第1話 …俺ぇ!? ④

 自分にはこんなことできないし、経験も積んでいるんだろうと思う。

 、こういう風にしゃべれたんだな。さらさら流れるみたいに……。

 それに……、


「うわ、もう二百人……。これ、相当人気じゃね? 高校生でこれだけ集められるって、マジですげえんじゃないのか?」


 俺はそこそこ、生配信を見る方だと思う。

 有名YouTuberもVTuberも好きだし、音楽系の配信を見るのも好きだ。

 そういう大手やプロの配信者にはおよばないけれど、つうの女子高生であるが、二百人を前にして話をしているんだ。一クラス四十人と考えれば、なんと合計五クラス分の人間が、彼女の話を聞きに来ていることになるわけで……。

 ……いやマジですげえよ。

 有名人じゃん、……。

 そして──気になることがもう一つ。


「……好きな人、いたのか……」


 ……そうだ。

 放送の中で、サキがさらっと言っていたこと。

 この春好きな人ができた、という話。


「……全然、気付かなかったなあ。どんな男子なんだろ」


 背もたれに体重を預けて、俺は考えてみる。


は、どんなやつを好きになるんだろう。俺の知ってるだれかか……?」


 一応、共通の知り合いは何人かいる。図書委員の面々や、関わってくれている先生たち。

 だけど……うーん、特にそんな感じのやつはいなかった気がするけどな。

 だれかを好きっぽい感じには、特に見えなかった。


『──ということで、さん、お便りありがとうございました。ごととは思えなかったですね。好きな相手に、ひどいこと言っちゃうとか……』


 配信の向こうで、ちょうどサキも自分のこいの話を始める。


『あの、わたしも今日、それで失敗しちゃって……』

「あはは、、好きな人にまできつい態度なのかよ。相手も災難だなあ……」


 思わず、一人部屋で笑ってしまう。

 なんとなく、そのシーンは想像できる気がした。が相手を好きなあまり、ひどいことを言っちゃうシーン。

 ……うん、やりそうだ。

 あいつなら、好きな相手にそういうことしでかしそう。


『はあ……なんでわたし、断っちゃったんだろ』


 スマホの向こうでは、相変わらずサキが自分の失敗をなげいている。


『あのとき、なおせんぱいさそい、乗ればよかった……』

「ん……?」


 ──そのセリフに。サキの言葉に、俺はひっかかりを覚えた。

 ……せんぱい

 ……さそい?

 なんだか、身に覚えが……。

 そして──みような予感を覚える俺に。

 まさかの展開の予兆を感じ取り始めた俺に──。

 サキは、しのようにこう続けた。



『──せっかく、いつしよに帰れそうだったんだけどなあ……』



 ……いつしよに、帰る……。

 ……せんぱい……さそい……。


 ……つまり、それって……。


「──俺ぇ!?」


 ──そうさけんだ俺の声は。

 深夜の自室に短くはんきようして、消えていったのだった──。

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恋は夜空をわたって2の書影
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