第三種接近遭遇 ⑨
「そんなのいつものことじゃん。でもさあ、戦争なんてほんとは起こらないんだとしたらおれらみんなバカみたいだよな。学校にまでシェルターこさえちゃってさ、月に一度の
「浅羽」
浅羽と西久保と花村が同時に顔を上げた。
「ちょっと」
それだけ言って、晶穂は浅羽を自分の机の方へ引っぱっていった。このクラスでは
「なんで今日遅刻したのよ」
「してないよ。ぎりぎりセーフだ」
「
そう言って、晶穂は自分の
「なにこれ」
「ちょ、ここで見なくてもいいでしょ? 早くどっかにしまいなさいよ」
夏休みの宿題のゼロックスコピーだった。
「──高くつきそうだな、これ」
「当然でしょ。わかってるとおもうけど、答え丸写しするような
「あの、」
礼を言おうとした
「──そうだ」
そのとき、浅羽は大事なことを思い出した。
晶穂に聞かなければならないことがあったのだ。
「なに」
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「だからなによ」
「ちょっと変なこと聞くけどさ、うちの学校の女子のスクール水着って、」
晶穂の
「こう、肩ひもっていうのかな、このへんの
「やけに詳しいじゃない。なんで知ってるのよそんなこと」
晶穂は浅羽の顔をじっとにらんで、
「あんたまさか、プールの授業のぞいたりしてたんじゃ──」
「違うって。市営プール行けば学校の水着で泳いでる子なんかいくらでもいるだろ?」
晶穂は
「で?」
「それと名札がついてるよね、胸と背中に。
「どういうこと?」
「だからつまり、マジックテープとかホックとかで留めてあるだけで、外そうと思えばすぐに外せるのか、それとも
晶穂は少し考えて、
「普通は、縫いつけてあると思うけど。あんなの外せたってしょうがないし。なんでそんなこと聞くの?」
意味のある結論は、何ひとつ
あの女の子は自分と同じくらいの
はっきりしたことは何も言えない。
「──ありがとう」
そのとき、時計塔の
「──ありがとう」
宿題のコピーに対してではなく、質問に答えてくれたことに礼を言って、
机の一点を見つめてひとり、浅羽は思う。
あの女の子は、一体、
──君がまず先に出てくれ。外にいる連中は、何も危害は加えない。
プールに現れた
そして自分は、その言葉に従った。
あのときの異常な雰囲気とか不安とか恐怖とか、今はまだそういうものが頭の中に残っているからいい。しかし、そんなものは時間とともに
だが、それはひとまずさて置く。
自分は、あの女の子を男と一緒にプールサイドに残して、更衣室から外に出たのだ。
それが事実だ。
外には白い大型のバンが止まっており、黒服の男たちがいた。バンは五台や六台はあったように思うし、黒服の男たちも十人や二十人はいたような気がする。そのうちのひとりが近寄ってきて、もしよければ家の近くまで車で送る、と言った。丁寧な言葉づかいだった。何も説明できないことについては申し訳なく思うが、自分たちとしてはあなたにできるだけ早くこの場から立ち去ってもらいたい、そのためには車で送らせてもらえれば都合がいいのだ、と。
自分は、黒服のその言葉にも従った。
ビデオ屋に自転車を止めてあることなど、あのときは忘れていた。
促されるままに近くに止まっていたバンの一台に乗り込んだ。バッグを抱えて、
そこでいきなり
一体何が起こったのか、まったくわからない。
気がついたら、家のすぐ近くのバス停のベンチにひとりで座っていた。ちゃんと服も着ていたし、ビデオ屋に止めておいたはずの自転車がすぐそばにあって、ベンチの足にチェーンロックでつないであった。バス停の時計は、夜中の二時十分を指していた。
今でこそ冷静に思い出すこともできるが、あのときには怖すぎて涙が出た。
思い知った。冗談ごとではなかった。
怖すぎて、チェーンロックの
死にもの狂いでペダルを踏んで家に逃げ帰った。
本当に、笑っていられない恐ろしさだった。
「──ちょっと! あんたたち早く席に着きなさいよ!」
級長の
「ったく、うっせえんだよあいつ」
「世が世なら真っ先に『御国のために』とか言い出すタイプだよな」
机の一点を見つめて思う。
実は、ゆうべの出来事はすべて夢だったのではないか。
正直なところ、そんな気も少しする。なにしろすべてがあまりにも
もし誰かにそんな話をされたら、自分だって信じないと思う。
第一、穴の開いている記憶に



