第2話 絶対に炎上します ②

「今のがさぐり。ただのかんだよ、こうはいでしょって言ったのは」

「マジか……!」

「こんなのにひっかかるお兄が、難しい『ちゃん』をゆうどうできるのか……先が思いやられるね」


 食器を片付け終え、がリビングを出て行く。


「まあがんばってー」

「が、がんばります……」


 うなずきながらも、俺は自分のマヌケさに。身をもって知らされたきの下手くそさに、激しく不安を覚え始めていたのだった──。


 ──そして後に。

 その不安は、残念ながら見事的中することになる。


       *


「──で、今日は、仕事のりどうする!?」


 図書室内、カウンターにて。

 荷物を置いて一息置いたところで、俺はにそう切り出した。


「どっちが貸し出しやる!?」

「声大っき……」


 まゆを寄せている

 やべ、声量調整ミスってたらしい。ボリュームひかえめでしゃべるようにしよう……。


「……えっと今日は、たにざき先生から、二人でブックカバーをかけてほしいと言われています。準備室ににゆうした本が結構来ているので、それを全部」

「ああ、そうなんだ……」


 ──ブックカバー。

 これはつまり、図書室にかけられていがちな、ビニール製のカバーのことだ。

 本屋の紙のカバーじゃなく。もうしよせき自体にけちゃうやつ。

 これまでも何度もやってきた、図書委員お決まりの仕事の一つだ。


「でも、その間カウンターは?」

たにざき先生がやってくれるそうです。もうすぐ来るらしいので、わたしたちは作業始めちゃいましょう」


 ……ふん、そうなると、作業中がチャンスになりそうだな。

 先週の配信。あれがのものだったのかさぐるチャンス……。


「おう!」


 勢いよくうなずくと、相変わらずちょっとめいわくそうな顔をするとともに、カウンター奥の準備室に向かった。



 ──本のサイズに合わせて、ビニールカバーを切る。

 切ったカバーの真ん中に折り目をつけ、はくみぎはしを少しがす。

 その上にしよせきを置き、はくがした部分をしっかりけ。

 そこを基点に、少しずつ表紙全面にビニールをけていく。

 そんな作業をかえしながら──俺は、思いのほかテンパり始めていた。

 ……気まずい!

 と準備室で二人、無言で作業をするのがあまりにも気まずい!

 これまでだって、何度もこういうシチュエーションはあったんだ。それでも、あんな配信をいてしまった分、今日はめちゃくちゃドキドキする。

 ……いや、そんなこと言ってる場合じゃない!

 俺は、サキがだというしようつかまなきゃいけないんだ!

 なんでもいい、話しかけよう……!

 とにかく、会話の糸口を見つけるんだ!


「……あ、あのー」


 勢いで、まずはそう口に出してから、


、やっぱカバーかけも早いな。俺よりもう、全然ぎわがいいっていうか……」


 そう、めちゃくちゃ早い。手慣れているし精度も高い。

 作業後にチェックしてくれる先生からの評価も上々だ。

 まずはこういう、がいい気分になりそうな話題から入っていこう。

 けれど、彼女はこちらに視線も向けず、


「だから、せんぱいおそすぎるんですよ。迷うと空気も入りやすいですし、さっさとやるのが一番なんです」

「……そうだよな。勉強になるわ……」

「……」「……」


 ──しゆうりようした。

 いつしゆんで会話がしゆうりようした。

 ダメだ! なんもわかんねえ! 次の話題!

 俺はムムム……と一人なやんでから、


「……はさ、食べ物はなにが好き!?」


 今度はそんな風に切り出した。


「和食と洋食だったら、どっち派!?」


 よし! かなり広がる話題を思い付けたぞ!

 これならきっと盛り上がって、いい感じに話を配信につなげられるはず!


「……どっちかっていうと、和食派ですけど。でも、アボカドはすごく好きです」

「ああ! アボカド! うちの妹も好きだわ、あれ!」

「へえ、妹さん、いるんですね」

「うん、一人、いる……」

「そうですか」「……」「……」


 ──しゆうりようした。

 またもやいつしゆんしゆうりようした。

 ダメだ……の口数が少ないのもそうだけど、こっちも意識しすぎてる!

 なんか、つうみたいに会話を回せねえ!

 でも、これで引き下がれねえぞ! こうなったら回数で勝負するしかない!

 なのに、


「……その、は──」

「──なんなんですか? さっきから」


 顔を上げた。

 作業に集中していたが──うっとうしそうに顔を上げた。


「不自然に話しかけてきて。雑談してるひまはないですよ。さっさと終わらせましょうよ」


 や、やべ!

 さすがに不自然だったか!


「あ、いや……じゃあ、あと一個! あと一個だけ、聞かせてほしいんだけど……」

「なんですか?」

「えっとー、その……」


 は、視線を落とし作業の続きに入る。

 けれど、全身から発せられている「これが最後だぞ」オーラ……。

 ぐう……こうなったら、もう遠回りはできない。

 これまでよりも直球で、質問をするしかない……!

 俺は小さく深呼吸してから、


って……ネットとか、やる?」

「そりゃ、人並みには」

「じゃあ、SNSとかも結構やったり?」

「その辺は苦手ですね。アカウントこそ作りましたけど、放置してます」

「へえ……。なら、その……」


 そう前置きし。

 俺は心臓がバクバクいい始めるのを自覚しながら、


「……配信とかは、興味ある?」


 そんな風に、大きくんでみた。

 ここまでやれば……に変化があるかもしれない。

 表情やこわいろに、どうようが走るかもしれない。

 けれど──、


「時々見ます」


 返事は、思いのほかあっさりしていた。


「読書してるときに、チル系のインストの生配信をかけたり。あとは、夜の高速道路の景色とか、夜行列車の車窓を流しているような配信も好きです」

「あー、そういうの……」


 見てそう。確かに、そういうの見てそう。

 それに……思いのほか冷静だな。サキが本当になら、もうちょっとどうようしそうな気がしてたけど……。

 ……もっとめてみるか。

 これまでより直接的に。相手にさる形で──。


「ちなみに……」


 言って、俺はごくりとつばを飲み込んでから、


「……自分で、配信、やったりとかは……」


 ──かくしんだった。もはや、疑問のかくしんれていた。

 ここまで来たら、成果なしのままでなんて終われない。

 こんなにみ込めば──さすがのもうろたえるはず!


「……わたしが?」


 彼女、こちらを見て首をかしげる。


「しそうに見えますか?」

「まあ、見えないけど」


 ……いつも通りだった。

 本当に、まったくもっていつも通りのだ。こわいろにも態度にも変化はない。

 あれ……マジで? マジで全然、どうようしてなくね……?

 あの配信……本当にじゃなかったのか? サキと、ただの他人のそら似だったのか……?

 そして……俺は気付く。

 むしろ、こっちが変なことを言ったみたいなふんになってることに。

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恋は夜空をわたって2の書影
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