亡命天使 ~窓際外交官は如何にして終末戦争を阻止したか~
第四章 神なき地で交わす約束 ⑯
*
「【
サピンは、バタイユを前にして
「これは未来ある若者への忠告だが、君は、もう少し慎重に友人を選ぶべきだな。無責任な
が、バタイユも簡単に揺さぶられはしない。微笑を浮かべてサピンを見る。
「誰かね? そんなデタラメを言う証言者とは」
「言えませんよ。また事故に遭ったらたまりませんからね。スキルパ・ヘーメルのように」
ヘーメルの名前に、議場が騒然となる。バタイユは、一瞬、苦々しく顔を
「まあ、ヒントは差し上げましょうか。あなた方もよく知っている方ですよ。レナード参事官」
レナード参事官は、
サピンは優雅に脚を組んだ。傷が痛んだが、顔には出さない。
「たまたま拾ったものを切り札にするようでは、天下の帝国も底が見えたというものです。そんな国に、我々は領土を譲りません」
ふいに、バタイユの口元が
「威勢がいいのは結構だが……外交官の言葉には責任が伴う。君の不用意な発言のせいで、数千数万の
「ご心配なく。アルトスタ人は、普段は温厚だが怒らせると怖い。長い歴史で、売られた
実際の歴史がどうなのかは知らないが、ここでは言った者勝ちだった。サピンは平静を
すると、一人の兵士が部屋に駆け込んできた。
「被害状況報告します! 一部の床や天井に崩落が見られる以外、現状、ノヴァ・テクタ・ルウェンティスに深刻な損傷は確認されておりません! 先程の落下は、速度、進入角共に、墜落というより不時着に近いものだったようです」
その報告に、会議室の一同が
「それは、つまりどういうことだ? 何か理由があって、不時着をしたということか?」
「いえ、
「なんだそれは! そんなことがあってたまるか!」
会話を聞いていたバタイユは、
たった今、ノヴァ・テクタ・ルウェンティスを不時着させたのは、ラジャだった。要塞を操縦したのではなく、最下層にある機関室で、要塞を飛行させる基幹魔石技術を直接いじったのだ。今頃、【
ラジャに正体を打ち明けられたあの日、サピンはある計画を立てた。
帝国は、ノヴァ・テクタ・ルウェンティスを交渉の会場に設定した以上、どこかで、脅しとして【
だから、取るべき行動は二つ。
最善は、【
そしてそれが間に合わなかったときの次善策が、【
事実として、帝国は、発掘しただけの【
だからサピンは、エンシュロッスたちには事実を伝えず、しかしバタイユたちにはラジャがアルトスタに協力していると信じさせ、【
そのために、ノヴァ・テクタ・ルウェンティスは、落ちなければならなかった。エンシュロッスから見れば、サピンは要塞の墜落事故をきっかけに、帝国に対して一か八かカマをかけているように見える。逆に、墜落の混乱がなければ、エンシュロッスはサピンに
そしてバタイユには、この不時着は別の意味を持つ。帝国の意図しない、それでいて鮮やかな不時着。その状況に、バタイユは、要塞を動かす古代の魔石技術に精通した人物、つまりラジャが、背後でアルトスタに協力していると嫌でも想像するはずだ。
サピンは、汗で
ラジャ、よくやってくれた。
ここからは、俺の仕事だ。
「しかし、疑問だな」
バタイユは、感情を読ませない表情に戻り、顎に手を当てる。
「君はそう言うが、なぜ、エンシュロッス大使はそのことを知らない? いや、君以外のアルトスタのメンバーは、皆そのことを知らないように見える。もし知っているなら、さっきの【
「【
「それで、その知っている人間が君だというのか? 君のような、若者が?」
「信じられないのはわかります。しかし、一見ただの子供にしか見えない人間が、思わぬ力を持っていることもあるのが世の中です」
サピンは、意識してラジャの存在を
「全ては単なる偶然で、今私が
バタイユは言葉に詰まった。サピンのこめかみを汗が流れる。



