毬井についてのエトセトラ ⑦
性格も──実はよく知らなくて、印象も、あいつってすごい糸目だなぁというぐらいしかないのだけれど、つまりそれほど
人間は
「……か、加則が? あの加則? ……あんな特徴のないやつの、……どこが?」
ゆかりはしばらく
「……あのね、『ドリルは
「……は?」
「
あたしは、こちらに背を向け昼食を取っている加則をにらみつけてみたが、当然ながら、ドリルなんてものは見当たらない。
「……よくわからないけど、……それって、あいつは危ないやつってことじゃない? ドリルって、
「わ。それ誤解。ドリルはもともと
……なんですか。ロマンって。
ほんのりとほおを赤らめたまま、ゆかりは続ける。
「ほかにもね、ドリル持っている人いるんだけれど、やっぱり、加則くんのがいちばんかな。生徒会長さんのもなかなか惜しいけど──」
「生徒会長? あの人も持ってるの? 会長女性なのに? オトコのロマンを?」
「うん。会長さんのは加則くんと逆で、いつも回転しているんだけど、すごく回転が速いから、まるで止まっているみたいなの。
「…………ちなみに、あたしは? なんかそういうのって、ある?」
自分のことを聞くのは禁止していたのだが、気がつくと聞いてしまっていて、話の流れのせいか、ゆかりもあっさり答えた。
「ガクちゃんはドリルは持ってないけれど、
「は、はんよう?」
「うん。ガクちゃんはすごい
「ああ、ごめん」
換装システム、汎用性──聞きなれない単語であったにもかかわらず、彼女の言葉は驚くほどに、すとんと胸に落ちていた。
なるほど、確かにあたしがロボットだったらそういうものになるかもしれないと、
なんだか自分の知らない自分を、ずばりと当てられた気がする。
──これが彼女の『見え方』なのか。
「…………ちなみに換装っていうのは、ドリルもつけられるってこと?」
「わ。ガクちゃんもロマンを感じた?」
「……いや、べつに、聞いてみただけ……」
──
◆
──それは、通称『東京バラバラ殺人』と呼ばれて
その日は、ゆかりの家族が小学校の親子キャンプでいないということで、あたしはゆかりの家に、泊まりがけで遊びにいっていた。
泊まりっこ自体はよくやるのだが、あたしの家は道場がうるさく、ゆかりの家はお姉さん離れのできていない弟と妹がやかましい。
その弟妹がいないということで、二人だけでゆっくりできる、と楽しみにしていたのだが、ゆかりは昼にあたしがたずねたときからずっと、落ち着きがなかった。
『東京バラバラ殺人』容疑者
そして、ゆかりは食い入るように、そのニュースを見ていた。
話しかけても
ニュースが終わるとチャンネルを変え、他の局が事件の報道をしていないか
テレビではもうやっていないのを確認すると、今度は新聞を広げ、逮捕された容疑者の写真を穴が開くほど見つめている。
そのどこか
やがて。
「……ちょっと、ごめん」
ゆかりはあたしに
子機を持ち庭に下りたのは、あたしに聞かせたくなかったからか。
あたしは
「もしもし……はい、
ぎょっとして
ゆかりはすでに電話を切っていて、あたしの視線に気づき、力のない
「……ごめん。ガクちゃん。あのね、夜に、人が来ることになっちゃった」
実際には夜を待たず、夕方に、その客は、おとずれた。
紹介される前から、なんとなく、二人が
庭から
きっと、気がついたのだろう──意識してか無意識か、あたしに
中年がいった。
「いいのか?」
はっとしたゆかりがあたしから離れ、答える前に、あたしはうなずき、さらにゆかりと腕を組み、離れるつもりのないことを示す。
わずかに
縁側の前に立ち、しかし家には上がってこようとせず、話し出す。
「……では、手早くすませよう。
中年の視線を受けて、青年がブリーフケースから
あたしに向かって、いいながら。
「……きみは、見ないほうがいい」
封筒から現れたのは、たくさんの、赤色が
──血の赤と、肉の断面の赤。
──濃く、薄く、変色した
ちらっと見ただけで、わかった。
──殺人現場の、写真。
きっと、あの、『東京バラバラ殺人』の、映画とかの
急いで顔をそらしたとたん、目の前が暗くなり、自分が貧血を起こしかけているのに気づく。
ゆかりは、組むというよりしがみつくようにあたしの腕を取り、手に持った写真を見ていた。



