第1話 …俺ぇ!? ②

 むすっとした顔で、俺に注意する

 厳しすぎる気もするけれど、彼女の言うことの方が正論だ。

 確かに、ルール破るのはよくねえわな。

 ちなみに、の着てるフーディも、我が校では校則でOKとされている。こいつはそういうとこ結構なのだ。

 なおに謝ってから、俺はカウンターの中からかばんを拾い上げ、


「……おし、四時半回ったしそろそろめるか」

「そうですね。行きましょう」


 うなずき合うと、俺たちは図書室を入念にまり。かぎを返すために職員室へ向かったのだった。


       *


「──失礼しましたー」


 キーボックスにかぎを返し、職員室を出る。

 人気のないろうを、と並んでしようこうぐちへ歩く。

 窓から外を見ると、校庭では野球部が練習道具の片付け中。

 彼らの頭上に続く空は、うすい青からオレンジ色に変わっていくところだった。


「……しかし、貸し出しマジで早いよな」


 ふと思い立って、俺はとなりの彼女に声をかけた。


「委員会入って半年なのに、時間までに終わったし。俺だったらまだけてなかったわ」


 ビビるほど早いのだ。

 機械みたいに正確な処理。がなくばやい手つき。

 すでにそのスキルは、図書委員歴一年半になる俺を大きくえている。もはや職人芸レベルだし、動画にしてネットに流したら海外でバズるんじゃないかとさえ思う。「Amazing Japanese school girl(in Library)」みたいな。

 けれど、


つうですよ」


 は何食わぬ顔でそう言う。


な動きをしてないだけです。むしろせんぱいおそいんです」

「そうか?」

「バーコード読むときていねいすぎですし、表紙じっと見たりしてますし。あと、時々借りに来た人に声かけてるじゃないですか。あれ、やめた方がいいですよ」


 言い合ううちに、しようこうぐちについた。

 くつえながらも、俺はいまいちなつとくがいかなくて、


「えー。でも、気になる本借りてく人に、声かけたくならない?」

「なりません。そもそも、図書室は私語厳禁です。わたしたちがそれを破ってどうするんですか」

「まあ、それもそうだけどさあ」


 しようこうぐちけ、ふんすいの前を通り過ぎる。

 正門を出て、住宅街の道を駅前の方に向かう。


「……というか、せんぱい?」

「ん?」

「いつまでついてくるつもりですか?」

「……え、だって、家二丁目の方だって言ってたろ? 俺もそっちだし、せっかくだからその辺までって思ったんだけど」


 俺の家は三丁目、はそのとなりの二丁目。割とご近所さんのはずなのだ。多分、徒歩十分かからないくらい。全然知らなかったけど、小学校中学校もいつしよだったっぽい。

 なら、一人さびしく帰るより、二人でばなしでもしながら帰るのがいいだろう。これまでなんとなくバラバラだったけど、そういう日があってもいいんじゃないか。

 そう思って、何の気なしにとなりを歩いていたのだけど──、


「……あのですね」


 はふいに立ち止まり、こちらをかえる。


「わたし、一人で帰りたいんです」

「……えー」

「色々考えたいこともありますし、静かなのが好きなんです」

「んん……。でも、もう少しくらい話してもよくないか?」

「なにを?」

「それは、そうだな。ほら! 好きな本のこととか?」

「好み合わないじゃないですか、わたしたち」

「まあそうだけど。の好きなやつ、俺全然わかんなかったけど……」

「逆にわたしは、せんぱいが好きな本はライトすぎだなと感じますし。だからすいません、ここまでで」

「はあ……」


 そこまで言うなら、いもできないか……。

 こっちも別に、絶対いつしよに帰りたい理由があったわけでもないしな……。


「わかったよ……。じゃあまあ、気をつけて。また来週な」

「ええ、また来週」


 ぺこりと頭を下げ、さっさと歩き去る

 その背中をながめながら、なんだかねこみたいなやつだなあと、俺はもう一度ため息をついたのだった。


       *


「──ただいまー」


 と別れ、家にとうちやくし。

 げんかんくついでいると、妹がリビングから出てくる。


「お帰りー、おそかったね、お兄」

「うん、図書委員あったから」

「そっか、今日水曜日かー」


 のんきに言いながらこちらをのぞむ妹──長谷川はせがわ

 がらよりも一層小さな身体からだ

 短めのかみを両サイドでくくり、俺とよく似た顔をじやにこちらに向ける彼女。

 ……まあ、似てるのはパーツだけなんだけどな。全体はちゃんと女の子な印象だ。むしろ、兄から見ていても「かわいいじゃん」と思うあいきようが、こいつにはある。

 ……人間って不思議だな。細部が同じでも、トータルの印象が全然別になるんだから。まあ、その中身はまたひとくせふたくせもあって、あいきようやかわいげだけって感じでもないんだけど。

 と、俺はふと思い付き、


「ていうか、聞いてくれよー!」


 ろうを歩きつつに切り出した。


こうはいがすげえ冷たくて。色々話しかけても塩対応でさー」

「へー。お兄がしつこくからむからじゃないの?」

「しつこかったかもしれないけど。でも、同じ図書委員同士、しんぼくを深めてもいいだろ?」

「ふん……」


 うなずくと、はちょっと考えるような顔をしてから、


「……ていうかその子、女の子?」

「そうだけど」

「じゃあしかたないよ。そういうとこで甘い顔見せると、かんちがいして言い寄ってくる男子、結構いるし」

「そうなのか。そんな、帰り道話すくらいで……」


 ……なんて言いつつも、まあでも好みの女子といつしよに帰ったら、かんちがいもするかもな。

 俺も片思い相手と二人で下校ってなったら、結構はしゃぐ気がする。そんな経験一回もないけど。

 ……あれ?

 でも、なんではそんなこと知って……、


「……え、ていうかも、言い寄られたりするの!?」

「もちろん。結構モテるからね、わたし」

「マジかよ……!」


 ……!

 ついこの間まで、ただの女子小学生だったのに!

 日アサが好きでこいとかえんの、じやな子供だったのに!

 いつの間にそんなに大きくなったんだ……!

 ……けどそうか、ももう中学二年。

 兄の俺から見てもかわいいのだから、いろこいのひとつやふたつあるか……。


「でもご心配なく。全部上手にあしらってるから」


 思考が顔にダダれだったのか、はそんなフォローまで入れてから、


「でね、わたしでもそんな感じだから、すごい美人だったりするともうヤバいんだよ。もしかしてその子も、きれいな子なんじゃない?」

「……言われてみればそうだな」


 あんまり意識したことがなかったけれど、は美人だと思う。

 顔立ちは整っているし制服の着こなしもおしやなわけで、好意を向けられていてもおかしくない。

 ただそうなると……、


「そっか、じゃああいつも、男子にしつこくからまれた経験があるのかな……」

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恋は夜空をわたって2の書影
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