○一章 ⑤

「わあ、びっくり」


 棒立ちした姿勢をまったく崩さず、若菜はおっとりと己の感情を述べた。

 双子だけあって春奈と彼女は似たような力を持っている。物理的にも精神的にも最強の不可視シールドを自分の周囲に張り巡らせる能力。防御力なら春奈より上だろう。ただしまるっきりこうげきには使えず、これはひょっとしたら性格的なものかもしれない。

 何にせよ、僕の双子の妹にはどのような攻撃も無効であるのは変わりないので心配することもないのだが、死神野郎もけっこうしつこいやつのようだ、今度は僕に刃先を向けやがった。

《なにこいつ》


 ぼやっとしたはるの腕が僕の首に絡みつく。

《どっかいっちゃえ》


 春奈のてのひらりんこうが芽生えたしゆんかんかまを振り上げた体勢のまま死神の影法師はえらい勢いで後方にすっとんだ。まるで十トントラックと正面しようとつしたような案配だ。天井と言わず床と言わずバンバンぶち当たりながら影が跳ね、ちょうど廊下の真ん中、渡り廊下と直行するあたりでようやく停止、寝ていればいいものをまたフラリと立ち上がり、


「ああうっとうしい」


 横から飛んで来た無数の蛍火が身体からだの半分に次々とさくれつ、死神は無言の舞踏をろうするように踊り狂い、しかるのちにばくはつした。

 空中に墨汁をぶちまけたような断片がバラバラにされたジグソーパズルのごとく散っていき、溶けるように消えていく。

 渡り廊下の角から黒衣の少女がひょっこりと顔をのぞかせた。みやあいかたこうみようの白面の顔。


「これはこれはたかさきさま一族そろい踏みではありませんか。急いで片づける必要はなかったかもしれませんわね。なにせあなた方ときたら、もう腹立たしくなるくらい無敵なのですもの。まったく張り合いがないときたらありませんわ。おまけに兄はぼくねんじんで妹はしつぶかゆうれいぼうようたる天然娘と二種類、ええ、あなた方を見ていると無性に腹部がよじれるような気がするのはなぜなのでしょうか」


 腰に片手をあてがい、ポーズを取るような姿勢で優美なようぼうを笑みに形作っている。その挑みかかる印象の唇に対抗するつもりか、僕の横の春奈もこうげき的な形に口を変化させた。


「茉衣子ちゃん、ありがとう」


 にこやかにわかは茉衣子の手を取ってぶんぶんと振った。


「格好いいなあ茉衣子ちゃんは、いつもこうやってあの変なのをやっつけてるんだよねすごいなあ、すごいすごい」

「こ、このくらい何でもないことですわ。あなたに賞賛されてもちっともおもしろくありません」


 なぜかたじろぎながら茉衣子は若菜の手を振りほどき、そしてこれまたなぜか僕をジロリと見やってから決まり文句。


「ではごきげんよう」


 言い残して立ち去った。長い黒髪が廊下の角で振られて、すぐに引っ込む。去り際だけはやけに決まっている奴だ。


「うーん……つれないなあ茉衣子ちゃん。毎月頭を切らせてあげてるのにぃ。あっ、兄さん。あたし次の授業に出ないとちょっと単位苦しいの。じゃあ、またね」


 あちこち斜めになった髪の毛をふりふり、わかはとことこと退場。正直ホッとして僕は教室に戻りかけ、それから思い出した。

 生徒会長室だったか?

刊行シリーズ

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学校を出よう!(5) NOT DEAD OR NOT ALIVEの書影
学校を出よう!(4) Final Destinationの書影
学校を出よう!(3) The Laughing Bootlegの書影
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