給食争奪戦 ⑨
「まさか、ヤッチが勝負の最中に、ホウレン草が苦手なふりをするなんて思ってなかったからさ。本当に負けちゃうんじゃないかって、冷や冷やしたよ」
おかげで、自然なカタチで勝つことが出来たけれど。おそらく対戦したダイキも、あれが演技だったなんて、夢にも思っていないに
すると、ヤッチが言いにくそうに
「実はあれ、ふりじゃない」
「え?」
「おれ、本当にホウレン草、
俺は
聞けば、俺がホウレン草を嫌いなふりをするように
それでも勝ってしまうのだから、やっぱりヤッチは不思議なヤツなのだった。
ヤッチと別れた後、校門のところで、サワコが俺のことを待っていた。
寒そうに両手に息を
「もう、
待ち合わせをしていたわけではないのに、少し
家が同じ方向だから前にも一緒に帰ったことはあるのに、なぜだか
すると、先にサワコが口を開いた。
「今日のヤッチ、
俺は「そうだな」とぶっきらぼうに答えた。サワコはそんな俺を気にする様子もなく、今日の《一騎打ち》について感想を述べてきた。俺はそれをぼんやりと聞いていた。
「先生に手紙送ったの、また
「そうだよ。ダイキにズルされないようにな」
「やっぱり。そうなんじゃないかって思った」
サワコはどこか
「鉄、明日のバレンタイン、驚くことがあるかもよ。楽しみにしてて」
そしてそのまま、「じゃ、また明日」と言うと、さっさと行ってしまった。
俺は曲がり角に、ひとり取り残された。なんだよ、驚くことって。そう思いながらも、バレンタインに驚くことといったら一つしかない。俺は思わず、顔がほころんだ。
帰り道、
気になったけれど、俺から声をかけるのも
翌日、二月十四日。バレンタインデー。ついに、この日がやってきた。
ダイキへの《リベンジ》を決意して
ここまでは順調に来ている。ヤッチとの勝負で、ダイキは自分のケーキを失っていた。あとは欠席者のケーキを俺がゲットすれば、ダイキへの《リベンジ》は完成だった。
このままだと、ダイキは人気ナンバーワンメニューを一人だけ食べることができない。
その不安から、ダイキは朝から
だが、そうはいかない。《クジの箱》を使った作戦は万全だった。
今日の欠席者は、もう長いこと学校に来ていない
ただひとつ、わずかに《不安要素》があるとすればマコトだ。
先週、ケンカ別れをした際に、自分がケーキをゲットするとか言っていた。弱虫のマコトに横取りされる心配などしていなかったが、計画を台無しにされる可能性はあった。
だから、念のため
あとは、協力者であるマサオを取り込めば
俺はマサオを呼び出すために、手紙を送っておいた。
四時間目の体育が終わり、先生と
俺はマサオと二人、体育館倉庫に残っていた。
漢字テストの答案を書き直していた件を持ち出して、手紙で呼び出していたのだ。
「何の用だよ」と、マサオがふてくされたように
「あまり時間がないから、
俺は《クジの箱》を使った作戦を、マサオに手短に説明した。
「やってくれるよな?」
マサオはなかなか答えようとしなかった。でも、
すると
意味が分からない───どうして?
そこには、ダイキが立っていた。ヒロシとヤマダもいる。
なんで?
「最初から外で聞いてた。全部、お前の
ダイキが
そんなに痛みを感じていないのに、足がガクガク
「震えてんじゃねーよ」
今度は、ローキックを食らった。痛い。
ダイキは
「お前が《ジャンヌ・ダルク》だったんだな。見つけるの苦労したぞ、この
いつもの冷静なダイキではなかった。完全にブチ切れている。
「こっちは昨日、先生のところに行って手紙を手に入れてたんだよ。そして犯人
ダイキは手紙を
なんで、お前が、これを───思っても、声が出ない。
「お前、バカだな。マサオが書き直してたテストは、俺のだよ。俺が命令したの」
ダイキに言われて、ようやく自分のミスに気がついた。
あのとき、マサオは自分の答案ではなく、ダイキの答案を書き直していたのだ。
マサオを呼び出した手紙が、ダイキの手元にあるのも当然だ。
最初からつながっていたのである。
「お前、自分が何したか、分かってんの? タダで済むと思うなよ」
ダイキに
ヒロシとヤマダがニヤニヤしながら、にじり寄ってくる。二人とも
ああ、
「やめろ!」
目を開くと、マサオが押さえる
マコトは体育館倉庫に入ってくると、そのまま、俺とダイキたちの間に割って入った。
そして、今にも消え入りそうな声で言った。
「暴力、反対」
声が
気づけば、俺は泣いていた。それまで
「うわ、コイツ泣いてるよ」と、ヒロシがバカにするように言った。
ダイキはそれを無視して、乱入してきたマコトのことを
「



