ブギーポップ・クルシファイ リミットグレイの妖精逆説

Color 1 磔刑の黄色 -crucifixion yellow- ⑤

 と嘆いてしまっていた。それを口にした瞬間、ちょっと焦った。わたしのクラスメートたちなどは、こういうことを言うと『末真はマニアックすぎるんだよ』とからかってくるからだ。しかし藤花は、


「別に気にしなくていいじゃん、誰も読んでなくたって。末真が好きなんだから、それだけでその作家だって喜んでるよ、きっと」


 と屈託なく言った。わたしは心に複雑なおもいを抱えながら、


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 とだけ言った。複雑なのは、その作家──霧間誠一は既にくなられていて、そしてその一人娘である〝彼女〟こそ──わたしがどうしてもお礼をしなければならない相手だったからだ。あまりにも込み入った状況であり、さすがに知り合ったばかりの藤花に説明できるはずもない。


(でも──霧間誠一なんて口にするな、ってあの講師──)


 あのときの雨宮美津子の表情──なんとなくだけど、わたしの気持ちを突き放したときの〝彼女〟に似ていたような気が──どうしてだろう。


(霧間誠一、って──うかつに頼りにしてはいけない、みたいな認識が共通しているんだろうか……)


 なんだか不安で落ち着かない気持ちになってきた。でも横にいる藤花はあくまでも明るい調子で、


「あのさ──末真、もうどこの大学を受けるとか、決めちゃってるの?」


 と訊いてきた。わたしは、


「どうだろ、まだ第一志望校とか決めてないしな──」


 と苦笑した。それでわたしは、教師から文句を言われ続けているのだった。うちの高校は県下でも有数の進学校なので、そこそこの成績の生徒なら、少しでもいい大学に行くべきという雰囲気が強い。で、わたしは正直、そこに今ひとつめていない。自分の未来に具体性がない、っていうか──途方に暮れている。

 わたしの煮え切らない表情を見て、藤花は、少しはにかみながら、


「あのさ──私、末真と同じところを受けてもいい?」


 と言い出した。わたしが眼を丸くして彼女を見ると藤花は、えへへ、と照れ笑いをしながら、


「私、何していいかよくわかんないんだよね正直。で、それを末真と一緒に考えてもいいかな?」


 と言ってきた。わたしは、


「…………」


 と少し絶句してしまってから、震えそうになる声を必死で抑えながら、


「──藤花、明日も一緒に予備校行こうよ。同じ講義に出よう」


 と提案してみた。すると藤花は顔をぱっ、と輝かせて、


「うん!」


 と大きくうなずいた。それからわたしたちは他愛ない会話をして、しょっちゅう笑って、たまに怒ったフリをしたり、歌ったり、意味もなくスキップしたりしながら一緒に帰っていった。

 駅前で別れた後も、わたしは一人でニヤニヤ笑っていた。気持ち悪いかも知れなかったが、楽しかったのだからしょうがない。今まで藤花と学校で一度も交流がなかった、というのが信じられない気持ちだった。


(ホント、なーんで話したことなかったんだろ──わたしって、こういうの多い気がするな……)


 ぼんやりと、そんなことを考えながら夜道を歩いていると、わたしの前にひとつの影が突然現れた。


「え……?」


 わたしは思わず、息をんだ。

 


(よし、末真和子が一人になったな……ヤツが人気のないところまで行ったところで、仕掛けるぞ)


 二人をずっと追跡していた府名井柚純は、末真が住宅街へつづく道に入りかけたところで、背後から近づこうと一歩前に出た……そこで、


「駄目です、府名井さん……!」


 と横にいた焼津芽依が、焦った調子で彼女の腕を摑んできた。


「なに?」


 と柚純がいぶかしんで振り向くと、彼女は末真和子の、さらに前方に視線を向けている。

 そこに……ただならぬ気配が満ちていくのが、柚純にも感知できた。


(なんだ──?)


 そこにはひとつの人影が立っていた。ライダー仕様の革のつなぎで全身を包んでいて、仁王立ちになって末真の前に立ちはだかっている。


「あ、あいつです──〈炎の魔女〉です……!」


 芽依の声はひそめられた小声の中にあってさえ、はっきりとわかる恐怖と絶望にし潰されていた。


「三日前にしろたちを襲って、お守りを奪っていったのは、ヤツです──」

「あいつが──〝霧間凪〟なの?」


刊行シリーズ

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