二章 図書委員は仲間を募る ①
──光が差したことを、覚えている。
暗闇の中、息をするだけで。何日
とにかく。その時の自分は息をして、
死なないように。生きるために。──また、知らない
──いや。
進ませろ。行かせろ。見させろ。死んでたまるか。絶対に奪わせない。飢餓にも似た欲を満たさせろ。見たいんだ。行きたいんだ。自分の足で。自分の目で。俺が。俺が。俺が。
俺が。
──でも。誰かに、誰かを。
闇の中で、動くことも出来ず、浅い眠りは痛みで幾度も起こされて。
その、
○
「生き返、った……?」
地下閉架迷宮書庫、エントランス。鼓動と息を取り戻した後輩を前に、
「これが、迷宮書庫の法則。あの場での損傷は、出た時点で治ります。……命ですら」
疑問を深めて、
「んなバカな……」
「この迷宮書庫全体に不思議な、魔法のような力が作用していることは確かです。昔の人々が、何代もかけ、その法則を自分たちに利するように調整したと伝えられています」
皆の持っていた魔書を回収して受付嬢に返しつつ、
「どんな
疑念の視線も、
「アラ
「……連れ帰るだけにしてくださいね」
「やーね、分かってるわよ。一階のソファにでも座らせとくわ。夢だと思うでしょ」
彼は扉を開け、地上への階段へと向かう。
(副委員長の口調とか、色々気になることはあるが、とにかく)
見送ってから、
「だから、人が死んでるのにあんな態度が軽かったのか」
「はい。わたしはこのこと、知ってましたから」
隣に座っていた
「エスキューから、どんくらい聞いたん~?」
(きょ、距離感近いなこの先輩)やや
ふむと
「そうですね。ではこの図書館のことからお話ししましょうか──
「えーと、確か九十万冊……ちょい」
「うん。都立図書館には劣りますが、相当な数ですね。当然学校図書館としては破格もいいところです。生徒数蔵書水準から見ても軽く十倍以上あります」
ちなみに
全国学校図書館協会による学校図書館の蔵書水準では、三学年各十クラス・生徒数約一〇〇〇人である
「ですが、この冊数は今現在図書館に登録されている数だけです」
「この下の分は、入っていない……と?」
「分かりません」
きっぱりと、
「表向きにはこの図書館、地下二階までしか無いことになってるけど、本当はもっとあるの」
「もっとって──何階続いてるんだ、この下」
「分からないの」再び、
「冊数はともかく階数も分からんって……」
「冗談じゃなくてマジで分かんない。カクジツなことは未登録図書の数がたくさんってだけ」
「──ひょっとしたら地上にある本の数よりね」
治る傷、地下の広大さ、
「ここは、なんなんです?」
「
声は、『まっとうな』地下書庫側の扉からした。
扉を開き、入ってきたのは一見十歳ほどにしか見えない外国人の童女だ。──とは言っても、目の前の女性が見た目通りの年ではないことを
「フブル──司書」
この学園図書館の、ただ一人の司書だ。
入学当初の教員紹介でこれでも既婚者子持ち、と聞いて驚いた記憶は
「深遠な地下空間は闇を
……ここより地下にはな『生きた本』がおるのよ」
「……………………………………」
「貴重な本もようけあるもんじゃから、結構外から閲覧依頼が来る。金取って受ける。探索委員が取ってくる。ごほうびやる。これを地下レファレンスと呼ぶ。以上、説明終わり」
「
ちなみにフブル司書、見た目にそぐわないこの口調は、容姿によって損なわれている威厳をどうにか補おうとする涙ぐましい努力であろう──と生徒の中ではもっぱらの評判だ。
「ええ、幸い犠牲者もなく解決しましたが」
「つまり俺や先輩達の変な力はその魔書って本によるモノで」
「あの犬もまた、この書庫に納められた魔書から出てきたモノだと?」
言ってて馬鹿らしいと思うが、紙に変じた犬は確かに己の目で見たことだ。
「ナイス理解~」
「怪物とかが書かれた魔書からはね、ああいうのが『出る』んですよ。倒してページを破ってしまえば、しばらくはなりを潜めます。いずれ切れ端同士がくっついてまた出てきますが。そういった危険な図書を探して、悪さをしないように管理下に置くのも我々の仕事の一つです」
突拍子もない推測を語ったつもりが、感心され
「じゃあその、さっきのページを上持って帰って燃やしたりすれば?」
「『魔書』はね、すごい
「それに意味無いんですよ。この地下書庫から一部だけ持ち出しても、持ち出した部分は消えてしまいます。この地下書庫深くのどこかにある魔書本体をどうにかしない限りは」
「あんなん出しちゃうようなレベルのはこんな浅い層にはないけどね~」
先輩方、立て板に水という感じの説明である。おそらくは新人が来る度に似たようなことを話しているのかもしれない。
「さて。そろそろ説明も
「は~い、せんぱいまたね~」「おっつかれ~」
エスキュナと
「……いきなりこんなことになって驚いてると思うけど……嫌なら断っていいんだからね?」
「え」
どういうことか聞き返す前に、



