扉の外
第1章 ⑨
部屋ではほぼ全員の生徒がシートに横たわりヘルメットを
これが宇宙船だというのは言い得て
あの生活よりはマシだ。あの母親から管理を甘んじて受けていたあの生活。財布の小銭がなくなったと、ニヤニヤしている姉の前で
そんな欲求を満たす
あの母親を殴り倒して家を飛び出す現実はなかった。生活費も住居も持っていないのだ。バイトをして金を
紀之が平常心を保っているのは、あの生活で
紀之はシートに横たわる生徒たちを見つめて、心を落ちつけた。
自分は違う。自ら鎖を外し、自由に行動しているではないか。この国で、自由であるのは自分だけなのだ。紀之はそう思った。
しかし、同時にそれは真実なのかとも思う。この立場はただの状態なのでは。意思のない行動の結果に過ぎない。もしも本当に自らの意思で鎖を外すならば、ドアの外に出るべきなのだ。
そんなことを考えると、心臓が握り締められたかのように痛む。
紀之は給水タンクから水を少しだけ飲んで息をつく。最近は飲食を控えるようにしていた。水や食料に薬が混ぜてある可能性がある。
紀之はクラスメイトを観察しながらそう判断したのだ。生徒たちの変化。この生活のストレスもあるだろうが、それ以外にも要因があるのではと思う。特に男子生徒はおとなしくなっている。
例えば、精力減退の薬などが混ざっている可能性。この男女混合の密室での共同生活において、
あのシートのヘルメットから脳に作用しているのか、食品からかは分からない。ただ、確実に男子生徒は、
しかし、この状態はシェルターとして正常といえるのか。
健全な精神を保ちつつ、人間を守るシステムがシェルターには必要なのでは。例えこれが宇宙船だとしてもだ。だらだらと
このままでは、生徒たちの精神が
そのブザーに反応して、生徒たちがシートから体を起こした。ヘルメットを外し、
カードを受け取った生徒は、販売機で食料に換えたりと行動を起こしている。このペースで食料が尽きることはないのだろうか。紀之はそんな疑問を感じながらも視線を向けた。
生徒たちは、紀之の視線に気づきながらも目を
この密室の中で、紀之の立場は
生徒たちは、紀之を敵視しているのだ。今や会話すらほとんど交わしていない。
サークルを作っているのだ。紀之以外の生徒たちというサークルを。
もしかしたら、生徒たちが精神状態を保っているのは、紀之の存在もあるかもしれない。集団から排除されている紀之を見て優越感を得ているのだ。
販売機の前では、生徒たちが集まり
紀之は自分のシートへと戻り、部屋が沈黙するのを待つことにした。十二時を過ぎたばかりのこの時間帯は、生徒同士がシートで見た映画やゲームなど
紀之が目を閉じ続けていると、いつのまにか室内は静まっていた。沈黙の時間帯に突入していたのだ。
紀之が薄暗い天井を見ながらシートに横たわっていると、
紀之はその人影を抱きとめ唇を合わせた。半身の体勢で抱き合い、お互いの手足を
亜美は紀之にキスを求めながら、紀之の手に食べ物を握らせた。
亜美がこうして他の生徒の目を
紀之はお礼を言う代わりに、亜美の体を乱暴に抱きしめまさぐった。亜美と唇をぶつけ合っているうちに、昔の記憶が
一年前に
亜美は上級生の男子生徒に告白をしていたのだ。
五分後の屋上には、泣く亜美だけが残っていた。
それからどうしたのか
亜美は紀之の前で服を脱いでいた。
今でもその時の亜美の
亜美との関係はその一回だけだった。それから付き合ったわけでもなかった。
紀之は亜美と抱き合いながらも、ふと人の気配を感じた。抱き合った状態のまま、視線だけをさ迷わせると、画面の前に人影があることに気づいた。
その細い体のシルエットは
こちらを見ているわけではなかった。画面の方向を向いている。和泉はただひとり、ぼんやりと立ち尽くしていた。
紀之は亜美と抱き合いながらも、和泉から視線を外せなかった。
最初に変化に気づいたのは紀之だった。
紀之は画面の前に立って考えをめぐらせていた。密室の沈黙の時間帯。静まりかえる部屋で、紀之はじっと画面を見る。
スペードマークが増えていたのだ。マップに存在するマークは、この場所を表現する丸とスペードが二つだけだったはず。しかし、現在マップにスペードは三つある。
二つ並んだ青いスペード。そして、三つ目はマップの端で黄色く光っていた。
これは何を意味するのだ?
カラーの違うスペード。黄色いスペードの意味は。
紀之がじっと画面を見つめていると、部屋の後方で扉の開く音がした。視線を向けると、そこにはタオルで髪を



