聖女と暴食

第一章 ラプトルのパチャマンカ ⑥

 そのしゆんかんだんがんしていたほうが解放されて、きようれつらいげきとなってさくれつする。高電圧により神経をかいされ、悲鳴を上げることもできずに一体目のラプトルは絶命した。


 続けて俺は第二射を放ち、もう一体のラプトルも仕留める。ラプトルというものきよう度を考えれば、あり得ないくらいあっさりした幕切れだ。


かみなりか。めずらしいほうを使うな』


 俺の足元にいた黒犬が、なぜか感心したように話しかけてくる。

 ああ、と俺は素っ気なくうなずいた。


 黒犬のぶんせきは正解だ。かみなりほう。それがラプトルをいちげきで仕留めた俺のこうげきの正体だった。


 固有能力である空間ほうを除けば、俺のほう適性は水属性と風属性のふたつ。せんとう職の生徒としては、必ずしもめぐまれた適性とは言いがたい。ほうの直接こうげき力としては、水や風は、火属性や地属性におとるというのが定説だからだ。


 そんな俺の運命を変えたのは、〝学園〟の授業で、かみなりの発生原理を習ったことだった。


 らいうんの中では、こおったすいてき同士が風にかくはんされてぶつかり合うことで静電気が発生する。

 そのようなでんを帯びた氷の粒の電位差によって、かみなりは発生するのだという。


 そうしたかみなりの発生メカニズムを、俺はほうによって再現した。


 静電気が生み出す電力はたるものだが、その電力をめこむことによって、俺のかみなりほうは本物のかみなりにもひつてきするきよう的なかい力を持つことになる。

 水と風の二属性のほう適性と、空間ほうの固有能力を持つ俺だからこそ実現できた、ある種のうらわざ。チートほうだ。


『ふむ、らいていねらいをつけるためにじゆうだんを利用しているのか。なかなかさかしいをする』

だまってろ、犬コロ」


 もちろんそんなかみなりほうにも欠点がある。それは射程の短さだ。


 大気中ではかみなりは直進しない。火属性ほうの火球や地属性ほうがんだんのように、りよくを圧縮してち出すことができないからだ。最悪、らいしん一本で無力化されてしまうらいげきを確実に命中させるためには、本来は目標に直接れるしかない。


 その欠点を補うために、俺はじゆうだんを利用することにした。


 でんを帯びたじゆうだんち出すことで電流を通すを造り出し、らいげきを目標へとゆうどうする。

 結果的に俺のかみなりほうは、じゆうだんと同じだけの射程を持つことになった。


 こうげき速度がじゆうだんのスピード──せいぜい音速の数倍──に制限されてしまうというだいしようはらうことになったが、それでも他属性のほうに比べればかみなりほうの速度はあつとうてきだ。


 決して無敵というわけではないが、初見殺しとしてはきわめてゆうしゆう

 そんなかみなりほうに特化した俺の装備やせんとうスタイルは、でのものとうばつ向きだった。それも小型から中型で動きの速い敵をるのに特化している。


 ラプトルのようなものはまさにねらい目だ。そうでなければきよう度B級下位のものを、こんなふうに簡単にはれなかっただろう。めんどうな思いをせずに済んだのは悪くない。


「もうたおしてしまったんですか?」


 少しはなれた場所で俺の様子をうかがっていたアナが、ずといった様子でもどってくる。

 さすがの彼女もこのきよでは、ラプトルがたおれたのかどうか確信できずにいるらしい。


「ああ。今から回収に行く」

「わかりました。早めに血きと下処理をしないといけませんね」

「……くわしいな」


 アナの持つなぞの知識力にとうわくしつつ、俺はライフルをもどした。そして仕留めたラプトルの回収へと向かう。


 そのあとを、黒犬をいたアナが当然のようについてくる。


 かみなりほうで絶命したラプトルは、ほとんど外傷のない状態でたおれていた。とはいえものの死体にはちがいない。

 それでもアナは平然とそれに近づいていく。天環オービタル育ちのてんじんにしては意外なことに、彼女にはものの死体に対する感はあまりないらしい。


「これは、思ったよりもだいぶ鳥ですね」

「生物学的には、鳥もきようりゆうの一種らしいからな」


 のんな感想を口にするアナに、俺は投げやりな説明をする。

 ラプトルの見た目は、二足歩行するトカゲと鳥の中間くらい。全身をおおもうのせいで、実際の体格よりもはるかに大きく見える。


 俺はそんなラプトルの首筋をナイフでき切り、岩場を利用して血きを始めた。身体強化のほうを使って、体重百二十キロをえる成体のラプトルをどうにか岩の上にげる。


「本当は半日ほど置いて熟成させたほうがうまが増すらしいが、しんせんでないとえない部位もあるからな。さっさと解体を済ませてしまおう」

「はい! お肉ですね!」


 キラキラとひとみかがやかせながら、アナはせっせとの準備を始めている。

 幸いなことに、えだを集めるのに苦労はなかった。

 メテオライトが地上についらくした際のしようげきで、へし折れた低木の枝がこうのあちこちに散乱していたからだ。


「一体は、つうに焼き鳥にしましょう。それなら解体が終わってすぐに食べられますし」


 えだを集めてもどってきたアナが、石を積み上げてかまどを作る。

 その間に俺はラプトルのがいに、みずほうで生み出した熱湯を浴びせた。もうむしりやすくするためだ。


 毛穴の開いたラプトルから、アナと二人でせっせと羽をむしり、ようやく解体の下準備が終わる。

 そのころになるとすでに太陽は大きく西にかたむいて、空は夕焼けで赤く染まっていた。


「もう一体のラプトルはどうするんだ?」


 一体目の解体を終えたところでアナにく。


 ちようの可食部の割合は、生体重量の約五割から六割。成体のラプトル一体から、六十キログラム前後の肉が取れる計算になる。俺とアナ、それと犬一頭で食べるには多すぎる量だ。


 しかしアナは当然のように、二体目もがっつり料理する気でいるらしい。


ものをして丸焼きですね。いしがまがありませんから、パチャマンカにしましょう」

「パチャマンカ?」

「はい。土中焼きです。地面にった穴の中に焼けた石と食材を入れて、それに土をかけてきにするんです」

「なんでてんじんのきみが、そんな料理を知ってるんだ?」


 地球周回どう上にある天環オービタルには、当然だが土も石もない。土中焼きパチヤマンカなどという調理法の知識は、まったく役に立たないはずである。


「前からやってみたかったんです、パチャマンカ。地上に降りてきたがありました」

『うむ、それでこそ我がけいやく者だな』

「…………」


 アナは答えになっていない答えを返し、それを聞いた黒犬は短いしつを満足そうにった。

 俺はツッコミを入れる気力もなくして、もくもくと焼き鳥の準備を始めるのだった。