毬井についてのエトセトラ ②
3.
毬井ゆかりを後ろからぎゅっと抱きしめると、シャンプーと
それは彼女のきれい好きを示すものであり、清潔を心がけるのはとてもいいことなのだけど、その根底には自分の
そうすると、彼女はしばらくもじもじしているが、やがてこちらに向き直り、ぎゅっと抱きしめ返してくる。
どうやら、
最初のうちは、「かわいい」と
が、あいにくと、
実をいえば、恥ずかしさは大きいけれど、そちらのほうがありがたかった。
言葉で返されても反応に困る、というのもあるのだが(スーパー系的デザイン、とはなんだろう?)、
ゆかりを全身で抱きしめると、とてもやわらかくて、あたたかくて、いい香りに包まれて、よくぞ女に生まれけり、とか思う。
どちらかが異性だったらこんなこと気軽にできないし、二人とも男だったら──やっぱりできない気がするし。だからあたしは同性の特権を生かし、彼女を思いきり抱きしめて、ふと、彼女も同じように感じてくれているのかと考える。彼女にとっての『あたし』は、はたしてやわらかくて
彼女には、あたしがロボット(スーパー系?)に見えているらしい。
それは、ただそう『見える』というだけでなく、そう『感じられる』ということでもあるだろう。
あたしにはゆかりが『女の子』に見え、だから『女の子』を抱きしめているように感じる。
けれど、ゆかりにはあたしが『ロボット』に見える。
つまり、ゆかりにとってあたしは、ゆかりを抱きしめているモノは、やわらかい『女の子』などではなく、ただただ
一度、聞いたことがある。
彼女にあたしはどう見えるのか。具体的に。
ゆかりは悲しげに笑っただけで、答えてくれなかったけれど、答えられない理由については教えてくれた。小学生のころ、同じように聞かれて答えたことがある、と。
その友人とは、気がつくと
また、図画の授業で友だちの絵を描いたことがあるという。ゆかりの絵は当然ながらロボットを描いたものになり、その絵を目にした友だちは、ゆかりを
その絵には、いったいどのようなものが描かれていたのか。
自分とはまったくかけ離れたものか。
それとも逆に、ロボットの絵でありながら自分だとわかるものだったのか。そしてそれは、こんなにかわいいゆかりのことを本気で嫌いたくなるほどに気持ちの悪いものだったのか──
お願いだから、とゆかりはいった。
どう見えるかなんて聞かないで、と。
それはとっても
いま、あたしはとても
けれども、ゆかりが感じているのは、『硬く』て『強く』て『周辺機器が多そう』な、スーパー系の『ロボット』なのか──?
力をこめると彼女もぎゅっと返してくれて、やっぱり、とあたしは思う。
言葉よりも、こちらがいいと。
彼女がなにを抱きしめて、なにに抱きしめられているのか、あたしにはわからないけれど、それでもこうしていると、彼女がいやがっていないことがわかるから。たとえ彼女の目にあたしがどう見えていようとも、彼女は受け入れて、さらに求めてくれている──それが感じられるから。
だからやっぱり言葉より、抱きしめあうほうがいい。
きっとあたしの気持ちも、伝わっていると思いたい。
4.
毬井ゆかりの
遠くからでははっきり判別できないが、顔を近づけるとわかる。澄んだ
だからきっと、近しい人間に彼女の印象を
毬井ゆかりは紫の目を持っている、と。
まぶしい光が
それはそれで
もしかしてその目のせいで、ゆかりには他人がロボットに見えるのか、などと、子供のようなことを考えたずねたことがある。
ううん、とゆかりは笑って答えた。
確かに珍しいかもしれないけれど、紫色の瞳というのは普通に存在するもので、自分以外にも紫色の目をしたヒトはいるけれど、自分のようにモノが見えたりはしていない、と。
そりゃそうだ。
そもそもの問題は、見え方ではなく感じ方にあるのだという。
めったになかったが、彼女も
「ときどき、考えるんだ。……神さまは、どうしてあたしの見え方に、あたし自身を入れてくれなかったんだろう。『ヒトの形』がロボットに見えるんだったら、あたしの
「ううん。そんなことないよ。ぜんぜん普通だって」
「うん。ありがと。だったらやっぱり、おかしいのは見え方じゃなくて、あたし自身の感じ方、なんだね」
彼女は、自分の
恐れるのは、その瞳に映らないもの。
彼女にとっての『普通』である、『ロボット』として見えない──自分自身の、姿。
気がつくと、あたしは聞いていた。
「ゆかりは、自分の目って、好き?」



