サンバカ!!!
プロローグ チンピラと聖女の旅の始まり ③
イグニスはそう叫ぶとシスター服の
「うお! どうやって持ち込んだんだそんな危ねーもん!」
「乙女のたしなみという
「しまえしまえそんなモン! 持ち物検査とかなかったのかここ! 妄想だけで済んでりゃ
大慌てなネモをしり目に、ガルニダはなぜか革靴を脱ぎ、ネクタイを緩めながら口を開く。
「……手荷物検査は行ってないんだ。私が
「おお……こんなところでも市長の
「そうだよネモくん、ホンモノなんだよ。困るんだよホンモノをさぁ、私の前に連れてこられるとォ!」
瞬間、ガルニダが腰かけていた革の椅子が
「し、市長……?」
訳もわからずそうこぼすネモの横を一陣の風が吹き抜けた。少し遅れてグチャっと何かが壁に
「イグニス!」
叫んで振り返ったネモの視線の先にあったのは背後の壁に
そしてその
「プッ」
まるで唾を吐くようにガルニダは口から何かを吐いて地面に捨てる。ゴロゴロと転がった。それは壁に
「ネモくん、だから言ってるだろ? 本物の聖女を連れてきちゃダメだって。あまつさえ〝聖女の契約書〟を返せだなんて……殺すしかないじゃないか」
「テメェ……」
余りの突然の惨状に停止していたネモの脳もようやく回り始めていた。たった今、この市長はイグニスを殺したのだ。先程までイグニスが立っていた場所を見る。ガルニダの突進の衝撃で落としたのか、先程イグニスが取り出した拳銃が転がっていた。空手よりましとネモは慌ててその拳銃を拾う。
「ネモくん、この街は好きかい?」
「動くな! 動けば撃つ!」
「私はねぇ、大好きなんだぁ!」
スーツの下から現れたのは
「なんじゃ……こりゃ……。市長、アンタ一体その体に何を彫り込んだんだ?」
冷や汗がネモの背中を走る。ネモだって一応はチンピラだ。体に刺青を入れている人間など何人も見て来ているし、獣人であれどそれは同じ。しかしガルニダの体のそれは今まで見たどれとも違っていた。整然とした直線の集合体、それはまるで……。
「この街の地図だよ」
あっさりとそう言い切るガルニダ。その通り、ガルニダの体にはネモも見知った街の見取り図がおそらく全身で街全体を表示できる縮尺で彫り込まれていた。しかしネモが恐怖したのはそれにではない。
「その地図の中を
そう、ネモが真に恐れたのはガルニダの全身に彫られた地図の中をまるで虫が
「まるで、生きてるみたいだろう? 生きているんだ! 私が愛するこの街の! 私が愛する市民たちさ! 私が名前を
ガルニダはうっとりと自らの体表で
「おっと、ミセス・ノルティはあれだけしおらしくしていたのになかなかリッチな店で昼食じゃないか。笑えるね。おお!? 見てくれネモくん、セシル夫人が配達の牛乳屋と不倫だ。尤も、旦那だって今
「どうやってそんな事……」
「君の相方が言っていた所の〝聖女の契約書〟さ。その魔力が引き起こす奇跡の力を使ってだよ。アレは普通では考えられない奇跡をいとも簡単に現実のものとする。自由に! 思うがままに! だから私は大好きなこの街そのものになる事を望んだんだ、市長として当然の行為だとは思うがねぇ!?」
じりじりと、その異常な体を見せつけながらネモに詰め寄るガルニダ。圧倒的な
「ネモくん、君は、私の街は、好きかいぃぃぃぃ?」
とうとうガルニダはネモの眼前まで迫った。むせかえる血の臭い、値踏みするように
「好きに決まってるよなぁ? 生まれも、両親の顔も、自分の名前すら知らず、
「うるせぇ……」
「昨夜も殴られていたよなぁ! あそこはちょうど私の右乳首の上でね! あぁ……君が殴られているとむず
ネモは
「お前の居場所は死ぬまで私の右乳首の上だ。名無しのネモ」
「全く、神聖なる私の契約書を変態プレイの道具に使うとは……
泣きそうなネモの耳に、
「お、お前……死んだはず……」
「さてどうでしょう。こうやって会話ができているという事は死んではいないのではないですかぁ? それとも幽霊かもしれませんね。はてさて幽霊は
出会ってからの時間は短いが、ネモはこの美しい声だけは絶対に聞き間違える事は無いと思えた。
「イグニス!」
「やあネモさん。前世ぶり」
にやりと笑うイグニス。その凄惨な笑顔に威圧されたのか、ガルニダが
「もう一回殺しゃ
再びガルニダはその有り余る
地面に押し倒されるイグニス、飛び散る鮮血、それでもイグニスの笑みは崩れない。
「へぇ、〝聖女の契約書〟を体内に埋め込み、その魔力で体表に彫った刺青と市民の生活を同期させているんですか。変態にしては中々どうしてよく考えてると言ってあげましょう。ただ魔力を全てそこに回しているせいで他は常人と変わらないですね。この驚異的な
「クソがぁ! なぜ死なない!」



