としれじぇ ジャンル《都市伝説》 ②
ゴロリと
ベッドに腰をかけたムー。そのベッドの下には、当然ながらムーの二本の足が見える。
だが、彼の
──なんだろう。
一瞬、世界を進める時間の中で、自分ひとりだけが取り残されたような気がした。
周りの音の
【気にしてはならない】
彼女の
【すぐに確認しなくてはならない】
彼女の
二つの本能がせめぎあう中、ルルはゆっくりと、ゆっくりと
ムーの顔が見える。相変わらず、何を考えているのか
ムーの胸が見える。口から血を流した熊をあしらった、ファンシーな
ムーの腹と、ベッドの奥の壁が見える。ポスターの一つも
ムーのベルトが見える。
ムーの
ここまでは、いつもと何一つ変わらなかった。
ここまでは、確かに日常だった。
今なら引き返せる。そう思っても、ルルの
ベッドの下へ、ベッドの下へと向かって静かに
そして────
最初に見えたのは、
──いる。
それだけで、ルルは確信する。
──いる……
──いる。
──いる!
──ベッドの下に──何かが……ッ!
彼女は目を見開いて、ベッドの下に広がる
そこに存在したのは、れっきとした人間の全身だった。
男だというのは、そのゴツゴツとした体格からひと目で
しかし幸いな事に、男の目を含めた顔の
そして……彼女ははっきりと見てしまう。
男がうつぶせになっているその横に、鈍い色を放つ、赤い
──ベッドの……ベッドの下に、斧を持った……斧を携えた誰かがいる!
ルルの全身に電気が走り、彼女の体は
ムーはそんな彼女の
少女の目から見て、ムーはいつもと変わらない日常の中に溶け込んでいた。
だが、今の自分は日常から完全に
ベッドの下にいる『存在』に気付いてしまった瞬間から────
それから後は、ルルは
ベッドの下の
ムーが住む広い洋間のあるアパート。
楽しい一時を過ごす
窓が遠い。
窓もドアも、なんと遠いのだろう。
外の世界が遠く感じられる。
冷房の風が背中を
──え……。
──……誰!?
最も単純にして、最も重要な疑問。
気のせいなのではないか、目の
ピクリとも動かない男を見て、ルルは静かに視線を上げていった。
そこでは、ムーがいつも通りの日常のままに存在して、ルルに向かって何気ない笑顔を浮かべていた。
その笑顔が、ルルの恐怖を
彼女が何より恐れたのは、男がベッドの下に存在しているという『事実』であり、その時点でルルは既に生命の危機を感じているのだ。
自分が未だに悲鳴をあげていないのが不思議なぐらいだったが、ルルは冷静な
彼女は天井に目を移しながら、数秒の間に自分達がおかれている事態を把握しようとする。
ベッドの下の男が何者なのか、ルルはすぐに思い当たる事ができた。
──さっき、ニュースでやってた───
この付近に現れた、正体
冷静に考える事によって、ルルの中には先刻までとは違う恐怖が
『
──どうしよう。現実なの? これは本当に現実なの? どうして、どうしてよりによって私達のところに……っ!
ルルは、それでも冷静な心を保っていた。まだ夢かもしれないというかすかな希望が残っていたからだろうが、その冷静さが、かえってここが現実であるという事を確信させる。
悲鳴を上げてしまおうか、すぐに立ち上がって逃げるべきだろうか。
殺人鬼はベッドの下だ、
──本当に、できるだろうか。
自分がここで悲鳴を上げたとして、
腰を抜かしたりはしていないだろうか。悲鳴を上げることによって、パニックに陥ったりはしないだろうか。
──何より、ムーはどうなるだろう。私の悲鳴を聞いただけで、あるいは『逃げて』と叫んだだけで、すぐに動いてくれるだろうか。
ベッドの下から、殺人鬼が這い出すより前に。
そもそも、アパートのドアから逃げたとしても、どこまで逃げればいいのだ?
この付近には交番は無く、
付近は
もしも、もしも殺人鬼の足の方が速かったら。
そこまで考えて、ルルは自分がうかつに悲鳴を上げなかった事に
──
そうも考えたが、もしも文字を書いている途中で『なにを書いてるの?』とでも問われたら大変な事になる。
何とかして、ベッドの下の殺人鬼に
「? どうしたの、ルル」
先刻から
「え? ああ、うん。なんでもないよ。ちょっとボーッとしてただけ!」
「……そう」
ルルは呼吸を整えながら、今後自分がしなければならない事を考える。
──とにかく、殺人
ベッドの下に



