第一章「王都デメララ」 ⑤

さま! 乗馬鞭は短銃と同じ我らセックのあかしだぞ! 貴様らのようなせんな生き物にで触れるなど虫むしずが走る!」

「よせ!」


 カルタは、その若者を制すると、手に持った乗馬鞭のストラップを外して、腰に挟んだ。

 そのぐさを見たパッサーズの若者が目を見開いた。


そうちよう!」


 カルタは静かに言った。


「お前らもものは使うな。デミセックごときに得物を使ったのでは、まつだいまでのはじだ!」


 パッサーズの若者たちは、不満そうな表情を浮かべて、乗馬鞭を外して腰に挟んだ。

 ケリンは、ちょっと意外そうな顔をして言った。


「へえ、はらぐろいセックにしちゃあめずらしいな、お前……」


 カルタは顔の前で握り拳を固めると、にやっと笑った。


「お前もデミセックにしてはいさぎよいな……」


 カルタとケリンがにらみ合ったそのとき。


「おい! 先ほどの銃声は何だ!」


 わいのわいの言っているうまをかきわけて、青い制服を着た警備隊ガーデイアンがやってきた。

 制服の下にアーマーを着込んだ、いかつい体つきの警備隊員の姿を見て、パッサーズとマイヤーズの両方のれんちゆうも静かになった。

 いしだたみの上に倒れ込んでぜつしている上級士族セツク息子むすこらしい若者と、その仲間たち。

 そしてその反対側には不敵なつらがまえの見るからにワルそうなあかの若者と、その仲間らしい下働きの連中。というセットを見た警備隊の十人隊長らしい中年の男は、ため息をついた。

 ……また、パッサーズとマイヤーズのゴタゴタか……馬鹿者どもめが。

 パッサーズとマイヤーズとは、このおうデメララを二分する二つの不良少年グループの名前だった。

 上級士族やゆうふくな商人の子弟を中心に結成されたパッサーズと、下級士族デミセツクや平民を中心に結成されたマイヤーズは、常にはんもくし合っておりけんやトラブルが絶えないのだ。

 十人隊長はケリンをにらみつけて言った。


「ケリン・ミルダモン! またお前か! こんどは何をやった!」


 ケリンは肩をすくめて、足元に転がってる長髪の若者を指差して答えた。


「こいつが、田舎いなかむすめだまくらかして、ランバリオン通りのうらみせに連れていこうとしていたのをやめさせただけだ。ウソだと思うなら、そこにいる……」


 そう言いながらうまの中を指差したケリンは、げんな顔になった。


「あれ? あの田舎娘は?」


 指差された野次馬どもも、互いに顔を見合わせた。


「あれ、そういえば、あの田舎くさい姉ちゃんは?」

「さっきまで、そこにおましたで、どこいったんやろ?」


 女の子の姿は、いつの間にか消えていた。

 警備隊ガーデイアンの十人隊長は、部下が助け起こした上級士族セツクの子弟らしい若者を見て、驚いた。

 ……誰かと思ったら、俺たちおう警備隊のそうもとめ、警備隊そうかんのエタノ・カストリ様のむす、アルテンだ! こりゃあえらいことになるぞ。

 十人隊長は、アルテンを、りよういんに運ぶように部下に指示したあとで、ケリンに向き直った。


「ケリン・ミルダモン、お前を西にしぶんしよまで同行する!」

「ああ、いいぜ、どこにでも行ってやる」


 ケリンは胸を張って答えながら考えた。

 ……俺は悪くない。田舎娘をたぶらかして、づかい稼ぎをやっていたこいつらが悪い。ましてや街中で短銃なんか抜きやがって。ちようじゆうで一発あてを食らわしただけで終わらせたんだ、められたっていいはずだ。

 警備隊の隊員に左右から挟まれて、詰め所に向かいながら、ケリンは、散り始めた野次馬の方を振り返った。

 ……それにしても、あの田舎娘はどこに行ったんだ? まあ、インダストリアン・ギルドに問い合わせてもらえば、すぐに身元がわかるだろうからいいか。どうせ、いつものように親父おやじに一発なぐられて、ごと食らって終わりだろう。

 そんな風に軽く考えながら、警備隊の十人隊長のあとにくっついて歩き出したケリンは、このとき、このけんが、パッサーズとマイヤーズという不良少年グループ同士の騒ぎで収まらず、王都を巻き込んだおおさわぎになるとは、考えてもいなかった。

刊行シリーズ

ガンズ・ハート5 硝煙の鎮魂歌の書影
ガンズ・ハート4 硝煙の彼方の書影
ガンズ・ハート3 硝煙の栄光の書影
ガンズ・ハート2 硝煙の女神の書影
ガンズ・ハート 硝煙の誇りの書影