ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録1

一 ⑨

 まと駆動系アクチユエータを兼ねる、装甲外骨格パワードスーツに似た機能の霊術だ。駆動霊術としては生体強化改造も身体強化霊術をも超える大出力を発揮し、同時に霊術装甲がその強烈な反動を吸収する。本来の体ほどには精密に動かせないものの、硬くて重いものを無理やり破壊しつつ身体への損傷はけたい時には重宝する霊術だ。

 そう、たとえば重量はあろうかという金属製のいのししを思いきり打撃する時などに。


「せーの」


 碧燈あおひが告げて、同時に間合い。

 いのししの頭を碧燈あおひは下から上に殴り飛ばして、そして天茜あかねは上から下に殴りつけた。

 拳の先に展開した《》の平面に、機巧自在からくりじざいの頭部はプレス機さながら上下から挟みこまれる。猛烈な圧力に瞬時に屈した頭部が紙風船のようにくしゃりと潰れ、胴体深くに置かれていた制御系がで沈黙。

 首を失った胴体があっけなく、鈍い地響きで倒れ伏す。

 捨ておいて、碧燈あおひは双子の兄を振り返った。


「ちょ、天茜あかね! せーのって言ったのになんで合わせねぇで打ち下ろしてるんだよ! こういう時は華麗に打ち上げとくもんだろ!?」


 天茜あかねは眉をひそめる。


「打ち下ろしを合わせるからそう言ったんじゃなかったのか、碧燈あおひ。というか打ち上げてどうするんだ。周りのビルにでもぶつかったら危ないだろ」


 せーのとか言っておいて、ぜんぜん意思の疎通は図れていなかった。

 焦げくささを漂わせる残骸を前に、二人はいつものようににらみあう。

 想定外の方向から打撃を加えられたせいで、お互いちょっと痛かったのである。


「く……くそぉおおおおおっ!」


 そして二人がいつものにらみあいなど出来てしまうくらい、またしても悠長に驚愕きようがくなどしていた蜥賊トカゲどもがようやく、それぞれの凶器エモノを構えた……やはり所詮は、安く使われて切り捨てられる程度の人間だ。弱者に一方的な暴力を振るうことはできても、戦闘には──強者同士の暴力の応酬にはまるで向いていない。

 汎用機関銃GPМGで片腕を置き換えた、両の上腕とだいたいから短機関銃サブマシンガンをせり出させた、小型の迫撃砲をなぜか背部にマウントした蜥賊トカゲが照準を向ける。巨大な杭打機パイルドライバでひときわいびつな腕をした巨漢が蒸気を噴きあげて迫る。

 次の瞬間、まずは汎用機関銃GPМGと迫撃砲が、使い手の金属の手足と共に宙を舞った。


「……え?」「は?」


 ついで杭打機パイルドライバの巨漢が舗装に亀裂を入れてごうちん。もぎ取られた杭打機パイルドライバが、巨漢自身の肩口を串刺しにして縫い留める。──たちいつせんで沈めたのが天茜あかねで、力任せにもぎ取ったのが碧燈あおひだ。さくやくしき杭打機パイルドライバを作動もさせず、膂力りよりよくだけで舗装ごと貫通させたのも。

 の術師の身体からだは、ヒグマや虎をねじ伏せる性能をとして設計されている。

 雄牛の頑強な頭蓋骨をも一撃でへし折るヒグマの膂力りよりよく三百斤二百キログラムもの自重ながら一跳びで象の背骨にらいつく虎の俊敏をも上回る、最新生体工学の頂点捕食者トツププレデターの術師だ。手足を武装化した程度の機械強化者シンヤなどは鈍重な獲物でしかない。

 まして骨格表面の《》の霊術陣を稼働かどうさせた戦闘解放状態とあっては。

 はっきりおびえた顔で後ずさりつつ、短機関銃サブマシンガン蜥賊トカゲがようやく乱射。

 至近距離の九ミリ弾の嵐を、いっさい無視して二人は残党どもに迫る。霊力量の極めて多いの術師は〝常在防護〟──まとった霊力の層だけで電磁加速狙撃銃アンチマテリアルレールガンの至近弾を弾く。解放状態の今なら装束と体表の防護霊術も合わせ、戦艦の四〇連装砲の直撃さえ防ぎきる。サブ機関銃マシンガンの拳銃弾など、豆鉄砲どころか紙鉄砲だ。

 短機関銃サブマシンガン蜥賊トカゲその他が、なすすべもなく打ち倒されて地に伏せる。

 くっ、殺せえぇ! だのと巨漢(ではなくどうも女性らしかった)がわめく中、──最後の数人が非人情にも運転席に逃げこみ、そのままトラックを急発進させて逃走に移った。


「あっと」「右衛門府通信本部ウミネコHQ軽機十三小隊支援班ヤブサメ一三です。無力化した蜥賊トカゲの回収を」


 が向かっています、との応答を確認し。


「了解。軽機十三支援班ヤブサメ一三は残党を追跡します」


 二人もまた地を蹴った。

 獣のように低い姿勢で、強烈な踏みこみで舗装を割って。足跡の形のひび割れを背後に点々と残し、逃走するトラックに猛然と追いすがる。

 サイドミラー越しの蜥賊トカゲの顔が血の気を失い、必死の形相でどうやらアクセルをベタ踏み。ぐんぐん加速してやがて全速に達するが、追跡する二人は振りきらせない。ばかりか次第に距離を縮めていく。

 ビルを足場に駆けあがった碧燈あおひがトラックの進路上に回りこみ、目的の交差点で進路を変えさせる。トラックにぴったり追随して天茜あかねが追いあげ、運転手にプレッシャーを与え続ける。言葉も交わさず、けれど息の合った連携で、二人はトラックを追いこんでいく。

 子供の頃、兄弟たちとの鬼ごっこでつちかった連携の要領だ。おとなげなくも空中を足場に逃げる先代踏破方とうはがたの姉以外に、追いつめられない相手なんかいなかった双子の弟との連携。

 なつかしい記憶についつい楽しくすらなってきながら、天茜あかねは通信の向こうの相手に問う。戦闘用の機械強化者シンヤは、機械の四肢を壊したくらいでは死なないとはいえ。


まつりか、さすがにトラックごと止めるとなると殺しかねないから任せたい。状況は?」

「ポジション確保。装備展開には二〇秒」


 一時接収した集合邸宅ゲーテツドマンシヨンの一室、そのベランダでまつりかは応じる。

 襲撃現場には、ビルすら無視した最短経路を進めるの術師に先行してもらい、すぐに壊乱するだろう蜥賊トカゲをまとめて確保するための伏撃地点である。まつりかが有する軽装機動隊最大の火力は、急行したその場での即時展開にはあまり向いていないのだ。

 なお軽機十三小隊本隊は地上から天茜あかねたちに追従していったのだが、到着したらもう回収任務しか残ってなかったと現在、しょんぼり意気消沈中である。


飛蝗ヒコウ〉は分散して〈裾野すその〉の各地を襲撃していて、一帯での捕り物にこの集合邸宅ゲーテツドマンシヨン自衛エクス外構テリアも作動している。が、高層階のここは敷地しきち外周の鋼板シヤツターに射線を遮られることはない。


「ピカ=ピカ。観測演算の一番、二番を終了」

「了解、まつりか武装格納亜空間ストレージ・一番、二番、解放します」


 まつりかの周囲で空間が『開く』。

 虚空こくうからにじるように現れるのは、装甲を持たないだ。

 駆動系アクチユエータを内蔵した金属骨格系フレームまつりかを背後から抱きすくめ、また手足に強靱きようじんな植物のつるのように寄り添う。強化外骨格エクサスケルトン自身との全重量を支える背部フレームから、駐鋤テイルスペードが一対、展開されての強烈な反動に備えた。

 ようえんどうもうじよろうか、異国の神話のしい半人半馬ケンタウロスめいたシルエットのかたわらで、それほどの備えを必要とするもう一つの装備が姿を現す。

 まつりかの身長を頭二つ分も越える、やりのように長大な銃身。大口径を示して冗談のように分厚い弾倉と、その大口径弾をみこむ頑強な機関部。付属する大出力の冷却装置と蓄電装置キヤパシタ

 両腕の外側を覆う主腕メインアーム、背部フレームから伸びる副腕サブアームがその桁外れの長銃を保持し、部品がみあって固定。左目前に降りたバイザーがメッセージを表示する。


『十一式:兵装認識。強化外骨格エクサスケルトン〈十一式〉、電磁加速対物狙撃銃アンチマテリアルレールガン〈八郎〉、正常起動』

『十一式:ひめまつりか今宵こよいもご機嫌麗しう。良き狙撃月夜にござりまするな』

『八郎:銃身冷却開始。銃弾装塡。認識・徹甲弾AP

『十一式:外部環境情報の取得を開始。完了。火器管制系FCS補正。完了』

『八郎:銃身冷却完了。最終安全装置解除。トリガ解放』

「射撃準備完了。──天茜あかね碧燈あおひ、いつでもいいよ」


 了解、と通信を経由して天茜あかねが応答。まつりかの眼下、交差点の手前に設定した射撃ゾーンに向かって目標のトラックを追いこんでいる二人。