聖女と暴食

第四章 デスバイソンのラグーパスタ ⑩

 俺の切り札であるは、個人でけいこうできる武器としては最大級のかい力を持っている。


 だが、その欠点も少なくない。

 まずはりよくの消費量がぼうだいなこと。俺が時間をかけて内にめこんだ電力の、実に三分の一近くを一発で消費する。


 そしてもうひとつの大きな欠点は、ほうしんれいきやく問題だ。

 電気ていこうによるエネルギーロスと発熱によるほうしんのダメージを防ぐため、俺のは水属性ほうによって、絶対れい度近くまでほうしんれいきやくしておかないと使えない。

 そのほうしんれいきやくに必要な時間は約二十四時間。つまり俺のは、一日に一発しかてないということだ。


 ティルティは、もちろんその弱点を知っている。

 だから彼女は、ものの中でも特にぼうぎよ力の高い一つ目巨人サイクロプスを呼び寄せた。こいつを相手にたせることで、俺の切り札をうばうつもりなのだ。


「ちっ……」


 それがわかっていても、俺はを使うしかなかった。

 ちよう重量武器をあやつ一つ目巨人サイクロプスは、ぼうぎよ力だけでなくこうげき力も高いのだ。

 性格もこうげき的で動きもばやい。そんなやつにねらわれたら、こうげきほうを持たないアナなどひとたまりもないだろう。


らえ……!」


 俺は一つ目巨人サイクロプスの胸部に向けて、ち放つ。

 から解き放たれた三十メガジュールをえるぼうだいな電力がじゆうの加速部に流れこみ、金属製のだんたいいつしゆんごくちようおんそくまで加速する。


 そのほうげきは高いぼうぎよ力を持つ一つ目巨人サイクロプスどうたいをあっさりとかんつうし、その上半身をあとかたもなく消し飛ばした。

 発射の際の反動とちよう音速のだんたいが生み出す衝撃波ソニツクブームを、俺は三重のほうしようへきを展開することでどうにかしのぶ。


 そう。これがの第三の欠点。しやげき直後にほんのいつしゆんだが、身動きの出来ないこうちよく状態が発生してしまうのだ。

 そしてティルティは、ねらましたようにそのいつしゆんすきいて、俺を背後からおそってくる。


「くっ……!」


 彼女の接近に気づいた俺は、あらかじめ待機していたほうを発動させた。の欠点を知るティルティが、ほうげき直後のこうちよく時間をねらってくるのは確実だったからだ。


 からされた自動銃座セントリーガンが、かみなりほうを帯びただんがんをフルオートで発射する。


 しかし完全に不意打ちで放たれたそのだんがんを、ティルティはあざやかにかいした。風属性ほうしようへきを使って、だんがんどうらしたのだ。

 横風によってだんどうらされてしまえば、かみなりほうは命中しない。実体を持つだんがんしよくばいに使うかみなりほうの欠点だ。


「さすがね、ハル! まさか私のしゆうが読まれていたなんて……!」

「俺のらいげきけながら、よく言う!」


 こうちよく状態をけた俺は、に放りこみ、代わりに短機関銃サブマシンガンを取り出した。


 短機関銃サブマシンガンそうてんしているのは非性のソフトポリマーだんだが、金属粉末を練りこんであるため、かみなりほうしよくばいとしての機能を持っている。負傷させずにティルティを無力化するには最適な武装だ。


 この場には馬鹿げたりよくの回復ほうが使えるアナがいる。多少のを負わせたところで、そくでさえなければ問題はない。


 それでも俺が非性のだんがんを選んだのは、ティルティ相手に迷いなくこうげきたたきこむためだ。〝さいやく〟の力を手に入れた彼女のほうせんとう能力は、今や確実に俺を上回っている。手加減やえんりよを考えながら戦える相手ではない。


「もうやめろ、ティルティ! こんなことをしても意味はない! 俺がアナを保護している理由、今のおまえにはわかっているはずだ!」


 俺はティルティのあしねらって、短機関銃サブマシンガンちまくる。

 しかしそのこうげきは、彼女が引き連れていたけんによって防がれた。非性のだんがんでは、たとえらいげきまとわせていたとしてもきようじんな生命力を持つものたおせない。その弱点をかれたかつこうだ。


「わかってるわ、ハル! あなたはあのじよだまされているのよ!」


 ティルティが、土水火風の四属性のこうげきほうを発動した。


 時間差で発動しながら、それぞれのほうしよう速度の差を利用して、同時にちやくだんするというみつこうげき。二属性しか使えない俺には、そのこうげきそうさいするのは難しい。


 にじいくさおとの名に相応ふさわしい高度なほう技術。だが、それさえも彼女の本命のこうげきを成功させるための前りに過ぎなかった。


 四属性のほうに動きをからられた俺に、ティルティは〝さいやく〟のばくえんを放つ。

 そのほのおは、無防備にくす俺をようしやなくみこんだ。


うそ!? ハル……!」


 しやくねつほのおあぶられて、俺の肉体は完全に蒸発する。

 そのあまりのあつなさに、ティルティはしようげきを受けたように動きを止めた。


 おそらくティルティは俺を負傷させて無力化し、必要に応じて回復ほうを使うつもりだったのだろう。しかし〝さいやく〟のほのおはそんな俺をしゆんくしたのだ。


「……鏡!?」


 ティルティが、ハッと顔を上げて身構えた。水属性ほうによって創り出した、鏡によるげんえい。初歩的なほうだが、対人せんとうにおいては効果的なわざだ。


 ばくえんに焼かれたのは、鏡に映った俺のげんえいだった。それをそくに看破したのは流石さすがだといえる。だが、ティルティの反応速度よりも、俺の行動のほうがいつしゆんだけ速かった。


だまされてるのはおまえのほうだ、ティルティ」


 ティルティのふところに飛びこんだ俺が、彼女の手からほうじようり飛ばす。

 俺はそのまま動きを止めずに、彼女を地面へと押し倒した。


「ハル……!」

つかまえたぞ、ティルティ。ものたちを支配から解放しろ」

「いいわ……それがあなたの望みなら」


 意外なことに、俺に押さえつけられたティルティはていこうしようとしなかった。

 ただ熱を持ったようなうるんだひとみで、俺をじっと見上げてくる。そして彼女は俺の手をつかむと、そのままそれを自分のはだかぶさに押し当てた。


「その代わりに私のお願いを聞いてくれる?」

「願い? なんだ?」

「私とエッチして」

「……は?」


 まったく予想できなかった彼女の要求に、俺はしばらく絶句する。


 そんな俺の反応を見て不満げにほおふくらまし、ティルティはジャケットを大きくはだけた。

 均整の取れたすらりとしたたいあらわになるが、それをかんしようしているゆうは俺にはない。


 ティルティが〝さいやく〟にあやつられていたり、洗脳されている可能性をけいかいして、必死にその打開策を考えようとする。なぜなら今のティルティの言動は、本来の彼女からは遠くかけはなれているからだ。


 俺の知るティルティはどちらかと言えばけつぺきで、自分からいろこいの話をすることはめつになかった。下ネタなどはじようきらっていたし、俺にしつこくつきまとう女子生徒に対しては、けつとうすら辞さないタイプだった。


 だが俺の目の前にいるティルティは、まるでタガが外れたように自分の欲望をしにしている。しつそうする前の彼女とは完全に別人のようだ。