二章 図書委員は仲間を募る ②
「おう、邪魔したの」
フブルが最後に声をかける先は受付嬢だ。彼女はやはり無表情に見返して、ひとつ
○
地下から上がってきて。司書室の窓から見える空はもう薄暗い。
(
時計を見て、
「ほれ、突っ立っとらんで座れ座れ」
部屋の主に促され、彼はソファに座る。沈み込む尻に居心地の悪さを感じる前に、机を挟んだ対面のソファに
「んで、お主だけ残した用件じゃが」
床に付かない足をぷらぷらさせる彼女へ、自分から切り出した。
「探索委員、でしたっけ。僕に、それになれと?」
「ひょ」「ふむ」面白げに笑う二人だ。
「一応聞こうかの。
「さっきの。地下で」指を下に向ける。「あんなに色々教えて
先ほど、
「あの一年男子みたいに、一旦死んでから回収した方が、夢のせいにできて面倒がない」
「お、お主中々エグいこと考えるのう」「まあ、効率的ではありますが」
聞いている二人が苦笑する。
「『僕』でも『俺』でも、中身は変わらんようじゃな」
フブルの指摘に
「そんでわざわざ委員長と二人だけ残してお話、っていうなら、それしかないかなって」
続けての言葉にフブルと
「ま、想像通りよ。お主には図書『探索』委員になってもらいたい」
「元よりこうしてお願いするつもりだったんですが、書類の手違いで。勧誘者と新規参加者の名簿を一緒に渡してしまったのです。迷惑をかけました。申し訳ない」
それが回り回って、
「受付嬢はウチの事務員ではなく、地下閉架迷宮書庫側の存在じゃでな。一々細かな確認はしてくれん」
「え、じゃああの人、人間じゃないんですか」
返ってきたのは沈黙だ。少し怖くなったので
「実はおかしいと思ってました。年末くらいにいきなり図書委員になれ、なんて
値踏みするように、二対の目が彼を見ている。
「僕のクラスから一人、図書委員が辞めたからだって聞きました」
当時は特に気にしなかったが、あの地下書庫を見た後では、
「辞めた人は図書探索委員だった……違いますか」
「その通りです。まあ、探索委員への勧誘の方は、
あっさりと、
「単刀直入に言うぞ。お主の経歴は知っておる。現在のことも含めてな」
職業上両親は家を空けることが多く、隣家の
ある頃から、
全く知らない土地で、全く知らない道を見る時、彼の心臓は高鳴った。
あの道はどこへ続いているのだろう。
あの建物の中には何が隠れているのだろう。
母の蔵書から知識をつけ、山岳、谷、様々な極地へと赴くようになった。
地元の山から始まり、国内の難所と言われる山岳を踏破した。その頃には業界の一部で彼は話題となり、親の支援とスポンサーを付けて七大陸最高峰をも複数制した。
当時、十四歳。若き天才冒険家として、彼の将来は順風満帆だった。
次は南極か北極か──そう
全力疾走が出来ず、過度な負荷もかけられない。彼の冒険家としてのキャリアは終わった。
そうして。あれもこれも薄く笑って受け流して。ようやくそれが板に付いたところで。
「……………………そーですか」
「騒動で順序は前後してしまったが、逆に話は早くなったかの。体験はしたな?」
再び黙考で肯定した。フブルはにやと笑って続けた。
「お主は魔書への適性を見せた。魔書は
「
「
視線を、しばし
「さて、では改めてお聞きします。
夕日を背にして、
「
(見透かされてるな~……)
『僕』が『俺』でいられる場所。
全力で動かした体は、今もその熱を保っているかのようで。
「いくらか、もう少し聞かせてもらってからでいいですか?」
やるのならば、まだまだ聞くべきことはある。二人は
○
まずはリーダーで利用者カードのバーコードを読み、その次に本のバーコードを読む。これで貸出は終わりである。延滞している本があったり、貸出冊数を超えていたりした場合アラームが鳴るため、その際は確認を行う。
地下書庫に潜って、翌日の放課後。
図書館管理が電子化された昨今、貸出と返却の業務はそう手間ではない。返却などはPCの画面をキー一つで返却モードに切り替えて、リーダーで本のバーコードを読んでおしまいだ。
(ちょっとした店員気分だよね)
この一連の行程を行わなければエントランスで盗難防止アラームが高らかに鳴り響く、という仕組みである。
貸出返却処理を終えると
「電子化されてない頃は本一冊ごとにカード作って名前書き込んで、ってやってたんですよねー。ここ蔵書何冊あるんだかって話だし、気が遠くなりますねえ」
利用者が途切れたところで、横に座るエスキュナ──本日は同階の当番だ──がこぼす。
何しろ蔵書の数が数である。それら全てにバーコードを貼り付けた上で図書館ソフトに情報を入力しなければならない。夏休みを丸々使い、図書委員だけではなく教員やボランティア有志を募っての人力作戦だったそうだ。ただそのせいで、今でも
「エスキュナさんは結構長いの? 図書委員」
「呼び捨てでいいですって。わたしも去年の編入時からやってますからね」
エスキュナは快活に笑う。中等部の委員参加は少ないが、無くもない。
(留学生結構いるよね、この学校)
彼女とは、昨日以前はあまり話したことはなかったが、流ちょうな日本語を話す。人好きのする笑顔だった。
「せんぱいは昨日と何かテンション違いますねえ」
そして案外に鋭い。
「で、せんぱい、やるんですか?」
「やるって、何を?」
「とぼけちゃって~」うりうり、とエスキュナの細い指が
「一応、やるって返事はしたよ」
「あらあっさり。黙ってるから迷ってるのかと」
「あれこれ条件付けさせてはもらったけどね。……この前みたいなこと、普通は無いんだって?」



