1:8.6周年記念SS
エイティシックス8.6周年記念SS 貴族if6
前回までのあらすじ:保護者の大貴族一同から仮装用ドレスを送られたエイティシックスが、素敵な衣装にテンションあがってギアーデ皇国ごっこをしているよ!
学校の大講堂は、この半月後のダンスパーティー研修を先取りした舞踏会ごっこ、のはずだったのだが、いつのまにか仮面舞踏会設定が追加されている。
肝心の仮面は残念ながら厚紙性で、まだボールルームダンスを覚えきっていない者も多いので踊られているのはフォークダンスだが。
それでも曲が終わり、繋いだ手を放す際に、ダスティンはつい相手を引き留めてしまった。
極東風の、立襟に前合わせの長い裾の上着というエキゾチックなスタイルである。上着の刺繍も連邦や共和国、もといギアーデ皇国やサンマグノリア女王国では珍しい大輪の牡丹と吼え猛る獅子で、異国の貴族が遊学にきているかのような、あるいは仮面舞踏会の仮装としてそれを模したかのような佇まいだ。
気を利かせた購買が用意してくれたビロードっぽい紙の仮面に、涼やかな目元を隠したアンジュが驚いて振り仰ぐ。細身の体躯を強調する、腰の後ろを膨らませたバッスルスタイルのドレス。清楚な白とペールグリーンが重なる色彩は、けれど紛い物の焔の赤光の中でどこか幻惑的な陰影を帯びる。
白花の香に誘われる鳥のように、焔の揺らめきに魅かれる蝶のように、ダスティンは言った。本物の仮面舞踏会でもしばしば、マナー違反とは知りながら男たちが請うた言葉。
「名前を聞かせてくれないか? ――姫君」
自分でも信じられないくらい気障な、そして大胆な振舞をしていると自覚がある。仮面のせいか、それとも普段とは違う衣装の高揚感のせいか。
仮面の向こうで天色の双眸が見開かれ、それから唇が華やかに笑う。
普段とは違う口紅に、夢のように彩られた唇。
「ここではみんな、夜の夢でしょ。わるいひと」
その笑みも、いつもの彼女よりも何処か、艶っぽくて蠱惑的だ。



