分析2 ドネーションを分析する ①
休みの日は何をしてるの?
そんな質問をされても困る。
休みの日は休んでる、休みじゃない日にはしないようなことをしてる……これくらいあいまいな答えで納得してもらえるならまだしも、普通はそれじゃあ満足してもらえない。
休日は図書館で勉強もしくはギターかサイクリングかな、なーんて自信をもって答えられるなら面目も保てるが
というわけで、最善の対処はそんな質問をしない、されないように心掛けることだと、俺はそう思うわけだ。
『なるほど、よくわかった。で、カモトキくん、いま何をしてるの?』
ケイタイの向こうからテルの声がする。
聞き取りやすく張りのある声で俺の現状を問う。
今日は土曜日、授業もなければ部活動もないはずだ。現状を正しく部長に報告する義務はないものと判断します。いまは駅前で、呼び出しがかかればすぐにでも行けるほど暇だけど、休暇を満足に過ごしたいので適当なこと言ってごまかそう。
「いまなー、ちょっと言葉にはしづらいんだけどすげー忙しい状況にいるんだ。悪いな、話があるなら月曜日にしよう、ちゃんと部室に行くから、な」
『忙しいって、休みの日はゲームセンターに行くくらいしかやることないだろ、君は』
「なっ!? なぜ知っている!! キサマ、俺のトップシークレットを!」
『別に隠すことでもないよ、毎週土曜日は欠かさずゲーセンで格ゲーに興じていることくらい』
「う、噓だ! ゲームに興じている姿をお前に見られたことはないはずだ!」
『ランキング一位を狙ってがんばってるんだよな、お疲れさん』
「そんなことまで!」
『どうしても一位が取りたいから、わざわざ駅前にある店とは違うさびれた店に通っているんだろう、客が少なくて競争が激しくなさそうな場所に……努力家だねぇ。ぷっ』
「やめろ! やめてくれ!」
『しかもオンライン
「やめてあげてくれ!」
『ちなみにその記録を毎週日曜日に塗り替えているのは私だ』
「陰気なマネすんなよ!」
なんでだよ!
他人の秘密を知ったら口を閉ざすくらいの優しさは持ち合わせていないのかよ!
なんで積極的に介入して俺の密かな喜びを否定してまわってるんだよ!
『休日は何してるんですか~って女の子に聞かれたらゲーセンでプライドを積み上げて遊んでるって答えるのかい、カモトキくん』
「休日は何してるんですか~って男の子に聞かれたらゲーセンで知り合いのプライドを砕いてるって答えるのかよ、お前は」
人のことを言えないくらい、っていうか俺とは比べものにならないくらいひどい
『冗談はさておき、つまりいまそのゲーセンにいるの?』
「いいや、もう飽きて帰るところ。駅前で何か食っていこうかと思ってる」
『駅前にいるのか! ちょうどいい、私も近くにいるんだ、落ち合おうよ!』
「おお、いいぞ」
バレちまったからには仕方ない。暇と自覚して行けるとわかって誘いを断るほどに、人の痛みに鈍感な男じゃないぜ、俺は。
『目印は……そうだな……募金活動をしている子が見えるか』
募金活動?
あれか、募金箱を持ちながら道行く人に「ご協力おねがいしまーす」って言いまくるあれのことか。やったことがないので確証はないが、あれってかなり恥ずかしい思いをしそうだなと勝手に思っていることはナイショだ。
「んー……ああ、見える。ピンク色のカーディガンの?」
『そうそう、ゆるふわモテカワ愛され系おしゃれコーデに身を包んだイマドキのヤング』
「おう、後ろ姿が見えるぜ。ちょっと
『それが私だ』
「お前かよ!」
なんでだよ!
もうどこからツッコむべきかわかんねーよ!
ゆるふわモテカワ愛され系おしゃれコーデに身を包んだイマドキのヤングが振り返ってこちらに手を振っている。どうやら俺の現在地を知られたらしい。あの顔、あのまっしろい肌、そしてあの
「カモトキくーん! こっちこっち! ははははは!」
人目をはばからず自由気ままに、テルは笑って腕を振る。
なんだろう、すげー他人のふりしたい。
テルと休日に会うことは決して珍しくはないのだけど、今日みたいな格好ははじめて見た。いつもはあの
今日のゆるふわモテカワなんとかな服装はたしかに
「フフ、私だとわからなかった?」
「ニット帽をかぶっていてくれればわかったかもな」
「普段の装いにトレードマークがあるといざ変装するときに見破られづらくなる、という分析は正しかったようだ」
そう言ってテルは、どこに隠していたのかニット帽を取り出して深くかぶった。え、どこに隠してあった? え?
つーかなぜ変装の必要があったんだ、そしてなぜいま変装を解いたんだ。
ダメだ、ツッコミどころばかり頭に浮かんでくる。これをツッコミで済ますか分析をはじめるかが俺とテルの差なんだろうな。そして何も疑わずに信じちゃうのがうちの妹なんだなと思うとちょっと泣ける。
「それにしてもカモトキくん、私服ダサいな! チェック柄は似合わないからやめとけって、あんなに言ったのに!」
「余計なお世話だ」
チ、チェック柄は
それにしても失礼なヤツだ。テルはお外でも学校で会うときとまったく変わらないハイテンション。服が変わってもテルはテル。口を開けばそれだけで、張りのある声と
知り合いと思われることを我慢していざ近寄ってみると、募金活動の内容も見えてきた。
テルは募金箱をヒモで首にぶらさげている。ボックス型の透明な貯金箱には赤く「募金」と書かれていて、いかにもお手製の簡易な感じが見え見えだ。それ、
そして、縦長のベニヤ板にポスターを張り付けて立て看板にしている。テルの胸元ほどの高さだから、一メートル三十センチくらいはあるのかな? ポスターに書かれているのは、難しい漢字だらけの長ったらしい病名のロゴと、
「なんで募金活動なんてしてるんだ?」
「もちろん、分析調査のためだよ」
「手術費のためって立て看板に書いてるじゃないか。知り合いが大病でも患ったのか」
「そうなんだ、見てくれ、その写真を」
白い部屋、白いベッドに白い布団。
そこに横たわるうら若き乙女の姿はなんとも
「ああ、かわいそうに。ベッドに横たわりながらも……こんなにきりっとした表情で、って俺の妹じゃねーかテルゥゥゥゥゥゥ!!」
「あっ公共の場ではやめろいひひひひひひ!!」
後ろから抱きついて脇をくすぐってやったらゆるふわなんとか衣装が乱れまくってしまったが気にしない。人様の妹で遊びやがって、絶対に許さんぞ、こいつめ。
「あっひゃっそこはダメだってそこはひひひひひ!!」
テルの胴体を俺の指がぐにぐにと
「ダ、ダメ、うひ、ひひい」
「何がダメだ悪党め、神妙におなわをちょうだいしろ」
「ち、ふひひひ違うんだよ! トミノちゃんが自分から言い出したんだよ!」
「なんだと、架空の病人を名乗って金を集めたいと、俺の妹が言い出したのか」
「それは私が提案したのだがあはははははははやめろォ!」
天に代わり俺が裁いてくれる、この悪人め。
人を傷つけて手に入れた銭は何色に
「ひゃっあっひひっセツふふっするって! ちゃんとセツっメイするってっへへへへ!!」



