毬井についてのエトセトラ ④
なによりも、ゆかりが天条と仲良くしたがっていたために、
だから基本的に、天条がつっかかってくると周囲は静観するしかない。
ただ、一度だけ、ゆかりが天条のからかいに、むきになっていいかえしたことがある。
それは、天条がこういったときのことだった。
「いいかげん、あなた自分の故郷に帰ったら?」
「故郷って?」
「まりぃ星とかあるんでしょ? あなたの正体は、まりぃ星から来たまりぃ星人、なんでしょう? だったらいつまでも地球にいないで帰ったほうがいいんじゃない? それとも
「あたしは地球人だもん!」
強い
目立つのが
周囲の目も知らぬげに、ゆかりは激しく続けた。
「あ、あたしは、まりぃ星人とかじゃないもん! ちゃんと地球で生まれた、地球人で、日本人で──」
「……あたしは、別に」
「──もういいかげんにしろ。よそのクラスまでやってきて、
口を
──それを思わず追いかけたのは、胸の中に
日ごろぶすっとしていて感情をうまく
天条は、あたしが追ってくるのに気づいていたのか、
あたしが問いかけるよりも先に、天条は、いった。
「……あなた、
そういう質問が出るということは、天条も知っているわけか。
なんとなく、そうだろうとは思っていた。天条のからかい方には、それを
だったら想像できるはずだ。それがいったいどれくらい、孤独な風景なのか。
天条に向かっていいかえした、ゆかりのせりふに、人間、という言葉はなかった。
地球人、日本人、とは主張できても、人間、とはいわなかった。
きっと、いえなかったのだ。心のなにかがブレーキをかけて。
自分と『同じ姿』を、見つけられないゆかりだからこそ──
またも怒りがこみ上げてきて、かえって頭が冷えてきて、あたしは天条の問いにゆっくりうなずき、答えた。
「ええ。知っている。ゆかりには他人がどう見えているか……あんたこそ、知っているんだ。なのによくもいえたわね? あんなこと──」
天条が浮かべたいやな笑顔に、あたしは言葉をとめた。
天条はなにかを
「そうよ? あたしも知っているわよ? あいつのことは。たぶん、きっと、あなたより──ていうか、あなたのほうこそ本当には、わかっていない。あいつのことを」
「どういう意味?」
「知りたいの? あいつの友だちを続けたいのなら、知らないほうがいいと思うけど?」
「なにを──」
天条が口を開くより先に、ガクちゃん! と呼ぶ声が、廊下から聞こえてきた。
あたしがいないのに気がついたのだろう、ゆかりが、追いかけてきたのだ。
ちなみにあたしの家はなぎなた道場を開いていて、あたし自身もそれなりにやる(そのわりに
だからゆかりは、あたしが
息せき切った、あわてたようなゆかりの姿に、天条は、激しく顔をゆがめた。
その
けれどもいま、ゆかりを見る天条の顔に浮かんでいるものは、
少なくともいまこの瞬間、彼女は本気でゆかりのことを、
「……あ、あの、テンちゃん……」
ゆかりに声をかけられて、天条は、しばらく表現しがたい目つきをしていたが、やがて、かすかに頭を動かした。
もしかして頭を下げている? さっきのことを
「……あたしは、あなたを、許す気も、認める気も、ないから」
それだけ
「ちょっと、天条!」
怒りが
が、ゆかりにとめられた。
「やめて、ガクちゃん。……いいの。あのね、あたし、テンちゃんに嫌われても、しかたないことをしちゃったから、──だから、いいの。お願い、怒らないで──」
天条は一瞬振り向きかけたが、そのまま立ち去っていった。
それを見送って、あたしはゆかりに確認する。
「あいつ、やっぱり、ゆかりの昔からの知り合いなわけね? ゆかりの、見え方のことも知っているのね?」
「うん。あたしの、いちばんの」
「でもいまはもう、友だちじゃない」
「わ、そんなことないよ! あたしはいまでもお友だちだって思っているし、……できれば、ガクちゃんにも、仲良くしてほしい──」
「あたしは無理。あんなやつ、絶対お
「……そんなこと、いわないでよう……」
あたしがゆかりのなにを知らないって?
まぁ、確かに短い付き合い、まだまだ知らないことのほうが多いというのは認めるけれど、でも、いちばん
普通と
──あんたとゆかりの間になにがあったか知らないが、あんな言葉に、負けたりはしない。
その日以降も、
が、対象があたしにまで
というか、あたし自身が積極的に、参加するようになった。
ときにはゆかり抜きで直接対決することも──というか最近はそちらのほうが多くなってしまったけれど──
ゆかりの秘密を言いふらさない態度は認めてやるけれど、それ以外では、
それがあたしと、天条
7.
重ね重ね申しわけないとは思うが、毬井ゆかりは他人がロボットに見える。
そのせいかどうかは知らないが、彼女はロボットが大好きで、趣味はプラモデルを組み立てることだった。
ロボットならまずえり好みなく、というか戦車だろうがお城だろうが、プラモデルならなんでもいいらしい。というかプラスチックのモデルでなくてもいいらしい。
ゆかりの家はちょっとした庭付き



