1:8.6周年記念SS
エイティシックス8.6周年記念SS 貴族if2
前回までのあらすじ:保護者の大貴族一同から仮装用ドレスを送られたエイティシックスが、素敵な衣装にテンションあがってギアーデ皇国ごっこをしているよ!
「――というわけで、アキレグ=アロ連合共和国からの留学生、ヴィークトルだ。連合共和国は名前のとおり共和制なので、もちろん俺も皇子ではなく一般市民の留学生だからな」
私服の中からなぜか出てきた、いかにも純朴で善良な学生っぽい衣装一揃いを纏って、愉しげにヴィーカは宣言する。野暮ったい柄と仕立てのシャツに微妙によれっとしたベストにわざわざ少し崩して垢ぬけなさを演出した髪。変装用みたいな分厚い黒縁の瓶底眼鏡。
傍らで落ちつかなげにそわそわしている、彼の忠実な近衛騎士を片手で示した。
「そしてこちらは、同じく連合共和国からの留学生、レルヒェ」
「ええと、その、殿下の学友にして近衛騎士、レルヒェにござりまする!」
ちょっと迷ってから覚悟を決め、一息に言い募ったレルヒェは、こちらもいつもの
……まあ何故も何も、連邦への派遣にあたって彼女の主が入れたわけなのだが。本人の善良学生
ともあれ衣装と不似合いな軍人口調と直立不動で名乗ったレルヒェに、ヴィーカは顔をしかめてダメ出しをする。
「共和制国家に殿下も近衛騎士もあるか。口調もダメだ、やりなおせ」
「ですが……」
「せっかくの機会だぞ。俺に下々のような開放的気分を満喫させろ」
もう楽しくてたまらない、とばかりに煌めく帝王紫の双眸で、それはそれは堂々とわがままを仰せになる。なるほど、とレルヒェは肩を落とした。
こういう顔をしたらもう、彼女の主は何を言っても聞かないのだ。
「は、御意のままに。では――ヴィークトル……ヴィーカの学友、レルヒェです」
おそるおそる主君の愛称を呼び捨ててみる。ちらりと伺った先、果たしてヴィーカはよろしい、とばかりにうなずいた。
いいのかなぁ……。
と、生真面目なレルヒェはやっぱり思ったが、視線の先の主君が楽しそうだしご満悦でもあるので、レルヒェも良しとすることにした。



