としれじぇ ジャンル《都市伝説》 ④
──ムーは、私を外に出さないように────いえ、逃がさないようにしている……!?
★
ルルは叫び声をあげて問い詰めたかったが、そうすることはできない。
現実問題として、彼女達と同じ空間には殺人鬼がおり、今も自分達の会話に聞き耳を立てているかもしれないからだ。
つまり、あまり積極的に外に連れ出そうとすれば、それはそれで殺人鬼に怪しまれてしまう事になるだろう。
しかし、それ以前の問題が
ムーはどうやら、自分を外に出したくはないらしい。
──だけど、どうして!?
何故、ムーが自分を外に出そうとしないのか。女性と一つ屋根の下になって
──どうして今日に限って! 何が、何が違うの!? 今日に限って、私と彼の間の何が違うっていうの!?
ルルは
そして、一つの簡単な答えを導きだした。
──ある。あるよ。今日、いつもの私達と違うところが!
彼女はその『
いつもと違う
────それはまさしく、ベッドの下の殺人鬼そのものだ。
だが、だからどうしたというのだ。
もしもムーがベッドの下の存在に気付いたというのならば、ルルと同じく何とかして外に出ようとするのではなかろうか。まさか、自分達がいなくなった後に部屋を
一つだけ可能性があるとするならば……
──ムーは、最初から知っていた?
──ベッドの下に、殺人
自分で導き出したその考えに、ルルはますます混乱した。
「あ……夕飯、俺が作るよ」
ムーはそう言って台所に歩み始める。まるで今の不自然な行為を
その間に、ルルは再度ベッドの下へと目を移した。やはり座った高さからでは殺人鬼の
──だけど、もしも──もしもムーが最初からベッドの下に男がいる事を知っていたんだとしたら? そして、ベッドの下の殺人鬼も、その事を知っているのだとしたら?
ムーと殺人鬼はグル。そんな嫌な想像が頭をめぐる。
だが、その理由が
そこでふと、彼女は更に嫌な想像をする。
自分は先刻、ベッドの下に男が存在している事を確認した。
だが、それだけだ。
その男が起きていたのか寝ていたのか、そもそも、生きているのかどうかも確認していない。
──もしかしたら。
彼女の想像力は一人歩きを始め、そして一つの推理を導きだした。
──もしかしたら、あのベッドの下にあるのは死体なのではなかろうか?
ムーが死体を
──だから、彼は私の口を封じようと!?
しかし、それでは
どうして殺人
どうして
どうして
どうして
ルルの頭の中で、様々な疑問が浮かび上がっては消えていく。新しい疑問が浮かぶたびに、直前までの疑問は全て無かった事になる。
どうして
どうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして────
彼女の目的は、無事にムーと二人でこの部屋から逃げる事だった。
だが、今は違う。この状況を正確に理解する事こそがルルにとっての使命であり、それが成されれば全て解決すると思っていた。
そして、彼女は一つの推理に
──そうか。
ベッドの下の男を見て
だが、確かに彼女は混乱していたのだ。だからこそ、彼女は導きだしてしまった。
ありえない結論を。
──そうだったんだ。それなら
誰も幸せにならない答えを。
──あのベッドの下の『死体』は、加害者じゃない、殺人鬼じゃない。被害者だったんだ!
恐怖と混乱で
──あの
──斧を持った殺人鬼は、ムーだったんだ!
★
友達以上、恋人
ルルにとって、
だが、それはあくまでルルの
もしかしたら、彼は自分のことをまったく違う目で見ていたのではないだろうか?
彼女として?
友達として?
それとも──獲物として?
ルルは、それを確かめたかった。
ムーが自分を外に出そうとしないのは、これから自分を
今までのムーとの日々は、全て
偽りではないのだとしたら……
──もしかしたら。
好きになったから、本当にムーが自分の事を好きになってくれたからこそ、自分を
殺人
自分はまだ死にたくないし、殺されたくもない。もしもムーが自分を殺そうとすれば、ルルは全力で逃げようとするし抵抗もするだろう。
だが、自分がどうして殺されるのかは知っておきたかった。
それに、希望はある。
今までの推理が全くの
──私は、どっちを望んでいるんだろう。
自分は、本当はムーにどうあってほしいのだろうか。『いままで通りが一番いい』という言い訳は通用しない状況だ。
──恋人でも友達でもいい、私はただ、ムーと一緒にいたかっただけなのに。
嫌だ、ムーが殺人鬼だなんて結論はやっぱり嫌だ。それだけは絶対に絶対に嫌だ。
──そうだ。彼が私と一緒に逃げてくれれば──ムーは殺人鬼じゃないって証明できる。
彼女はその思いを確かめる
もっとも恐怖に
ルルは台所で野菜を切っているムーを振り返ると、そのまま静かに立ち上がった。
彼女の気配に気付いたのか、ムーも
「……どうしたの? ルル」
「ねえ、ムー。私の事、好き?」
「へっ!?」
突然の問いかけに、ムーは思わず包丁をまな板の上に落としてしまう。
「ど、どうしたのさ、急に」
「答えて」
真剣な目をするルルに、ムーは首を
「お前、今日おかしいぞ?」
「おかしいのはムーの方だよ!」
そう叫びながら、ルルは自分でも
だが、理不尽でこそあれ、
ムーが今日おかしいのは事実であるし、彼女に疑わせるような行為を続けてきたのは確かな事なのだ。



