給食争奪戦 ③
「テッちゃん、聞いてる?」
マコトが自由帳を開いて、俺のことを見ていた。《白紙の冒険》の最中だった。
白紙の冒険は、真っ白な自由帳のなかで展開される冒険ゲームだ。主人公も、武器も、アイテムも、ダンジョンも、モンスターも、
最初は
俺はいつのまにか夢中になり、マコトが続きのダンジョンを書き進めるのを心待ちにするようになった。ゲームが進むとともに、マコトの口数も
人を見かけで判断してはいけないのだなあ、とつくづく思う。実際に話してみるまで、マコトがこんなに面白いヤツだったなんて知らなかったのだから。
その日、オレンジゼリーを
「ヤッチ、ホウレン草が苦手だったらしいよ。知ってた?」
マコトが
ヤッチが得意であるはずの《パンの日》に早食い競争でボロ負けしたので、同じ班の女子が体調でも悪いのかと
俺はホッとしていた。何も知らないマコトの反応から見ても、どうやら不自然さはなかったようだ。これだけ話題になれば、確実にダイキの耳にも届いているだろう。
数時間前、理科室で俺はヤッチに、今日のオレンジゼリーを
「ちょっと待って」マコトが
俺は心の中で「知ってる」と答えた。だから、ホウレン草を選んだのだ。また給食にホウレン草が出ることは、いずれダイキも気づく。ずる
一班のほうに目を向けると、二個目のオレンジゼリーを満足気に口へ運ぶダイキの姿が見えた。せいぜい味わって食べるといい。そのオレンジゼリーと
ヤッチのおかげで、計画の第一段階は無事に終わった。
次の日は、朝から雪が降っていた。雪は
一時間目の国語の時間には、音読のトップバッターに選ばれた。やはり、運が悪い。
五年二組では、授業で当たる人をクジ引きで決めるのだ。先生お手製のクジで、ちょうど黒板消しクリーナーと同じくらいの箱に、クラス全員のネームプレートが入れられている。そのクジは便利なので、授業以外でも何かを決めるときに使われていた。
結局、一時間目の国語から四時間目の社会まで、合計六回も当てられた。一日に一度も当たらない日もあるのだから、やっぱり今日はツイていないらしい。
「今日はテッちゃん、よく当てられてたね」
給食の準備が進められるなか、マコトが机をくっつけながら笑っていた。「何か悪いことでもしたんじゃないの」と、からかってくる。俺は適当に返しながら、黒板横の
給食の準備が整った。今日のデザートはシューアイス。冬限定の人気メニューだった。
ダイキは今日も競争に勝つために、ライバルであるヤッチの給食を大盛りにしただろうか。そんなことを考えていると、
「《いただきます》の前に、みんな、ちょっと聞いてくれー」
先生の呼びかけに、それまでざわついていた教室内が
先生は
「デザートを
突然の禁止令に、教室中から
先生は
要は、早食い競争で事故が起こったら大変だから、ということだった。過去に別の学校で、給食のパンを
「本来はもっと早く禁止すべきだったんだろうけど、それは先生が悪かった。でも命に
先生の話に、クラスメイトのほとんどが
田中先生は
「よし、分かったら、みんな手を出せー。デザート
先生は早食い競争の代わりに、クラス全員が参加するジャンケン大会をすると話した。
説明を聞いて、男子だけじゃなく、女子のテンションも上がっているような気がした。これまでデザートの権利は男子が(ほとんどはダイキが)
「ジャーン、ケーン、ポン」
結局、今日のシューアイスを手にしたのは、
その様子を一班のダイキが冷たい目で見ていることに、俺は気づいていた。昨日までデザートを独占していたダイキにとって、これは
「テッちゃん、残念だったね」
マコトがスパゲティをモグモグしながら、話しかけてきた。シューアイスのことではなく、《早食い競争》がなくなってしまったことについて言っているのだろう。
「せっかくやる気になってたのに、ツイてないね」
「別に、仕方ないさ」
俺は軽い調子で答えた。早食い競争がなくなってしまっても、俺は冷静だった。それはそうだろう。禁止になるように仕向けたのは、自分なのだから。
昨日の放課後、俺は職員室に行った。
職員室には先生だけではなく子どもが入る機会も多いため、堂々としていれば
手紙の内容は、早食い競争は危険だと親が言っていたという話と、今のシステムだと女子がデザートをゲットできないという話。できれば、先生に



