1:8.6周年記念SS
エイティシックス8.6周年記念SS 貴族if7
前回までのあらすじ:保護者の大貴族一同から仮装用ドレスを送られたエイティシックスが、素敵な衣装にテンションあがってギアーデ皇国ごっこをしているよ!
「――こっちには慣れたかよ、シャナ嬢」
「あなたのその言葉遣いには慣れないわ、シデン嬢。貴族設定にくらい合わせなさいな」
例のごとくドレスを纏って、お茶会ごっこに興じるのはシデンとシャナだ。
学校の中庭の一角にある小さなあずまやで、ここが薔薇園という設定で向かいあっている。なお薔薇は、一応あずまやには蔓性の品種が絡んでいるのだが、あいにくと夏真っ盛りなので休眠中だ。
それでもエメラルド色に光を弾く濃い葉の群れと、二人の纏うとりわけ絢爛な、まっすぐ戸口を通れないほどスカートを膨らませた宮廷ドレスのために、あずまやの光景は充分にきらびやかだ。それからシャナの私物の、色ガラスに金彩を施したコーヒーカップの影でも。
それもそうか、と軽く天を仰いでから。
シデンはつきあいの長いシャナも見たことのない、淑やかで控えめな微笑みを浮かべた。
「こちらには慣れまして? シャナ嬢。なにかお困りのことがおありでしたら、わたくし力になりましてよ」
果たして。
シャナは思いきり噴き出した。
「ちょっ、嫌だ、シデンったらそんな顔。慣れまして、なんて。あははははははは……!」
あずまやに作りつけられた石造りのベンチ、その肘掛けに突っ伏して笑い転げる。
基本的に醒めた性状で、つきあいの長いシデンですら見たことのない大受けっぷりに、シデンは唇を尖らせる。普段はあまり使わない淡い色、可憐なドレスに合わせたそれで彩った唇。
「まあ、なんですの。あなたがやれと仰ったんでしょう」
深窓のご令嬢らしい、か細い声で抗議してやる。
もちろん、シャナはもっと笑いだして完全に止まらなくなった。



