扉の外
第1章 ④
紀之は思った。マップはさらに広いのではと。この見えている範囲は、配置したスペードの
「ねえ、
振り向くと、
「別に」
紀之は画面に視線を戻した。
「ブレスレットはどうしたの。おかしいと思っていたの。このクラスは三十一人のはずなのに、ソフィアは三十人だと言っていた。画面のハートマークの下の数値も三十だわ。ねえ、ブレスレットはどうしたの?」
「外した」
和泉の
「
「着けている必要があるのか?」
「こんな特異な状況で、何故足並みを乱すの?」
「おまえは、さっきちょっとしたイベントみたいなこと言ってなかったか?」
紀之は横目で和泉を見た。
「ちょっとしたイベントのわけないわ。こんな大掛かりなシステムを作って。何かが起こっている。それが戦争だかなんだかは分からないけど。こんな状況に
和泉は声のトーンを落として言った。
「宇宙に来たっていうのか。夢のある話だな」
「私は現実を見ているわ。夢を見ているのはあなたのほうよ。すぐにこの状況から抜け出せるとは限らないじゃない」
「だとしてもおまえに関係あるのか。
「
和泉は周囲をちらちらとうかがいながら、制御したような口調で言う。
「
「そんな学校生活の
「こんな時だから言うのよ。あなたがクラスの足並みを乱しても、私はどうでもよかったわ。
「何が言いたいんだ?」
「ここは閉ざされた小さな国。そんな中で、足並みを乱す人間がいたら、皆が困るということよ。すでに勝手な行動を取っているあなたは、このコミュニティーのバグだわ」
「おまえ、いいかげんにしろよ」
紀之は和泉と睨み合った。
「なんだよ、雰囲気悪いな」
「どうした千葉」
「何でもないよ。これが突っかかってきやがって」
紀之は肩をすくめた。
「よそうぜ、こんな時にさ。どうせ、もしかしたら俺たちの行動をテレビカメラで観察して、教師が今ごろ点数をつけてるかもしれない。和泉さんも成績に響くぞ」
氷室がにやにや笑いながら言った。
「そうよね。ごめんなさい」
和泉は素直に謝り、部屋の中央付近のシートに腰を下ろした。
「珍しいな、千葉と和泉が会話してるなんて」
氷室が耳打ちをしてきた。
「あっちから突っかかってきたのは本当なんだよ」
「何で? あの子、そんなキャラだったっけ?」
隣に立つ氷室の体はがっしりとしており、スポーツマンらしく髪も短く刈っていた。紀之と氷室は同じ中学で、クラスは違ったが三年間陸上部で
「これにいちゃもんをつけてきた」
紀之は左腕を見せた。
「腕輪は?」
「外した。気味悪いコンピューターに従ってられるかよ」
「外したのか」
氷室は顔をしかめた。
「そんなの外せよ」
紀之は氷室の手首の腕輪を見た。
「でもなあ」
「何だよ、おまえまでこの話を信じてるのか?」
「あまりに
氷室は
この状態の説明がつかなかった初期とは違い、生徒たちは表情は
紀之はそんな生徒をクールに見つめていた。自己判断力の欠ける人間たち。テンプレート通りにしか行動できない。プリントを渡され、それをただ
「
紀之はそう言い、改めて室内を観察することにした。
目の前には画面があり、その左横には自動販売機。右横には水飲みタンクのようなものが二つある。片方のタンクのペダルを押してみると水が出た。飲めるか分からないので口はつけない。
もうひとつのタンクは
左側の壁には三十センチ四方の取っ手付きの
紀之は息を
「外に出ないほうがいいだろ。何があるか分からないしさ」
「
紀之は自分で言って、
「それは言っちゃ
同じく不快な気分になったらしい氷室が首を振った。
「トイレに行ってくる」
紀之は氷室に言い、壁際を移動し部屋の後方へと向かった。
後には扉が二つある。この扉は開くのだ。
片方を開けると、こぢんまりとしたシャワー室がある。シャワーが三つばかり並んでいるのだが、
もう片方の扉の中はトイレだった。男性用の小用便器が一つあり、その奥に個室が二つある。
紀之は小用便器で用を足してからボタンを押して水を流す。薬でも混じっているのか、塩っぽい
紀之はトイレから出て一息ついた。改めて見ると、本当にシェルターだ。



