4:2024年 台湾サイン会のお礼SS

シェア・ユートとチトリ

 チトリが気を引かれた顔をしたので二つ買った、タピオカミルクティーなる飲み物をひとくち含んで。

「……ん、」

 懐かしい、と不意にユートは思う。

 たっぷりのミルクと砂糖のまろやかな甘さに、紅茶の香り高さ。子供のころ、母や親族が淹れていたお茶に少し似ている気がする。

 そしてタピオカのもちもち食感は新感覚だ。なるほどこれは楽しいというか人気が出るだろうというか。

 それから。

「チトリ、甘くない方も一口くれないか。代わりにこっちも飲んでみてくれ。……嫌じゃなかったら」

 注文直前でチトリはついカロリーを気にして、甘さ控えめにしたのである。

 これまでユートの周りにいたプロセッサーの少女たちは、なにしろ戦闘による消費分も半端ないのでカロリーとか気にしない。気にする場合も「多いかも」ではなくて「足りないかも」だ。なので、カロリーオーバーを気にして食べたい甘さを我慢してしまうチトリは、ユートにはちょっと新鮮だ。

 ぱっとチトリは顔を輝かせる。

「いいの?」

「ああ」

 とりあえず嫌ではないらしい。いそいそと受け取り、飲んで“やっぱりこっちの方が好き……!”とばかりに幸せいっぱいの顔になったチトリに、ユートは一つささやかな嘘をついた。

 甘くない方もその分、紅茶とミルクの香りが際立って美味いのだし。

「実は甘いものは苦手なんだ」

 チトリが笑う。

「ユートったら。……本当にたまに、抜けてるのね」

 彼女も多分、“気づいていない”という可愛い嘘で。

刊行シリーズ

86―エイティシックス―Ep.14 ―ペイント・イット・ブラック―の書影
86―エイティシックス―Alter.2 ―魔法少女レジーナ☆レーナ~戦え! 銀河航行戦艦サンマグノリア~―の書影
86―エイティシックス―Ep.13 ─ディア・ハンター─の書影
86―エイティシックス―Alter.1 ―死神ときどき青春―の書影
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86―エイティシックス―Ep.12 ねんどろいどヴラディレーナ・ミリーゼ ブラッディレジーナVer.付き特装版の書影
86―エイティシックス―Ep.11 ―ディエス・パシオニス―の書影
86―エイティシックス―Ep.10 ―フラグメンタル・ネオテニー―の書影
86―エイティシックス―Ep.9 ―ヴァルキリィ・ハズ・ランデッド―の書影
86―エイティシックス―Ep.8 ―ガンスモーク・オン・ザ・ウォーター―の書影
86―エイティシックス―Ep.7 ―ミスト―の書影
86―エイティシックス―Ep.6 ―明けねばこそ夜は永く―の書影
86―エイティシックス―Ep.5 ―死よ、驕るなかれ―の書影
86―エイティシックス―Ep.4 ―アンダー・プレッシャー―の書影
86―エイティシックス―Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈下〉の書影
86―エイティシックス―Ep.2 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―〈上〉の書影
86―エイティシックス―の書影