分析1 ラブレターを分析する ⑧

Wilhelm :あなたの妹さんは、自分に送られたラブレターをあなたの下駄箱に置いたんですよ

トキオ  :突拍子もない感じがします

Wilhelm :そうですね、こんな感じでしょうか?

Wilhelm :だれかからラブレターをもらった、なんとか断ろうとは思うけれど直接は言いにくい、じゃあどうしよう。彼氏でもいれば話は早いが実際にはいない、それなら見せかければいい。兄を利用して。

Wilhelm :たぶん四階のどこかが本当の呼び出し先だったんでしょう。手紙を改ざんして呼び出し先を屋上に指定し直し、一年生の教室のある四階を通るルートに誘導する。あなたを連れていき、そして、あなたの彼女のように振る舞いながらその目前を通過する……彼氏がいると誤認させて、そうしてなんとか相手に告白をあきらめてもらう。そういう計画だったのではないかと。わざわざ腕に抱きついたのは、屋上までのルートを操作するためでしょうね。

Wilhelm :封筒と便びんせんの折れ目が一致しなかったのは、封筒だけ後から用意したものだから

Wilhelm :宛名の方にフルネームが書かれていたのかもしれません、だから転用できなかった

Wilhelm :改ざん、そして新しい封筒の用意。朝のうちにはできなかったから、あなた宛てのラブレターは放課後に届いた

Wilhelm :書かれた時間と送られた時間、封筒と便箋の違和感、書き手と送り手の違和感

Wilhelm :これで説明がつくかと思います

トキオ  :どうして妹はわざわざそんなことを? 普通に断れば良かったのに

Wilhelm :できなかったんじゃないでしょうか

Wilhelm :うまく話す自信がなくて、傷つけることが怖くて

トキオ  :じゃあ、あの場ではテルが真実を伏せたのは

Wilhelm :何かしら感じ取ったんでしょう

Wilhelm :妹さんが本当に困っていること、他に好きな人がいること

Wilhelm :だからテルが選んだのは、もくにんという答えだった

トキオ  :さすがですね、ヴィルヘルム

Wilhelm :初歩的なことだよ──なんてね

トキオ  :最後に一つ、いいですか

Wilhelm :はい

トキオ  :あれが妹の企てだというのなら、結局、となりの校舎の屋上からこちらを見ていたという連中は何だったんでしょう?

Wilhelm :ああ、それ……

Wilhelm :ちょっと言いづらいんですけど

Wilhelm :今日は風が強く吹いていましたよね

トキオ  :はい

Wilhelm :強風、屋上、女子生徒。そして短めのスカート……

Wilhelm :ちらちら見てくる人がいたって、おかしくはないと思います

トキオ  :ああ、そういうこと

Wilhelm :たとえ相手が傷つくことになっても

Wilhelm :はっきり言ってあげた方が良い場合もあると思います

Wilhelm :以上、ヴィルヘルムでした!

Wilhelm :夕食の時間なので落ちますね

Wilhelm :ではまた

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