4:2024年 台湾サイン会のお礼SS
シェア・ユートとチトリ
チトリが気を引かれた顔をしたので二つ買った、タピオカミルクティーなる飲み物をひとくち含んで。
「……ん、」
懐かしい、と不意にユートは思う。
たっぷりのミルクと砂糖のまろやかな甘さに、紅茶の香り高さ。子供のころ、母や親族が淹れていたお茶に少し似ている気がする。
そしてタピオカのもちもち食感は新感覚だ。なるほどこれは楽しいというか人気が出るだろうというか。
それから。
「チトリ、甘くない方も一口くれないか。代わりにこっちも飲んでみてくれ。……嫌じゃなかったら」
注文直前でチトリはついカロリーを気にして、甘さ控えめにしたのである。
これまでユートの周りにいたプロセッサーの少女たちは、なにしろ戦闘による消費分も半端ないのでカロリーとか気にしない。気にする場合も「多いかも」ではなくて「足りないかも」だ。なので、カロリーオーバーを気にして食べたい甘さを我慢してしまうチトリは、ユートにはちょっと新鮮だ。
ぱっとチトリは顔を輝かせる。
「いいの?」
「ああ」
とりあえず嫌ではないらしい。いそいそと受け取り、飲んで“やっぱりこっちの方が好き……!”とばかりに幸せいっぱいの顔になったチトリに、ユートは一つささやかな嘘をついた。
甘くない方もその分、紅茶とミルクの香りが際立って美味いのだし。
「実は甘いものは苦手なんだ」
チトリが笑う。
「ユートったら。……本当にたまに、抜けてるのね」
彼女も多分、“気づいていない”という可愛い嘘で。



