あの夏に捧ぐ逢いことば
chapter.1 電子の訪客、白昼夢のインストール ②
それも、スマホらしい青白い光なんかじゃない。
黄色やシアン、緑、マゼンタなんかの目に痛いカラフルな光が入れ替わり立ち替わりで闇を照らし、ベンチや木の葉を明滅させていく。
「なっ、なに!? バグった!?」
どう見ても正常な挙動ではなかった。スマホも異常な熱を持ち始めている。
何か変なウイルスでも入り込んだか。このまま
はっ、と。
光と闇だけに回帰した世界の真ん中で、
新緑色のふわりとした長髪。チラチラと
「こんにちは。……あ、いや、時間的にはこんばんはでしょうか」
設定していた待ち受けを背景にして、その少女は
……なんだこれ。いつの間にか、画面が切り替わったのだろうか。マイナーな配信アプリか何かのリンクを踏んでしまったか?
「わたしは
「……いや、勝手にデータ抜かないでよ」
ぼそっと独り言。
トラッキングでもされたのだろうか。アプリとデバイス間で色々と情報がやり取りされる、みたいな。許可した覚えはないのに。
「すみません。デバイスの登録名を参照してしまいました」
「……えっ?」
「……? あっ、お写真や連絡先など、プライベートな部分には踏み込んでいませんので安心してください。そのあたり、ちゃんと分別のある
年頃の少女らしい、にっこり笑顔の
……いや、まさか。きっと偶然だろう。
頭を
「……あの、
「あぁ! だから不審に思っていたんですね。ここにありますよ〜」
彼女は
「ほら! 『設定』から入れる『一般設定』の中にちゃんとありますよ!」
「やっぱり会話できてる!? ちょっと待ってよ!」
信じられない。
この『
僕の名前が書いてある設定ページまで用意して、一体何のドッキリだ。
「あの
「冗談じゃありませんよ。
「どう考えても冗談でしょ! 君は何なんだ!」
気味が悪かった。
手のひらに収まる電子機器の中に、突如として現れた少女。
それも一〇〇万単位のファンを持つ人気YouTuberで、生身の人間で、そのくせスマホに住んでいるキャラみたいな応答で。気味が悪い。何一つとして、理解できるものではなかった。
「わたしが何者か、ですか? 先ほど自己紹介しましたよ!
「そ、そうじゃなくて。なんでその
「あぁ、なるほど、そっちでしたか!」
パン、と手を合わせて目を輝かせる画面内の少女。
その何気ない仕草が、むしろ冷たい恐怖を
真夏の湿った熱気に当てられた首筋に、しかし冷や汗が流れ落ちた。
「その問いにお答えするなら、それはわたしがAIだから、になりますね!」
……えー、あい?
途端に、脳の奥が沸騰する。
「ですので、わたしに実際の肉体は存在しません。動いているのは生成AIで作り出した人間の皮。元がデータなので、こうしてデバイスを渡り歩くことも可能という訳です」
すらすらと告げ、自身をAIと称する少女はにこやかな笑顔で胸を張る。
「また、このスマホを選んだ理由を言語化するのであれば……そうですね、生配信を見ているデバイスの中でセキュリティが飛び抜けて甘かったから、が正確でしょうか」
「……アップデートもロクにしてない、超古いスマホで生配信を見ちゃったから、と」
「そういうことです!」
手のひらの中で快活に笑う少女を見下ろして、胸がざわつく。
有名YouTuberの生配信を見ていたら、彼女は実は人間ではなくAIで、たまたまセキュリティが甘かった僕のスマホに入り込んできた?
どう考えても普通じゃない。
おかしな事態が僕を巻き込んでいる。
僕は何一つとしてわがままを言っていないのに、どうしてこうなった?
「それより、先ほどからすごい勢いで通知が鳴っていますが、確認しますか?」
首を
「やっば!
彼女から奪い取るようにLINEのアイコンをタップすると、トサカを真っ赤にした鶏のようなキャラがブチギレているスタンプが鬼のように連打されていた。
スタンプの洪水をかき分けて過去に向かうと『夕飯は食べないの?』『連絡よこしなさい』『本当にいつも』『二〇時までに帰らなかったら片付けます』とのテキストに
現在時刻、二〇時七分。
今日は晩飯抜きだ。
***
「──で、詳しく聞かせてくれる?」
「僕のスマホを乗っ取って、夕飯も奪った君には説明する義務があるよ。
「おかしなことを言いますね。AIは
微妙に芯を食わない返答をした彼女は、くすくすと笑う。
その仕草は自然過ぎるほど自然だった。髪色だけは派手だけど、それ以外は普通に朝の教室で談笑していてもおかしくない。これが本当にAIの作った動きだというのであれば驚きだ。
「AIは出力した回答が全てです。
「いや、まずそこだよ」
スマホの中でにこにこ笑う彼女へ、人差し指を突きつける。
「君がAIだってこと自体、まだ信じられてないんだ。そういうアプリを使って僕と通話してる、って方が現実味あるでしょ」
というか、それ以外の方法でこの状況を再現するのはむしろ非現実的だ。
「なるほど……
と、画面の中の少女がそこまで話したところで、
「



