそのせい。ただ、この通り向こうで〝ガーディアン〟の身に何かあればこちらでもそれなりの実害が出てしまう。だからほどしんらいできる相手か、」


 そこでいつたん言葉を区切り、どこかためすような口調で、


ほど自分にとってどうでもいい相手かを選ぶのがつうよ。文字通り火の粉から身を守るたてにしても気にしないくらいの、じようさえも知らない赤の他人なんかをね」


 精神界アストラルサイド救世者メシアンとやらが具体的にどんな活動をして何をしているのかは、簡単に説明されただけではよく分からない。

 だが少なくとも何らかのや傷を負うようなことをしているわけで、そしてそれは〝ガーディアン〟とやらも例外でなく、そのことを雲雀ひばりは当然自覚している。

 それでなお、彼女はまさおみを〝ガーディアン〟に選んだ、ということだ。


「身を守るたて……〝ガーディアン〟ってそういうことかよ」

物質界マテリアルサイドに返る反動の大きさは人それぞれだから、ほとんど同じ程度のを負う人もいるし、かなり過小になる場合もある。当人同士の精神的なつながり度合いによるという話もあるわ。どうであれ、後者の方が『長持ちする』という意味では、ゆうしゆうな〝ガーディアン〟と言えるでしょうね。あなたの場合は……まあ、今のところややゆうしゆうというところかしら」

「とんでもないことを説明してるってのに、冷静すぎないか」

「これまでの経験上だけど、真面目にそんなことを考えているあなたもたいがいよ。それにうそだと思うならもう一度実演しても構わないわ。次は逆の手がいいかしら?」


 ひとみを一ミリもらさずにそんなことを平気で言ってのける。

 なまつばをごくりと飲み込んだ。

 これまでに雲雀ひばりが散々受けたであろう、疑問ともきゆうだんともつかぬ言葉がいくつかかんだ。本音を言えば、もう半分は飛び出しそうになっていたと言ってもいい。

 にもかかわらず、それらはかろうじて苦いなまつばと共に飲み干した。流れていく言葉の熱さと重さはほうもなく、スイーツ特集などよりもよっぽど胸の焼ける思いがする。

 まさおみは自分で思っている以上に冷静だった。上着をいですずしくなったせいか、あるいはニュースを読んで多少客観的な視点にわっていたせいかもしれない。

 ──ちがえちゃ、いけない。

 証明しろと言ったのはまさおみ自身だ。雲雀ひばりは何度だってまさおみに『終わらせる』機会をあたえていたのに、それをかたくなにこばんだのだ。それをちょっと自分に害があったからといって文句をつけるなど、つう、男のけんはそんなに安いものじゃない。

 もっと考えるべきことはある。精神界アストラルサイドまさおみを傷つけたら、実際にまさおみ身体からだに傷がついた。タイミングとしては疑いようもない。ならば雲雀ひばりが言っていることは電波的であっても、まったくの事実ということだ。

 こんなにうそじみた現象が、彼女にとっての事実ということなのだ。

 雲雀ひばりの表情は変わらない。昨日の放課後から今日に至るまで、何度か見せたあの顔だ。しようの下にたたずむ『あきらめ』と『終わり』の気配。せっかく打ち解けてきたと思ったのに、そうやってまさおみはなすのだ。

 どうせあなたも同じでしょう──と。



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